経鼻内視鏡で「食道」や「喉」もしっかりチェック!

東京医科歯科大学 消化管外科学講師 光学医療診療部副部長 食道外科 川田研郎

飲酒喫煙歴のある方は、喉も食道も診てもらいましょう‥

 私の専門は食道で、中でも食道がんの診断と治療を中心に診療を行っています。食道がんは中高年男性に多く、特に過度の飲酒喫煙歴のある方がなりやすいと言われています。また日本人に多い胃がんや喉の入口である咽頭(いんとう),喉頭(こうとう)がんと重複して起りやすいという特徴もあります。胃がん検診はバリウムを飲むX線検査が中心でしたが、現在は「胃カメラ」が主流になりつつあります。食道や喉は胃カメラの通り道、せっかく検査を受けるなら「喉」も「食道」も見てもらいましょう。

進化している経鼻内視鏡

 でも、胃カメラ‥苦しい検査ですよね。一回受けたけど苦しかった。そういう方は少なくないと思います。ぐっすり寝かせてもらわないと困る・・・しかし、時代は変わりました。細くて鼻から挿入できる経鼻内視鏡(けいびないしきょう)の登場です。

 私が初めて経鼻内視鏡を手にしたのは2005年、「苦しくない検査」ということで患者さんの間では評判になりましたが、医者の立場からすると、画質が悪く、がんを見落とすのではないかという不安がありました。しかし、ここ10年で大きく進歩、画質や操作性が格段に良くなり、口から入れる内視鏡と遜色のない検査が出来るようになりました。現在、当院で胃や食道の内視鏡検査をするときは、そのほとんどを鼻から入れています。一度、口から内視鏡を受けて「もう二度と受けたくない」と思った方にも有効な検査方法です。

 経鼻内視鏡は、カメラが喉を通過する時にオエッとなりにくく、苦しくないだけではなく喉をじっくり、よく観察できるという利点があります。喉といえば耳鼻咽喉科の守備範囲ですが、最近では胃カメラを受ける際に喉をよく診てもらうことで早期発見できる「喉のがん」が急増しています。日本では、食道や咽頭・喉頭のがんは、胃がんや大腸がんに比べると頻度は低いのですが、お酒を飲んですぐ赤くなり、だんだん飲めるようになった方はハイリスクで、特に注意が必要です。しかも、当院の成績によると、食道がんの4人に1人は下咽頭がん、下咽頭がんの2人に1人は食道がんと、その多くが重複していることもわかってきました。

経鼻内視鏡で患者さんの協力を得ながら

 食道や咽頭にできたがんの治療は結構厄介です。早期に見つかれば軽い負担で治療できますが、進行していると声を失うなど,肉体的,精神的,経済的にも非常に大きな負担がかかる治療になってしまいます。早期発見が何より重要です。「お酒が大好き」というリスクのある方は是非検査を受けて下さい。当院では,「口から」では見えにくい場所も「鼻から」「鎮静しない」検査で患者さんと協力することで死角の少ない観察法を考案、10年前から取り組んでいます。
代表例を動画で示します

①一連の工程をガイドつきで(動画①)「アイーン」の姿勢から(下顎を前に突き出す)から開始

②口腔内をまず観察,口腔底癌の発見(動画②)

③鼻から入れて「アッカンベー」させながら内視鏡を反転し,中咽頭を見る(動画③)

④頬を大きく「アップップ」のように膨らませて下咽頭癌を発見(動画④)

⑤下咽頭の正中から食道に挿入し頸部食道進行癌と食道表在癌を発見(動画⑤)

鎮静しない検査だから観察できる

 鎮静剤を使って眠っているうちに検査をすることもありますが、眠っていると①でお示ししたような動作ができなくなります。また日本消化器内視鏡学会のアンケート調査(2008~2012 年)で鎮静することにもリスクがあり、経口内視鏡 1000 万件に 13 件の死亡例あり、一方、経鼻内視鏡 100 万件中、死亡例は0件と報告されています。そこまで観察しなくていいから眠っているうちに済ませる方がいいか、少し頑張ってでも癌が隠れていないか確かめてもらう方がいいか‥ ご自身でも考えてみてください。そして、よくお酒を飲む方で気になる方は、内視鏡検査を受ける直前に「喉も食道もよく見てもらえますか」と確認しましょう。

 経鼻内視鏡ならではのメリットをひとりでも多くの方に提供したい。そしてがんで命を落とす人を減らしたい。それを叶えていくための一助になれば‥と、私は将来的に大学病院初の経鼻内視鏡センター設立を目指しています。ここで若い先生方が経鼻内視鏡のスキルを学び、ノウハウを蓄積して全国に広げてほしい‥と、切に願っています。

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