雨の常陸路、気動車で小旅

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雨の中、勝田駅で発車を待つ気動車

 【汐留鉄道倶楽部】篠突く雨の中、茨城県の常磐線勝田駅から三セクの「ひたちなか海浜鉄道」湊線にゆられ終点の阿字ケ浦駅までの旅に出た。

 最近、常磐線の駅から出発してどことも接続しない“孤高の終点駅”に向かう鉄道に乗る旅が続く。春には馬橋駅から流鉄流山線で流山駅へ(距離5・7キロ)。夏には佐貫駅から関東鉄道竜ケ崎線で竜ケ崎駅へ(距離4・5キロ)。いずれも超短距離ローカル線で、終着はどの鉄道ともつながらない駅。「常磐沿線発小さな旅」。見事な地味旅である。

 そして第3弾は足を伸ばして水戸駅の一つ先の勝田駅から太平洋を望む阿字ケ浦駅まで14・3キロのひたちなか海浜鉄道。距離は少しあるが、阿字ケ浦駅もどことも接しない小駅。

 フリー切符を買って、こじんまりしたホームに待機する1両編成の気動車に乗り込む。発車まで隣の常磐線には特急「ひたち」や「ときわ」が行き来する。おかまいなしにのんびりと気動車は発車時刻を待つ。客は数人。ほとんど地元の人みたい。東京の電車内に巣くう「うつむきスマホ族」はいない。

 エンジン音をうならせゆっくりと発車するとやがて中根駅周辺で見渡す限りの田園地帯を行く。「首都圏から一番近い『秘境駅』」と地元のパンフレットにはあった。窓ガラスに雨粒が当たりその先にぼんやりと田んぼが続く風景は心地良い。外から見た走行風景はすてきだろう。

 小さなホームの駅名表示板がどこも凝っていて、周辺の名所や歴史をデザインしてユニーク。「グッドデザイン賞」を取ったという。

(上)広く長い阿字ケ浦駅ホームの先には車止めが、(下)温泉、アンコウ、釣り針、海藻をデザインしたという

 間もなく那珂湊駅到着。中核駅で、車庫を備え木造の構内も歴史を感じさせ、りっぱだった。降りる客も多い。やがて雨も上がり右側に鹿島灘が見えると終点阿字ケ浦駅に滑り込む。約30分の行程だった。ホームがやたらに広く長い。かつて上野から海水浴客を乗せた急行「あじがうら」号が直通運転していた名残のようだ。そういえば勝田駅を出てすぐ、常磐線とつながるポイントが2個所あった。直通運転の痕跡は消えずに残っていたわけだ。

 阿字ケ浦、という妙に忘れられない語感を持つ駅名は相当昔から記憶にあった。わたしも子どものころ「あじがうら」号で海水浴に来たのかも知れない。駅前は閑散としていた。小雨が降り出したので探索はやめて再度勝田行きに乗った。那珂湊駅で途中下車して海に向かって20分ほど歩いたところにある漁港そばの「おさかな市場」で海鮮丼と真がきを食す。列車内の静けさがうそのような賑わいを見せていた。駐車場は満杯、見事な車社会を実感。

 最近はなかなか遠方の旅ができず、こうした小さな旅が続く。関東だけでも魅力あるローカル線は相当多い。短距離路線の乗車、地味で小さな旅、大いに堪能していきたい。

 ☆共同通信社 植村昌則

※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。