Limited Express (has gone?) - 生活や社会と音楽をダイナミックにリンクさせる谷ぐちファミリーが語るバンドマンとしての立脚点

初めてバンドマン同士になれた気がする

──今日のインタビューは共鳴くんも参加で。よろしくお願いします。

共鳴:はい。

──ちょっと前のことだけど、Less than TVの夏フェス『METEO NIGHT 2019』でのチーターズマニア、凄く良かったです。自分では?

共鳴:うん。良かったです。

──どんどん良くなってる感じ?

共鳴:うん。

谷ぐち:バンドやってるのが楽しくなってきてるんじゃないかな。ライブで盛り上がってるっていう実感とか。どう?変化はあるの?

共鳴:うん。

谷ぐち:なんかライブのたびに作戦みたいなのがあるんだよね。この間の『ボロフェスタ』の時は何を気をつけてたんだっけ?

共鳴:声。パンクの声でやろうと。

──カッコイイ!出せた?

共鳴:出せたと思う。

谷ぐち:『ボロフェスタ』の時はお客さんぎっしりで。共鳴はフロアに降りてお客さんの中で唄いたいって作戦もあったんだよね。でもフロアに降りる前に、お客さんに軽々と持ち上げられてリフトになっちゃって(笑)。

共鳴:フロアに降りようと思ったけど降りられなかった(笑)。

──みんな共鳴くんのことを持ち上げたいんだよ(笑)。

谷ぐち:でもそろそろパフォーマンスの幅も広げたいでしょ?広げたほうがいいよ。

──どう?こういう、注文つけてくる親(笑)。

共鳴:ちょっと面倒くさい(笑)。

谷ぐち:バンドの話はまだ聞くよね。プライベートな生活面の話は全く聞かないけど(笑)。

──バンドマンの先輩としての話なら聞くけど、親としての話は聞かないんですね(笑)。『METEO NIGHT』でチーターズマニアのライブの後、YUKARIちゃんが「初めてバンドマン同士になれた気がする」って言ってたしね。

YUKARI:あの時が初めてですね、母親目線が全然なかったのは。それまでは学芸会を見てるお母さんの気持ちに近かったと思う。「頑張れ、頑張れ」って。『METEO NIGHT』は母親目線じゃなく共鳴をボーカリストとして見れた。タイムテーブルがニーハオ!!!!からチーターズマニアだったんだけど、共鳴はバチッと空気感を変えてチーターズマニアに持っていったから。見ててオォォ!ってなった。

谷ぐち:共鳴はさ、チーターズマニアとリミエキとニーハオ!!!!とFUCKER、どれがカッコイイと思う?カッコイイことをやってるのはどれ?

共鳴:リミエキ。それかニーハオ!!!!。

谷ぐち:そうなんだー。チーターズマニアは?

共鳴:チーターズマニアは一番。でも、まだまだだから一番ではなく。

YUKARI:FUCKERは入らないんだ?(笑)

谷ぐち:俺だけは眼中にないんだね(笑)。

──チーターズマニアはどんどん変わっていきそうだね。ライブは緊張する?

共鳴:あんまりしない。ライブの間が空くとちょっとする。

──ライブも楽しみにしてます。『METEO NIGHT』はリミエキも凄かった。YUKARIちゃんが脚立の上で唄ったのには感動した(笑)。あの時、まずYUKARIちゃんはフロアに降りて脚立に昇って唄った。脚立からダイブして、その後、店の人が片付けたんだよね、危ないから。でもYUKARIちゃんはまた引っ張り出して脚立のてっぺんで唄った。もう、感動(笑)。やりたいことはやるし、表現の自主規制などしないってことだし、脚立で唄ったらお客さんが支えてくれるって信じてるわけだし。

YUKARI:あんまり覚えてないけど、たぶんその時のMCでも言ってましたよね、表現の自由についてとか、お客さんを信じてるみたいなことは。

──うん。「私は自分のことを誇りに思う。みんなのことも誇りに思う」って言ってた。今回、ステッカーにも脚立が描かれてるし、脚立は重要なモチーフになってるよね。

谷ぐち:でもやりたいことをやるってことや表現に規制はしないってことは、今回新たに思ったことじゃないし。ずっとそうだし。

脚立は差別のない世界の象徴

──もちろんです。その象徴が脚立なんじゃないかと…。私、脚立脚立ってうるさいね(笑)。

谷ぐち:そういえばこの間のインストア・ライブで脚立のことをMCで話して。ステッカーを台風被害のドネーションとして作ったのね。地球に脚立を立ててるデザインで。脚立って平らなとこじゃないと立てられないじゃないですか。だからそういうフラットな社会、フラットな世界じゃないとダメだってことを表していて。凸凹してない、つまり格差や差別のないとこ。地球は差別のない世界じゃなきゃダメってことを表している。パッと思いついて言ったんだけど、スゲェいいこと言ってない?(笑)まぁでも、ライブで脚立は前からやってたし。完全に後付けなんだけど(笑)。

YUKARI:意味があるとすれば、あんな振り切ったことをする女性のミュージシャンはいないじゃないですか(笑)。誰もできないことをやるっていうのが、私の仕事かなって思うので。

谷ぐち:新しい女性ボーカリストのスタイルを作りたいって気持ちはあるよね?

YUKARI:メッチャある。

──しかも、人に伝えようって思いが強くなってみんなを巻き込んでいけばいくほど、YUKARIちゃん自身の個性も磨かれていくんだよね。

谷ぐち:そもそも演者もフロアにいるみんなも関係ないですからね。うちらはたまたま演奏してるけど、その空間を作ってるってのはみんなですから。そういう中でYUKARIのボーカルのスタイルが生まれていって。

──それはリミエキの変化でもありますよね。谷ぐちさんが入る前は、YUKARIちゃんと飯田さんの個性のぶつかり合いの面白さで。それを〈見せる〉って感じだったもんね、〈巻き込む〉んじゃなく。

YUKARI:昔は音楽は音楽って感じだったから。音楽と生活は別。生活臭のある音楽なんて絶対にイヤだった。それが変わってきたのは…、届いてるなっていう。届いて、返してもらって。そういうことがあるんだなって実感したから。

谷ぐち:普段のブログとかもね。母親として書いたブログに凄い反響があったんだよね。

YUKARI:だから共鳴が生まれたことは大きいよね。音楽にも大きく反映してる。

──音楽は音楽、じゃなくて、音楽と生活がダイナミックに絡まっていく。

谷ぐち:子どもが生まれて生活が変わっていく中で、どうやって表現を継続していくかって思った時、いろいろなやり方から自分たちで選択してきて。そういう中で気づいたことは、たとえば子どもができて生活も変わってライブハウスにあまり行かなくなった人、子育ての悩みを一人で抱えちゃう人が多いんだなって。そういう人がライブハウスという場に来られるような。好きな音楽を子どもと一緒に楽しむ、子ども同士で遊ぶ、そういうことのきっかけの存在になっていけばいいなっていうのはあるよね。

YUKARI:我慢しなくていいよっていうね。うちは2人がバンドやってるから、留守番できない頃は共鳴もライブハウスに連れて行かなきゃいけなくて。そしたらみんなが共鳴の相手をしてくれた。共鳴はみんなに育ててもらった。そのお返しというか。共鳴をライブハウスに連れて行って気づいたことをブログに書いたら、「子連れOKのイベントを企画したんですけど、気を付けることはありますか?」ってDMくれる人がいたり。繋がっていくんだなって。

谷ぐち:ただ、そういう音楽を作りたいって最初から思ってるわけじゃなく。自分たちの状況が変わって、どうやって活動していくか模索して。結果、そういう形になった。

──ああ、そうですよね。別に女性解放とかポリティカルなことを唄うバンドになろうではなく、あくまでも自分たちの生活を通して、生活の一つの着地点が曲なわけで。

YUKARI:何よりシリアスなことばかり唄う気はないし、「あのバンドはアホ」枠にずっといたいし。でも、社会のことも唄うようになったのは、時代もあるかもしれないですよね。今ってみんなが社会と向き合い始めてると思うし。

谷ぐち:それは絶対ありますよね。昔は逆張りしかしてなかったですからね。

YUKARI:私個人も昔は自分が一番!って思って周りのことなんか考えてなかった。

谷ぐち:まぁ、自分が一番!って思ってるのは今も変わらないでしょ(笑)。

必死に手繰り寄せて発信して繋いでいく

──今思えば昔は呑気な時代だったですよね。

谷ぐち:だから今は必死ですよ。必死に手繰り寄せて発信して繋いでいく。そこは必死です。

YUKARI:私自身いろんなことがあったし。私は今、唄いたいことがちゃんとあって、それが歌に繋がってると思うけど、そのきっかけはライブハウスで痴漢に遇ったことだと思うんです。そんなのないほうがいいけど、あの事件がなかったら今のような自分になってるかわからない。私にとってあるべくしてあった事件だったんだと。前向きにとらえるようにしてるってことでもあるけど。

──前向きに転換できるのは辛いけど素晴らしい。

YUKARI:だってなかったことにはできないですもんね。

──そうなんだよね。でも自分でなかったことにしちゃうんだよね。たとえば飲みの席とかでも、セクハラを受けても笑ってあしらうのがスマートとか。私はYUKARIちゃんより上の世代で、私が若い頃はみんなそんな感じで。ホントに嫌な慣習を作ってしまった。

YUKARI:私も昔はそうだった。でも、そうじゃないぞ!ってね。そういうことはおかしいって気づいたからね。

──気づいたからには気づいてないふりはできないもんね。そういうことが、「フォーメーション」に繋がっていって。

YUKARI:そうなんでしょうね。社会の凸凹をなくそうって思った時に、私が取り掛かりやすいのは女性であるということ。自分のことだからリアル。でも知らないこともたくさんあって。世の中の問題ってどこかで繋がってるものだと思うから、常にアンテナを張っていたい。

──「フォーメーション」をニーハオ!!!!ではなくリミエキでやろうと思ったのはなぜ?

YUKARI:ニーハオ!!!!は女の子でやってるから、やってるだけで主張は成り立ってると思うので、フェミニズム的な歌詞をあえて唄う必要はないと思うんです。意識しすぎず、そのまんまで勝負すればいい。「フォーメーション」をリミエキで唄ったのは、私は紅一点ってずっと言われてたわけですよ、リミエキでは。だからこそ、そこでやりたいって思ったんですよね。

──うんうん。ではアルバムの話も。パンクやハードコア、オルタナが混在してカオスなんだけど、でもストレートに響いてくる。

谷ぐち:パンク的な要素が強くなってるとは思います。メンバーは俺より若くてオルタナ聴いてた世代でドライな感覚で。俺はもっとパッションとかエモーショナルとか。あんまりエモーショナル過ぎるのは苦手なんで、ほどよくエモーショナル(笑)。そういったところがリミエキの着地点かなって。

YUKARI:でも(飯田)仁一郎くんもわりと好きだよね、エモーショナルなの。

谷ぐち:ライブで客がモッシュしてグチャグチャになることがあるじゃないですか。俺は別にそうなろうがなるまいが気にならないんですよ。モッシュってハードコアのライブではもともとあるものだから。いちいち気にしない。でもね、仁一郎はモッシュが起きた時に凄い嬉しそうだった(笑)。

──ああ、オルタナのライブってモッシュはあまり起きないから。

谷ぐち:オルタナはダイレクトな反応はあまりないですよね。それがリミエキでモッシュが起きたら、仁一郎、ギター弾きながら嬉しそうな顔してた(笑)。

──いいですね〜(笑)。特筆すべきはYUKARIちゃんのボーカル。高い声、低い声と唄い分け、ラップも増えてグンと幅が広がってる。

YUKARI:時間かけて録って。メッチャ唄えるようになったと思います。

谷ぐち:曲を作る時って初めは演奏だけで歌は後からなんですね。歌が入ってない段階だとピンとこないこともあって。「正気に戻るスキがない」は歌が入る前はコレをどうすっかなーって思ってたけど、歌詞とメロディが入ってビシッと見えた。それだけボーカルが主軸になってる。

YUKARI:最初はダサいなーって思ってた曲も、ピタッとハマった言葉が乗ったらカッコイイって自分でも思うし。ボーカルが入って曲が転がっていくよね。

理想や平和を願って始めたらゴールはない

谷ぐち:YUKARIはボーカリストの意識になってるよね。人の心を動かすことができるボーカリストになろうと。そういう意識が無自覚のうちに出てきてるんじゃない?

YUKARI:最近思うのは、立ってるだけでも、何なら唄わなくてもボーカリストって言われる人でいたいっていう。今も何やってるかわからないボーカルなんですけど(笑)。私、メチャメチャ強くなりたいって思うようになりましたね。存在として。脆いとこも気弱なとこもある。そんなにいつも元気な人でもないんですよ、もともと。でも強くなりたいって思うようになった。40歳になったし、いろんなことを経験してきてるし。もちろんもっと経験してきた人、年上の方もいっぱいいるし、偉そうなことは言えないけど。でも、私が私なりに経験してきたことがあるって思えるようになった。メッチャ脆いけど、寄りかかってもらえるような人になりたいなって。

──リミエキは戦ってると思うし、現実を見てるし。気づかないでいたほうが楽だとしても、気づいて戦うことを選んだっていう。そうやって気づいていく人が増えていけば、世の中は変わっていくんでしょうね。

谷ぐち:俺、思うのは、たとえば、こんなメッセージなんて発信しないでいい世の中になればいいなっていう言い方があるじゃないですか。平和な世の中ならパンク・ロックを唄わなくていいとか、戦争がなくなれば反戦って唄わなくていいとか。そうかもしれないし、ニュアンスはわかるんだけど、ホントはそこで終わりじゃないですよね。

──平和になってもパンク・ロックは唄っていけるし。

谷ぐち:いや、そういうことじゃなくて。平和になったと思っても、さらに先はあるわけだから。そこで何かに気づけて発信できるんなら、そっちのほうがいい。

YUKARI:まぁ、全部が解決することはないよね。

──ああ、そうだね。平和になったと思ってもホントに平和か?っていう。

谷ぐち:うん。簡単に終わる道のりじゃないし、理想とか平和を願って始めたのなら逆にゴールはないっていうか。終わりにしてはいけないっていうか。

YUKARI:もしね、「フォーメーション」の歌詞を何年か先の未来の人が読んで、こんなことわざわざ唄わなきゃいけなかったんだーって思うくらい女性が解放されてたとしても、別のことで戦ってるだろうしね。

谷ぐち:そうそう。一つ解決しても次のフェーズが必ずあるだろうなって。ただ俺が言いたいのは、次のフェーズがあるっていう困難ではなく、そこそこいい世の中になったとしてもさらにいい世の中に向かっていくことができるってことだから。

──さらなる解放へって感じか。凄いなぁ。勇気が出ます。

谷ぐち:まぁ、でもね、偉そうなこと言ってるけど、普段は2人でしょっちゅうケンカしてて。YUKARIは頭にきてるから「バンドやめる!」とか言ってる。そしたら共鳴が俺のとこに来て、「パパの言い方が悪い。ああいう言い方は良くない」って。YUKARIにも「そんな簡単にバンドやめるとか言うもんじゃないよ」って(笑)。

──共鳴くん、凄い!

谷ぐち:うちでは共鳴が一番の人格者だから(笑)。

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