【ロングインタビュー】結城美佳 / 出雲市立総合医療センター 内科 診療副部長(兼内視鏡センター長)~ひとりでも多くの方に受けてもらうために。地域に密着した活動とは‥。

「ここ1年間、観察を目的とした上部の内視鏡検査数は約8,500件ですが、その99.8%が経鼻内視鏡です」-経鼻内視鏡を「ハナカメ」と称してフルに活用している結城美佳先生、経鼻内視鏡を導入した2006年は約2,000件だった内視鏡検査が4倍以上になるまでどのような啓発活動を行ってきたのか、また、恥ずかしさや下剤のつらさから敬遠されがちな大腸の内視鏡検査を受けてもらうためにどのような工夫をされているのか、具体的に取り組んでいる活動についてお聞きしてきました。目からウロコの話も‥!

■経鼻挿入がここまで多くなっている理由は‥
― 当院は、かつて食道静脈瘤の患者さんが多かったこともあって経口挿入が中心でしたが、お酒やタバコを好きな方が多く、食道や咽頭をきちんと見た方がいいと思い、経鼻挿入に切り替えました。半年に1回や3ヶ月に1回など頻回に受けた方がいい人もいたので、少しでも楽に受けられる方がいいですしね。経鼻だと鎮静をかけずにできますし、検査が終わったあとの誤嚥が少ない点もいいです。高齢者の場合、少しでも心臓への負荷が軽い方がいいですから。経鼻は安全・安心な検査だと思っています。

 

■経鼻内視鏡を使われる用途は観察のみですか
― 病変を切除するときに使うこともあります。特に食道、4~5年前から使っています。大きい病変は鼻から出せないので、ぐーっと反転させて口から出します。患者さんを寝かせない「awake」な状態だからこそできることですよね。それと、これは地域特性もあると思いますが、ここ(島根県出雲市)は海が近いこともあって、魚骨がのどに刺さって来院される方がいるんですよ。「晩ご飯を食べたときに刺さっちゃった」と。こういうとき、口から入れると「おえ~」ってなるから入れられないじゃないですか。でも、鼻からだといけちゃうんですよ。ただ、取った骨を鼻から出すと大変なことになるので口から出しています。この魚骨取りをかなり前からやっていたので、内視鏡で切除した病変を口から出すときも抵抗はありませんでした。「骨より大きいものを出すんだから当然口でしょ」という感じで。

 

■内視鏡検査の受診者を増やしていくために何か工夫されていますか
― 月に1回程度、駒澤慶憲先生と地域の公民館(コミュニティセンター)を回って勉強会を開催しています。「バリウムのX線検査だけじゃわからない病気もあるから内視鏡も受けましょう」とか「ピロリ陰性でも食道がんになることはあるんですよ」という内容で。参加された方の息子さんが検査に来られるケースもあります。サラリーマンの方は会社から言われて健康診断を受けておられる方が多いんですが、漁師や農家、自営業の方は検診車でX線検査は受けていても内視鏡はあまり受けていないんですよね。「だったら、こっちから出向いていこう」と地道に回っています。そのときに、「お酒やタバコが好きな方は食道がんや咽頭がんになりやすいんですよ」という話をして、リスクの高い人には内視鏡検査を勧めています。

■咽頭の観察はバルサルバ法が効果的と聞いたことがありますが・・
― そうですね。バルサルバ法は、患者さんにぷーって頬を膨らませてもらって咽頭を観察するんですが、うまくできない方もいらっしゃるので、私はお祭りの出店で売っている水風船を膨らませてもらうようにしています。水風船ってなかなか膨らまないでしょ。だからいいんですよ。空気が口から抜けていかないから。しかも、風船ってみんな膨らませたことがあるからお年寄りの方でもやってもらえるんです。いい感じですよ。

 

■勉強会についてですが、告知・集客はどうやっていますか。
― コミセン長(各地区の自治会長)会議がありますので、そこで告知してもらって、そのあと回覧板で回しています。地区によっては有線放送も使いますし、ケーブルテレビで紹介することもあります。20~30人集まるときもあれば、5~6人のときもあります。1年かけても市内すべての地区公民館を回り切れないので、何年か経ってまたもう1回‥という感じで地道に続けています。市が主催する高齢者教育のイベントで講演することもあります。ケーブルテレビは5分番組で、時期によってはタイムリーなテーマを取り上げてもらいます。

 

■タイムリーというと、例えば‥?

― 12月に入ると、市から便潜血検査が送られるんです。でも、検査結果が陽性でも「2回のうち陽性は1回だけだったから大丈夫」と思い込んで精密検査に行かない人もいるんですよ。そこで、12月に放送される番組は「1回でも陽性が出たら検査を受けないとダメですよ」というメッセージを入れてもらうとか、そんな感じです。それなりに効果があります。「テレビを見て来ました」と言って来院される方もいますから。あと、このケーブルテレビでは個々の施設の宣伝はできませんが、コミセンの講演は、わざわざ私たちの話を聞きに来てくれた方々ですので、「私の外来担当は金曜日なので、私の内視鏡を受けたい方は金曜日に来てください」とお伝えするようにしています。どっと来ることもありますよ。

 

■大腸内視鏡検査の話も聞かせてください。何か工夫されていることはありますか。

― いま、当院の大腸内視鏡検査の担当医師は男性3人・女性3人です。女性医師が多いからできることですが、検査を受けに来た人が受診目的や受診歴を書く問診表に、「検査を担当する医師について希望はありますか」という質問を入れています。選択肢は4つ。「希望なし」「男性医師」「女性医師」「特定医師」、特定医師は医師名まで書けるようにしています。患者さんがその中から選ぶんです。男性が女性医師を選ぶこともありますが、女性はご高齢の方でも「女性医師で」という方が多いです。

 

■個人名まで書いてもらうと、特定のドクターに集中しませんか?
― 集中しますよ。半分は私がやってます。

 

■あまり集中してしまうと他のドクターから何か言われませんか。
― 言われません。「指名してほしかったら上手くなれ」って言っています。そう言われると、指名されたいから上手くなろうと練習するじゃないですか。「あの先生の検査は痛かった」なんて評判が立つと口コミですぐ広がりますから。そうならないようにみんな頑張っています。で、上達するためのサポートとして、大腸内視鏡研修会を年13回開催しています。そもそもは女性を対象に‥と思って始めたものでしたが、男性も参加できるようにしました。若手と書いていますが、年齢制限をしているわけでもありません。50代の方が来ることもあります。定員は5人、研修会は2時間ですが、いつもほぼ満杯です。私は、女性の大腸の内視鏡医を増やしたい思いもあるのでパワーレス大腸内視鏡という手法を紹介しています。

■パワーレス大腸内視鏡?

― 大腸内視鏡検査をする際は右手でぎゅ~っとねじるのが基本だと教わるんですが、このパワーレスというのは右手でねじらないんです。左手を上げたり下げたりするやり方で、そのポイントは3つ。

1 目からウロコの 狙うは「ン」

2 目からウロコの 「くるくるぽん!」

3 目からウロコの 「ぱーっくん」

※何のことやら‥という感じですが、このパワーレス大腸内視鏡のノウハウ本が出版されますので、詳しくはこちらを参照ください。

https://www.kinpodo-pub.co.jp/book/1797-9/

 

■大腸検査の場合、下剤を嫌がって受けない人もいますよね。何か対策を講じてますか。
― 当院では「下剤ゼロ」と称して、モビプレップを1L、飲まずに経鼻内視鏡を使って流し込んでいます。ただし、「進行がんがない人だけ」ということから、2年前までに当院で大腸内視鏡を受けたことがある人という限定付きです。ですから、「初めての人は下剤を飲んでね」と、少なくても一度は経験していただくことになります。この「下剤ゼロ」も「経鼻でセデーションなし」だからできることです。こだわっているのは厳格に運用すること。1日でも過ぎたらダメです。「あ~ 残念!〇月になっちゃったね~」と言って飲んでもらいます。でも、この厳格さがリピーター対策にもつながっています。一度これをやると、ほとんどの方が元の方法には戻りません。受ける側も、2年を過ぎると下剤を飲まないといけませんから、気にする方が増えています。「先生、時期が来たから来たよ」と自発的に来る方も多くなりました。(※この下剤の経鼻内視鏡による下剤注入は保険適応外です)

■女性医師が多いというお話がありましたが、そのあたりについて‥
― 女性医師を増やしたかったので女医支援の仕組みを導入しました。「当直も待機もなし、5時を過ぎたら、その女医の患者さんのトラブルは全部私が面倒をみるので、土日や夜の呼び出しは絶対にありません」というものです。その分、少し給料をカットさせてもらっていますが、ある意味、「別枠扱い」なので、他の男性医師から妬まれることもありませんし、他の女性医師からも「どうしてあの先生は当直をしないの?」と言われることもありません。その分、「面倒を見る私に負担がかかるのでは‥」と言われるときもありますが、女医さん同士でカバーし合っているようで、私に連絡が来ることは1年のうち3~4回しかありません。この仕組みが功を奏しているからか、女医の内視鏡医も少しずつ増えてきました。

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「女性医師は手先が器用で上達が早い人も多い。もっともっと働ける場所を提供してあげたい」と“島根県出雲市版・女性医師向け働き方改革”を実践されている結城先生、市民に寄り添い、地道ながらも地域に根差した啓発活動を継続していることには感心するばかりでした。こういった事例を参考にして、他の地域でも内視鏡検査を受ける人がひとりでも増えるように、独自の啓発活動に取り組んでほしいと、切に願います。

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