「政治の貧困が安倍1強生む、岸田氏『人間力鍛えて』」 自民党宏池会名誉会長、古賀誠さんインタビュー(中)

 「お公家集団」と、からかわれることもある自民党の伝統派閥「宏池会」に属しながら、党内でも政局に強い、党人派の代表格だった古賀誠さん。ポスト安倍は誰がふさわしいか、首相を目指す政治家に求められることは何か、突っ込んで聞きました。

桂太郎元首相

 ―安倍晋三首相が11月19日で、明治、大正時代に2886日間、首相を務めた桂太郎を抜いて、首相在職日数歴代1位となりました。長期政権のよかった点は。 

 「それは政治が安定したことです。一番大事なことですから。それは大きな評価だ。だからこそ国際社会の中でも、信頼も信用も増してきた。政策的にも継続性があり、非常に良い安定政権だと認められる。大変、大きな評価だ」

 ■安倍・トランプ「自国第一」、大平・カーター「世界優先」

  ―政権幹部は「安倍、トランプ(米大統領)の日米関係は、これまでの政権で最もいい」と、言っています。 

 「いやいやいや、トランプさんと安倍さんとの関係で、日米関係が良いとは思えないよね、これは。縦横斜めから見ればどうか分かりませんけど、僕は一番日米関係で素晴らしい関係というのは、やっぱり大平、カーターだと思いますよ」

5月に千葉県でゴルフする安倍首相とトランプ大統領

 「今の安倍さんとトランプさんは、2人の人間性っていうかな。そこで非常にうまくいったということだろうと思っています。そして、安倍さんとトランプさんはね、お互い『自国のため』。どうしても自国第一主義的な考え方だ。一方、カーター、大平さんの場合は世界優先。それが大きな違いだ」 

ホワイトハウスで握手する大平正芳首相とカーター米大統領=1980年5月

 -長期政権のデメリットは。 

 「一番はっきり言えるのは、やっぱり政府と政党とのバランスが崩れている。そのことは残念ながら言えるのではないか。メディアにも国民にも『安倍1強』という言葉が一人歩きする。それは何も安倍さんの責任だけではなくて、安倍さんが悪いのではなくて、安倍政権に対して、政党としての自民党の力、また役割、こういったものが果たせていないため、バランスが崩れていると僕は思う」 

 ―その原因はなんでしょうか。 

 「いろいろな要因がある。小選挙区制度だっていう人もいるし、安倍さんの個性だという人もいるし、国会議員の質の劣化だという人もいる。だから一つに絞って言えるような要因ではない。それが総合的なものとして、今、残念ながら与党と政府とのバランスが崩れているということではないか」  

 ―著書でも安倍1強をつぶやく政治家に対し「安倍首相に何か言ったのか」と苦言を呈していますね。 

 「そうそう。何も言わずに、言うことだけ聞いていてね、影では『安倍1強だ、けしからん』という人がいるかもしれない。それはおかしい。やっぱり、自分の志や自分の信念を政府にきちんと言って、そしてお互いに議論しなければ。与党と政府とのバランスを作って、そういう努力っていうのは、全然足りていないなと、残念に思っている」 

■短命の宏池会政権、「安倍さんはやはりすごい」 

 ―古賀さんが所属し、育ててきた宏池会の岸田文雄会長は、次期首相に意欲を示しています。評価できるポイントと、直すべき課題は。

  「派閥の会長に対して、そういうようなコメントができるほど私は偉くない。会長のおっしゃることは素直に聞いて、言うべきことは言わなければいけないなと思っている」

宏池会の岸田文雄会長(自民党政調会長)

  ―しかし「もうちょっと苦労した方がいい」と言われていますよね。

  「苦労は、しなきゃしないにこしたことはない。だけど、僕の今までの政治活動の中で、非常に残念に思うのは、宏池会政権というのは、僕が政治家になってからの時代でいえば、1978年に大平政権ができたが、残念ながら病気という、いかんともし難い環境の中で亡くなられた。政権を担当されたのは、2年前後ですよね」 

 「91年の宮沢政権も、衆院解散をやらざるを得ない環境になっちゃう。内閣不信任案が成立して、衆院解散やって。そして、残念ながら宮沢政権も短期間で終わらざるを得なかった。その後2000年には、幹事長も経験した加藤紘一さんが、自民党を離党しようとしたが断念し、政治生命を事実上、失った『加藤の乱』があった。これもある意味では自爆ですよね」

  「政権は取ることも難しいけど、継続するっていうのは本当に難しい。そういう意味で、安倍さんの長期政権はやっぱりすごい。評価すべきことはしっかり評価してやる必要がある」 

 ―宏池会は政権維持が下手ということですか。 

 「私の経験から言って、政権を取ることも難しいけど、取ってからどう維持して、国民の期待に応えていくかというのはもっと難しい。そういうことを考えると、やっぱり岸田会長は、政権を取ることだけが、一番大事な国家国民のための責任であるとは思わない。政権を取ってからの、自分のカラーは何か。自分の志と考えを、きちっと国民の皆さんたちに理解していただいて初めて、政権っていうのが安定する」 

 「岸田会長には、この努力が必要だけど、あまりにも楽な環境に居続けた。選挙区も何代目かの地盤でしっかりしている。ポストも戦い取ってない。派閥の会長になられたし、外務大臣もそう努力しなくても、首相の鶴の一声で何期か務めた。今度の政調会長も、またそうなっている。あまりにも、修羅場も、土壇場も、正念場もない政治経歴を、私は一番心配するわけだ」 

 「まず、政権が長く安定して安心できる政治環境を、私たちが作り上げていくということ。それに耐えられる、その志にしっかり応えるということだ。これが、政権取ることよりもっと難しい。それにはやっぱり、人間力も鍛えなければならない。派閥の構成も、また政党としての自民党のまとめも、求心力を含めて大事だろう。そういう意味では、懸念と心配を持っていることは間違いない」 

■菅官房長官でワンクッション 

 ―他方、菅義偉官房長官の政治手腕を評価していますよね。 

 「評価というより、岸田会長とは、全然生い立ちと環境が違うからね。それぞれの良さと、またそれぞれの危うさというのは、両面お互いに持っているかもしれない。安倍さんの後をつなぐのであれば、菅さんの方が、そのつなぎにはふさわしいのではないかな。やっぱり岸田会長には、リベラルというか、それこそ『憲法9条には、自衛隊なんて書かないよ』と言うぐらいの、安倍政権との違いが、あってほしいし、またそうあるべきだと思っているからね」 

 「そういう意味で、菅さんに次期政権を担ってもらい、ワンクッションを置く。そして憲法改正議論を進める中でも、9条についてはしっかり守ると。大切にすると。こういう政権を、真ん中に一つおいた方がいいのではないかと。自公連立を組む前の、1998年の自民党と自由党の『自自連立』じゃないけど。そういう考えを、私は非常に強く持っているのは事実です」

菅義偉官房長官

  ―ということは、岸田会長にふさわしいのは、次の総裁選ではないということか。 

 「一番大事なのは国民ですから。国民がどういう期待を岸田会長にするのか。自民党が誰を総理総裁に選ぶのか。これはやっぱり政治家一人一人が命懸けで決めなきゃいけない。そういう問題だと思う」 

 「岸田会長は、情報収集をしっかり行い、分析し、最後は自らの決断が求められるものです。2018年の総裁選は出馬されなかったわけだ。次回は出るとおっしゃっている。天、地、人、が整う間違いのないような判断をしてもらわないと。国家と国民のための政治ですから。自民党総裁は首相の任を負わなければならない。国民1億2千万人の財産と生命を守っていかなければいけない。最後は自らの決断だと、僕は思う」 

 ―岸田会長の判断はまだ変わる余地があるのか。 

 「岸田会長が判断することだから。私たちが決めることではない」  

 ―「与党と政府とのバランスが崩れた」という見方についてさらに聞きたい。安倍政権だから起きたのか、それとも政治の安定を図るが故に起きてしまったのでしょうか。 

 「政治の貧困によって起きてきているということだ。先も言ったように本来政府と支える政党というのは全ての面でバランスが必要。それが崩れたと言うことに尽きる」 

 ―今、目の前にある政治ではなく、それとは違う政治の在り方を目指す想像力を持っていかないと、「政治の貧困」が起こるのではないでしょうか。 

 「岸田会長が仮に自民党総裁選に立候補するときに、何を国民に約束するのか、全く分からない。9条に、自衛隊を書くというのは『それは党で決めている』と言うだけで十分なのか。国民がそれを受け入れるかどうかの話だから。やっぱり政治の貧困というのは、穴を一つ開けたら、広がっていくばかりだ。防ぐことはできない。これが大事なんだよね。開けたら、閉じられないから」 

派閥の総会であいさつする自民党宏池会名誉会長の古賀誠さん。右は岸田文雄会長=2013年10月24日、東京・赤坂

■長期政権の次は短期 

 ―菅政権ができると、官邸と党のバランスの軌道修正が図れるでしょうか。 

 「歴史を振り返ってもらうと分かるけれど、長期政権の後は短期なんですよ。それは何も自民党という政党の力関係といったらおかしいけど、政党のせいじゃなくて、いろんな要素がからみ合って。政党だけが原因で短期になっているのではない」

 「例えば竹下登さんなんかは、リクルート事件という外的なものもあったし、宮沢さんもそうですよね。長期政権の後は短期政権なんです。だから余計僕は、岸田政権を作るときには注意しとかなきゃいけないと。そういう意味では、まず国会議員が、今の状況下で国の舵取りには誰が一番適格なのか、時代の分析が大切だ。同じ派閥だから選ぶとか、仲間だから選ぶとか、その必要もあるのでしょうけれども、それだけでは足りないな、と思いますね」

 ―とはいえ、自民党の派閥の長は首相を目指す人がなり、派閥のメンバーはトップに首相候補を据えて、権力闘争をするのが建前ではないでしょうか。

  「派閥には三つの側面がある。一つ目は、政治家や政治集団の活動の根底にあるエネルギーの結集だ。二つ目は、時の政治権力に対するチェック機能だ。最後は、自由に意見をいい、素直な気持ちを言うことができるサロン、あるいは、オアシス的な役割だ。岸田政権の実現で『自分が官房長官になれる』のように、自分にとって得か損かで決めるようなことになれば、それはもう『政治の貧困』そのものですね」 

自民党国対委員長時代の古賀誠さん=2000年

■政治メディアは志を持ってほしい

 ―今の宏池会には政局に強い党人派がいないと感じています。一方、政策に強い方はたくさんいると思っています。 

 「官僚だからといって必ずしも、政策に強いとは言えない。官僚出身者はいっぱいいるけど、志があってしっかりした政策を持って頑張っているというのはあんまり聞かないよ」 

 ―政策を語るのが好きで、政策の理解力が高い人はいると思いますよ。 

 「政策に詳しいのと、それが実現できるのは全然違うよ。言ったことと、実現することの隔たりがあってはいけませんから。『官僚だから政策に強い』なんて、そういう見方はやめた方がいい」

 ―著書では、安倍首相に意見する人がどんどん増えることが大事だと書いているが、メディアや霞が関も劣化していると感じています。自由な議論や政策を決める環境をつくる際に、メディアに注文することがあるのでは。 

 「メディアで取材する人たちも、やっぱり自分の志とか、自分の考えというものを持って、伝えるっていう努力をしてもらわなければいかんと思う。政府が記者会見で言うこととか、政府が行うことを全部追随するのでは、メディアはあまり意味がないのではないか。そういう形の方向に、メディアを抑制していくということが、もし政府にあるとすれば、それは極めて残念なことだ。しかし、僕の見ているところでは、あまり官邸からそんなに言われるような厳しい注文とか、そういうのもないのに、勝手にメディアが忖度しているところが大きいのではないのかな」 

 「安倍首相にしたって、菅官房長官にしたって、そんな何もわからないで政治家になった人じゃないのだから。むしろメディアはそういうことはあまり気にしないでほしい。直近の読売新聞だったかな、厳しいことを書いたとき、怒られるかと思ったら、ある自民党幹部は『良いことを書いてくれた。それも考え方の一つだ』と言ってくれたそうだ。広い心というのは大事だ、ありがたかったと。そんなもんだと思うよ。書かないで、ああだ、こうだと言うなと。僕に言わせれば」 

 ―政治家には「ちゃんと言わないで言うな」、メディアには「書かないで言うな」か。

 「その通りでしょう。判断は国民にしてもらうのだから」

(続く)

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