中村哲さん悲報

©株式会社長崎新聞社

 日本からやってきた、素人の若者が数人いる。井戸掘りのプロもいる。現地の職人、村人たちと知恵を尽くして、干からびた土を掘った。数百もの井戸を新しく設けたり、再生させたりしたという▲2000年、「世界で最貧国」といわれたアフガニスタンで大干ばつが起きた。感染症がはやり、幼子は次々と命を落としていく。どうにか水を確保しようと日本から人を募ったのが、そのずっと前からパキスタンやアフガン東部で医療活動をしていた医師、中村哲さんだった▲「土地を緑化すれば人々は難民化しない」という一念で掘り続けた。03年には用水路も造り始め、人力で作業ができるよう試行錯誤を重ねたという▲福岡市の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」の現地代表として、今もアフガン東部で現地スタッフを指揮していた中村さんが銃撃され、亡くなった。享年73歳。訃報に息をのむ▲現地では反政府勢力タリバンなどが活動し、誰も身の安全は約束されないのだが、その人は乾いた土地で「水を、緑を」とただ無心に活動してきた。命が無残にも奪われた事態を、理不尽と言わずに何と言おう▲現地では人々との信頼、政府との信頼という水脈も掘り当てた。軍事ではなく「信頼が安全保障」だと、これほど明瞭に語れた人はほかに思い浮かばない。(徹)