決勝レースすべてポール・トゥ・ウイン。ミカエル・ヒザルがFIAグランツーリスモ選手権の新王者に【大串信の私的レポート】

 2019年FIAグランツーリスモ選手権ワールドファイナルに向けて、2018年のネイションズカップワールドチャンピオンであるブラジル代表イゴール・フラガは万全の調整を進めていた。

 シリーズ第2戦ニュルブルクリンク、第3戦ニューヨークと連勝してワールドファイナル進出を決めたあとはネイションズカップへ出走せず、自身のリアルレース活動を展開しながらワールドファイナルに焦点を当てた練習に集中したのだ。

 今年もモナコには18カ国・36名の選抜選手が集まった。フラガの対抗馬は、今シーズン安定した速さを示しシリーズ第4戦ザルツブルグで初優勝を遂げたドイツ代表ミカエル・ヒザル、第5戦東京で初優勝を遂げた日本代表國分諒汰、そして速さは誰しも認めるものながら未冠のままでいるオーストラリア代表コディー・ニコラ・ラトコフスキー、シーズン後半速さと奇策で一気に注目選手となった日本代表宮園拓真という強豪たちである。

FIAグランツーリスモ選手権ワールドファイナル in モナコの会場

 ところが36人からファイナルレース進出12名を選抜するセミファイナルA組レースで大番狂わせが起きた。

 最初のレースをヒザルに続き2番手からスタートしたフラガは悠々上位で勝ち抜くはずだったのだが、なんとスタート直後の1コーナーでコースを踏み出し、コントロールを失ってコースオフ、最後尾へと順位を落としてしまったのだ。

 その後必死に追い上げをするが届かず、結果は敗者復活戦にも届かない10位。絶対の自信を持って臨んだフラガではあったが、痛恨のミスで早々に王座争いから脱落が決まったのだった。

準決勝で敗者復活戦に残ることもなく敗退したイゴール・フラガ。ほんの少しのミスが大きな命取りに

 また、セミファイナルB組レースでは國分がバトルの過程でコースから押し出されて最下位で終わり敗退、やはり決勝進出12名に残ることができなかった。

 万全の準備をしていたフラガ、前回優勝して勢いに乗った國分ですら重圧の前にわずかなミスを犯しライバルに押しのけられる。FIAグランツーリスモ選手権で繰り広げられる戦いの激しさ、レベルの高さを今さらながら見せつけられる大波乱であった。

 一方、このセミファイナルA組を予選タイムトライアルからポールポジションでスタート、ベストタイムを記録してトップ通過したのがヒザルだった。

 来年は学業のため選手権出場が難しくなりそうだというヒザルもまた、このワールドファイナルに賭けていた。学業の合間をすべて練習に使って徹底的に走り込み、この週末に備えていたのだった。

ドイツのミカエル・ヒザル。まだ20歳の若武者は日本語も学んでいる

 セミファイナルを勝ち抜いた精鋭12名が出走するネイションズカップ決勝は、それぞれのレースでポイントが獲得できるレース1、レース2、レース3およびダブルポイントのグランドファイナル、計4つのレースで行われ、総合獲得ポイントによって順位を決定する仕組みである。

 TOP12予選の結果、ファイナルレース1のポールポジションにはヒザルがつけ、2番手にはやはりあの男、ラトコフスキーが続いた。ニューヨーク大会で批判を浴びたラフなドライビングを反省し、スタイルを切り替えてシーズン後半はクリーンな走りに切り替えながらも、その速さは健在でセミファイナルB組レースで優勝を遂げていた。

 そして3番手にはセミファイナルC組レースで優勝を遂げた日本期待の宮園がつけた。その天性の速さは今や誰もが認めるものである。

■ライバルたちに付け入る隙を与えないヒザルの走り

 こうして迎えた決勝戦、レース1はニッサンMOTUL AUTECH GT-R’16でモンツァ、レース2はダラーラSF19スーパーフォーミュラ/トヨタでヘビーウエットコンディションのスパ・フランコルシャン、レース3はマツダLM55ビジョン・グランツーリスモでサルト・サーキットのシケインなし旧コース、そしてグランドファイナルはレッドブルX2019でインテルラゴスと続いた。

ウエットコンデションのスパ・フランコルシャンを走るスーパーフォーミュラSF19

 なんとこの4レースすべてをポール・トゥ・ウインで完勝したのがヒザルだった。

 今回ヒザルはライバルがつけ入る隙のない週末を過ごした。追いすがるラトコフスキーを押さえ込み、危なげないレースを展開して終始トップの座を守り続け、まさにパーフェクトウインを遂げたのである。ヒザルはこれで今シーズン2勝目、ワールドタイトルは初めての獲得である。

ファイナルレースでチェッカーを受けるミカエル・ヒザル駆るレッドブルX2019
ファイナルレースをフィニッシュした瞬間雄叫びを上げるミカエル・ヒザル

 ファイナル4レースの結果、2位には今回も粘り強く安定した速さを見せたラトコフスキーが入賞した。3位にはレース3で接触からのペナルティで7位へと順位を落としながらしっかりポイントをかせいだ宮園が食い込み表彰台に上がることとなった。

 日本選手がワールドファイナル大会のネイションズカップで表彰台に上がったのは初めてのこと。次世代の日本のエースとしての座をさらに固める結果となった。

2019年FIAグランツーリスモ選手権ワールドチャンピオンのミカエル・ヒザル(中央)、2位のコディー・ニコラ・ラトコフスキー(左)、3位の宮園拓真(右)

「ワールドチャンピオンになったという実感がありません。これがぼくの目標だったのでレースに備えて身体も絞ったんです。それがメンタル面にもいい結果を及ぼしたように思います。来年参戦できるかどうかわからないので今年に賭けて練習をかなりしました」とヒザル。

 またもや2位に終わったラトコフスキーは「ミカエルとは2013年以来、良いライバルだし良い友人で、グランツーリスモファミリーの仲間なので祝福したいです。今回はクリーンなレースを心がけました。もっと練習して来年こそはチャンピオンになりたいです」とコメント。

 そして上位の常連になった宮園は「バトルのなかで、攻めるべきところ、引くべきところがまだわかっていないことを感じました。そこを勉強して出直します」と語った。

 なお、FIAグランツーリスモ選手権ワールドファイナル・マニュファクチャラーシリーズでは、日本の山中智瑛、フランスのライアン・デルッシュ、ブラジルのイゴール・フラガが組んだチームトヨタが、緻密な燃費管理をしながらミスのない“強い”レースをまとめあげて総合優勝を飾り2019年度のチャンピオンとなった。モナコの地に日章旗が翻った。

ワールドファイナル・マニュファクチャラーシリーズを制したチームトヨタ。左からライアン・デルッシュ、山中智瑛、イゴール・フラガ

 2年連続でのネイションズカップ王座を狙い敗北を喫したフラガは「ローリングスタートでどうすればもっとも良いスタートができるかを含め徹底的に練習を重ねて絶対の自信を持ってレースを迎えただけに本当に残念です。わずかなミスで非常につらい結果を招いてしまいました。でもマニュファクチャラーシリーズでチャンピオンになれたので救われました。リアルでもバーチャルでも、もっと強い選手になれるよう頑張ります」と語った。

 こうして激しい戦いを見せた2019年FIAグランツーリスモ選手権ワールドツアーは幕を閉じた。ネイションズカップの新王者となったヒザルと、チームトヨタの山中、フラガ、デルッシュは12月にFIAが開く年間表彰式『FIA GALA』に招かれ、F1やWRCのワールドチャンピオンらとともに表彰を受ける予定だ。

ワールドチャンピオンに贈られるトロフィーと記念撮影するヒザル。ミシュランのドライバー・オブ・ザ・デーも獲得した

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