2019年全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査

 2019年1-11月に「不適切な会計・経理(以下、不適切会計)」を開示した上場企業は64社(前年同期比18.5%増)、案件は67件(同24.0%増)だった。集計を開始した2008年以降、最も多かった2016年の社数57社、案件数58件をすでに11月までに上回り、過去最多を更新した。
 不適切会計の開示は2008年は25社だったが、その後は増勢をたどり、2016年に過去最多の57社を記録した。そして、2019年は1-11月までで64社に達し、1年間の過去最多を塗り替えた。
 2019年1-11月の不適切会計64社の市場別は、東証1部が44社(構成比68.7%)と約7割を占めた。
 内容別で最多は、子会社で不適切会計処理などの「粉飾」が28件(同41.8%)だった。また、経理や会計処理ミスなどの「誤り」も25件(同37.3%)と多かった。産業別の最多は「製造業」で、29社(同45.3%)、次いでサービス業が9社(同14.0%)だった。
 コンプライアンス意識の高まりで適正会計が求められている。金融庁や東証は、ガバナンスのさらなる向上に向け、指針整備を進め、企業側でも確実に履行できる体制作りが求められている。

  • ※本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料を基に、上場企業、有価証券報告書提出企業を対象に「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業、今後影響が出る可能性を開示した企業を集計した。
  • ※同一企業で調査期間内に2回内容を異にした開示の場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
  • ※業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証1部、同2部、マザーズ、JASDAQ、名古屋1部、同2部、セントレックス、アンビシャス、福岡、Qボードを対象にした。

開示企業数 2019年は64社、67件

 2019年1-11月に不適切会計を開示した上場企業は64社で、(株)MTGと(株)すてきナイスグループ、ユー・エム・シー・エレクトロニクス(株)の3社は、それぞれ2件づつ開示した。
 上場企業は国内市場が成熟し、メーカーは売上拡大を求めて海外展開を強めている。しかし、拡大する営業網でグループ会社のガバナンスが徹底せず、子会社や関係会社の不適切会計の開示に追い込まれる企業も少なくない。
 (株)MTGは2019年5月、中国子会社の不適切会計を開示したが、同年11月にも韓国子会社の不適切会計の可能性について開示した。
 企業会計は、当然だが厳格な運用を求められる。だが、経営側に時価会計や連結会計など厳格な会計知識が欠如し、現場で会計処理を誤る事例も生じている。この背景には、会計処理の高度化(能力不足)だけでなく、現場の人手不足も深刻さを増している。この状況を改善できずに不適切会計を開示した企業もある。藤倉コンポジット(株)は中国子会社の不適切会計処理を開示しているが、要因として中国実務に精通する人材不足があったことを理由の一つにあげている。

「不適切会計」開示企業推移

内容別 「粉飾」が最多の28件

 内容別では、最多が「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」で28件(構成比41.8%)。(株)テーオーホールディングスの子会社は、取引先への請求額を水増し請求し、売掛金を過大に計上していたことを8月7日に公表した。次いで、「誤り」では(株)明豊エンタープライズが外部からの指摘で、中国プロジェクト貸付債権に関する貸倒引当金を過年度に遡り実施することを迫られた。
 また、子会社・関係会社の役員、従業員の着服横領は14件(同20.9%)だった。「会社資金の私的流用」、「商品の不正転売」など、個人の不祥事にも監査法人の厳格な監査が表れている。

「不適切会計」内容別

発生当事者別 「会社」が26社でトップ

 発生当事者別では、最多は「会社」の26社(構成比40.6%)だった。会計処理手続の誤りや事業部門での売上の前倒し計上などのケースがあった。
 「子会社・関係会社」は23社(同35.9%)で、子会社による売上原価の過少計上や架空取引など、見せかけの売上増や利益捻出のための不正経理が目立つ。「会社」と「子会社・関係会社」を合わせると49社で、社数全体の約8割(同76.6%)と大半を占めた。

「不適切会計」企業 発生当事者別

市場別 東証1部が44社でトップ

 市場別では、「東証1部」が44社(構成比68.8%)で最も多かった。次いで、「ジャスダック」が8社(同12.5%)、「東証2部」が6社(同9.4%)と続く。
 2013年までは新興市場が目立ったが、2015年から国内外に子会社や関連会社を多く展開する東証1部の増加が目立っている。

「不適切会計」企業 市場別

産業別 最多は製造業の29社

 産業別では、「製造業」の29社(構成比45.3%)が最も多かった。製造業は、国内外の子会社、関連会社による製造や販売管理の体制不備に起因するものが多い。
 サービス業では、元役員や元社員が不明瞭な外部取引を通じてキックバックを行い着服横領したケースなどがあった。

 2019年1-11月までの不適切会計の開示は64社、67件で、いずれも過去最多を記録した。
 2015年5月に発覚した東芝の不適切会計を契機に、監査の信頼性確保が強く求められるようになった事も一因だ。金融庁は2019年9月、監査法人に対し、財務諸表に不適切な事項があるときに記載される「限定付き適正意見」を株主にもわかりやすく伝わるよう意見の理由の明記を求め、2020年3月期から適用する。
 2019年8月7日、売上の前倒し、売上原価や営業費用の繰延べなどで利益を過大計上した決算短信等を虚偽と認定された日本フォームサービス(株)(ジャスダック)は、東証から2,000万円の上場契約違約金の徴求を受けた。
 また、9月19日にすてきナイスグループ(株)(東証1部)も、継続的に利益を過大計上した不適切会計処理を行い、決算短信等を虚偽と認められる開示を行ったとして東証から3,360万円の上場契約違約金の徴求を受けた。
 東証は両社について、監査役会や内部監査の人員体制に問題があったとして内部管理体制の改善を求めた。両社は内部体制の強化に取組むことを公表したが、すてきナイスグループは5月、有価証券報告書の虚偽記載の金商法違反容疑で強制調査を受け、7月には元役員2名が逮捕されている。
 経済のグローバル化で、海外子会社との取引に伴う不適切会計も増加傾向にある。また、売上達成へのプレッシャーで、不正会計に走る担当者、着服横領する担当者も後を絶たない。
 コーポレートガバナンスやコンプライアンスの意識改善が掛け声倒れに終わらないよう、不適切会計を生じさせない風通しの良い組織づくりが、上場、未上場を問わず求められている。

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