日本海上での大量殺人…「北朝鮮の海賊」の残虐度

国際社会による経済制裁下、困窮をきわめる北朝鮮で治安が悪化している。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が6月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋の話として伝えたところによると、現地で強盗殺人を犯した6人に対する裁判が行われた。

6人は、最初から強盗目的で海に出て、陸地から遠く離れた海上で小さな漁船を襲い、漁獲物、燃料、食品を奪い、証拠隠滅のために襲った漁船の漁師を殺害したという。さらにはエンジンまで奪って、あたかも船が漂流した末に漁師が亡くなったかのように偽装した。6人には数十件の余罪があるという。まさに現代の「海賊」と言える。

目撃者のいない海上での完全犯罪のはずだったが、死んだはずの漁師が生きていて、自力で港に戻り通報したことから事件が発覚。司法当局が犯人の自宅を捜索した結果、15機のエンジンと犯行に使われた凶器が発見された。

6人のその後は詳らかにされていないが、RFAによれば遺族や地域住民は怒りを爆発させていたとされ、残忍な方法によって公開処刑となった可能性は小さくない。


日本の海上保安庁によれば、日本海沿岸に漂着した北朝鮮のものと見られる木造船の数は2018年に225隻に達し、うち5件から12体の遺体が発見されたと報じている。一説には、このようにして犠牲になった北朝鮮漁民の数は1年間で1000人は下らないとされる。

原因は、装備の貧弱な漁船で無理に出漁したためと見られていたが、それだけではなかったことが前述の事件から明らかになった形だ。

咸鏡北道の別の情報筋によると、今回の事件の顛末が明らかになったことを受け、司法当局は、過去の海難事故を対象に具体的な調査を行い、事故だったのかあるいは事件だったのかを判別するための捜査チームを発足させた。

この裁判からおよそ5カ月後の11月7日、韓国政府は北朝鮮の20代男性2人を、南北の軍事境界線にある板門店(パンムンジョム)を通じて北朝鮮に追放した。

追放後に韓国統一省が発表したところによれば、2人は同月2日に日本海上で拿捕(だほ)した北朝鮮のイカ釣り漁船の船員で、船内で16人の乗組員を殺害し、逃亡していたものとみられるという。

2人は韓国に亡命する意思を示していたとされるが、韓国政府は強制送還を決断した理由について、「重大な犯罪であり、韓国の国民の生命や安全の脅威となる。凶悪犯罪者として、国際法上の難民としても認められないと判断した」と説明している。

これについては、韓国の内外から強い批判が出ている。強制送還が、韓国憲法や国際法に抵触する可能性がある上、16人殺害の容疑についても十分な検証がなされていなかったからだ。

しかし韓国政府とて、このような批判が出ることは予想できたはずだ。それにもかかわらず送還を断行したのは、韓国軍が北朝鮮当局の通信を傍受し、16人殺害の容疑で2人が捜査・追跡されていたことを、早期に把握していただめだとの噂もある。

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