「居住要件を満たしてないけど立候補します」&「自分には投票しないで」得票数ゼロが2人いた奥多摩町議選に迫る

2019年11月17日に投開票が行われた奥多摩町議会議員選挙では、驚くべきことにほそや秀秋氏とおくざわゆうや氏2人の候補者の得票数が0票と記録されました。今回はなぜこのようなことが起きたのかということを中心に紹介します。

今回も居住要件を満たしていない立候補だった

得票数0票は誰もその候補に投票しなかったというのがありますが、これ極めてレアケースです。記録されている得票数0票の大半は候補者が様々な事情で立候補の資格(被選挙権)がないことが判明し、その候補者の得票が全て無効となった場合です(拙記事「これが真のぼっちなのか!立候補したのに誰も投票してくれなくて0票という事が本当にあった」を参照してください)。

今回の奥多摩町議会選の2人の場合もこの被選挙権がないというものでした。これは2人とも地方議会選の居住要件を満たしていないため、被選挙権なしとして、得票数0票となったのです。地方議会選の居住要件とは、ある一定期間、その自治体に住む必要があるというものです。具体的には都道府県議会選の場合、3カ月以上その都道府県内の同一の市区町村に住所がある必要があり、市区町村議会選の場合は、3カ月以上その市区町村に住所がある必要があります。さらに、厳密にいえば、実際にその場所に居住している必要があります。これは地方議会選の被選挙権を得るためには、その選挙の選挙権がある必要があるからです。

驚くべきことに被選挙権を得るためにはこのような居住要件があるにもかかわらず、公職選挙法では立候補届出において、住民票を提出する必要がありません。さらには立候補後に居住要件がなく、被選挙権がないことが判明しても、現在の法令では被選挙権がないことを有権者に周知したり、立候補を却下することはできないことになっています(ただし、公民権がないなどの場合は立候補を却下できます。詳しくは拙記事「被選挙権がないのに立候補し、票が無効に! なぜ立候補却下できなかったのか、その理由を解説」を参照してください)

このような居住要件を満たしていないにもかかわらず、立候補ができ、さらにはそれが却下できないということは長らく問題となっていませんでした。しかし、今年の4月ごろから「NHKから国民を守る党」が組織的に居住要件を満たしていない候補者を立候補させるなど、最近ではこのような事例が増えてきたため、この居住要件を満たしていない立候補はにわかに問題化しています。このため、立候補時に提出する宣誓書に記載した住所が虚偽であった場合、罰金と公民権の一時停止という罰則を設けることが現在、検討されています。

以前も居住要件を満たしていないのに立候補したことがあるほそや秀秋氏

ほそや秀秋氏の選挙公報(左:日の出町議選、右:奥多摩町議選)

今回の奥多摩町議会選で居住要件を満たしていなかったほそや秀秋氏は、以前も居住要件が満たされていないにもかかわらず立候補して得票数0票となったことが記録されています。この選挙は2019年8月25日に投開票が行われた東京都の日の出町議会議員選挙でした。この日の出町議会選のときの選挙公報には居住要件を満たしていないと地方議会選への立候補ができないという現行の選挙制度に疑問があると主張し、「私も被選挙権が無いので私の考えに共感する方だけ賛同してください」と自身に被選挙権が無いことを記載している特異なものとなっています。このような選挙公報であったにもかかわらず、驚くべきことに33人の有権者はほそや氏へ投票したことが記録されています。
このようにほそや氏は自身に被選挙権がないことを日の出町議会選の選挙公報に記載しました。しかし、今回の奥多摩町議会選の選挙公報では、居住要件制度を変えたいと主張はしているものの、自身がそれを満たしていないということを記載していませんでした。なお、今回、ほそや氏に投じられた票は6票という発表がされています。

自分に投票しないようにと訴えていたおくざわゆうや氏

同じく居住要件を満たしていないにもかかわらず立候補したおくざわゆうや氏ですが、こちらは選挙公報を提出していませんでした。しかし、演説において、居住要件を満たしておらず、被選挙権がないので、自分に投票しないようにということを述べていたことが本人のYouTubeより確認されています。また、おくざわ氏は視覚障害者であり、視覚障害者が立候補することのハードルの高さといった視覚障害者の問題を訴えていたことも確認されています。なお、このおくざわ氏に投じられた票は2票という発表がされています。

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