SNSに広がるカワウソ闇市場 “供給国”のタイ、「飼育モノ」も  素性知らず密売網構築、捜査困難

タイの捜査当局が押収したコツメカワウソ=10月31日、バンコク(共同)

 絶滅が危惧されているコツメカワウソの国際取引が11月26日から原則禁止となった。日本では愛くるしいしぐさの動画がネット上で話題になり、テレビに取り上げられたことをきっかけに人気が沸騰。直接触れたり餌をやれたりする「カワウソカフェ」ができ、各地の動物園・水族館のカワウソ一番人気を決める「総選挙」まで開催された。一方、1匹100万円以上といわれるほど価格が高騰し、日本への密輸はやまない。その“供給国”の一つがタイだ。数が減少しているため野生でなく「飼育モノ」の売買も多いとされる。闇市場は会員制交流サイト(SNS)上に広がる。素性を知らない者同士が巣くい、密売ネットワークを築き、捜査を困難にしている。(共同通信=大西利尚)

▽箱詰め

 「自分で箱に詰めて客に送った。間違いない?」。取り調べに男(27)は力なくうなずいた。

 捜査当局は10月下旬、南部パッタルン県でコツメカワウソ計18匹を密売しようとした疑いで、この男ら2人を逮捕した。タイでも無許可の売買や所有は違法だが、かわいらしさに魅了される人は多く、ペットとしての需要は高い。

 当局は男が営む衣料品店を家宅捜索。窓に目張りがされた奥の部屋に入ると、裸電球の下に置かれた「シンハ-ビール」の段ボール箱から甲高い鳴き声がした。中にはカワウソが押し込められ、11匹がまだ目も明かない子どもだった。1匹の売値は3500バーツ(約1万2600円)。輸送料として500バーツを加算し、男は「自分のもうけは1000~1200バーツだった」と供述した。

タイの捜査当局が押収したコツメカワウソ=10月31日、バンコク(共同)

 タイは希少動物密売の中継地といわれる。当局がこれまで最も警戒の目を光らせていたのが首都バンコクのチャトゥチャック市場だ。約10万平方メートルの敷地に衣服やインテリアなど計8000の店が軒を連ねる人気の観光スポットには、ペット店がひしめき合う一角がある。イヌやネコはもちろん、モモンガ、ハリネズミ、カメレオンなどの「エキゾチックアニマル」も売られている。カワウソは違法ながら以前は人知れず売買されていた。

 日本でカワウソの価格が跳ね上がると密輸が相次いだ。2017年10月には、カワウソ10匹を日本に持ち帰ろうとした日本人の女子大生がタイ当局に拘束された。環境団体トラフィックによると15~17年に東南アジアでの密輸取り締まりで保護されたカワウソ59匹のうち32匹が日本向けだった。

 異様ともいえる日本でのカワウソの人気ぶりは海外でも報じられた。国際社会で懸念が高まり、19年8月に開かれたワシントン条約締約国会議で、コツメカワウソとビロードカワウソの国際商業取引の原則禁止が決まった。タイ当局も監視強化に乗り出し、今では「麻薬を売るより難しい」(チャトゥチャック市場関係者)状況で、SNS上の密売が主流になっている。

タイの捜査当局が押収したコツメカワウソ=10月31日、バンコク(共同)

 ▽飼い主の会

 タイの国立公園・野生動物・植物保全局は「イャオ・ドン(鷹の集団)」と呼ばれる特別捜査班を設け、違法売買に目を光らせている。イャオ・ドン幹部によると、フェイスブックでの密売が圧倒的に多い。カワウソを捕まえてから購入者を募るのでなく、何匹欲しいか事前に注文を取ってから調達するのだという。今回もフェイスブック上のやりとりを端緒に、客を装って情報を収集し、男ら2人の逮捕にこぎ着けた。ただサウェットクンチョン・ブンプラダ係官は「全容解明には程遠い」とやや不満げだ。

 男はSNSで直接面識がない「客」から依頼され、同様に面識がない「仕入れ先」に呼び掛けてカワウソを入手した。共に逮捕された男(62)と協力して、大半をバンコクに運ぶ予定だった。そこから日本を含め海外に転売されていた可能性は否定できない。ただ密売ネットワークのつながりは緩く、SNSは偽名で使われる場合が多い。一網打尽とはいかず、捜査はいつも壁にぶつかる。

 コツメカワウソは体長40~60センチ。主に東南アジアの湿地帯や河川にすむ。タイでは南部に生息し、ナコンシタマラート県では魚目当てに養魚池にやってくる。住民のサンティ・ワンジャンさん(54)は「20匹ぐらいの集団を見たこともあるよ」と話す。辺りには一回り大きいビロードカワウソもすむ。時には魚用の仕掛け網に子どものカワウソが交じっていることもあり、親とはぐれたビロードカワウソを育てている住民もいる。それでも「昔に比べ見なくなった」。宅地化が進んだり、米作で農薬が使われたりして、すみかが奪われているからだ。国際自然保護連合(IUCN)はコツメカワウソ、ビロードカワウソをいずれもレッドリストで絶滅危惧種に指定している。

 野生のカワウソが減っているためか、闇市場では「飼育モノ」も出回っている。国立公園・野生動物・植物保全局のプラキット・ワタナクン副局長は「秘密の繁殖場があるはずだが、突き止められない」と語る。

親からはぐれ民家で飼われているビロードカワウソ=11月13日、タイ南部ナコンシタマラート

 密売業者と直接接触できないか。フェイスブックでの検索を日課にしていると「カワウソ飼い主の会」を名乗るグループが見つかった。

 メッセージアプリを使い、やりとりを重ねていく。すると「1匹2500バーツで譲る」と持ちかけてきた。グループの代表と称する人物はバンコクに住みながらカワウソを調達しており、隣国マレーシアで育てた「飼育モノ」を扱っていると明かした。マレーシアだけでなく、国境に近いタイ南部にも「繁殖業者がたくさんいる」。仕入れ値は1000バーツ。「そんなに頻繁に売買しているわけではない。景気が悪いから、金を稼ぐためにやっている」と弁明した。

 希少動物の違法売買の最高刑を禁錮4年から10年にするなど、タイ政府は対策強化に血道を上げている。カワウソが生息する南部に住む女性は「パトロールが増え、おとり捜査も多いと聞く。この辺りで密売に関わろうとする人間はいない」と断言する。状況は厳しくなるばかりなのに不安はないのか。「飼い主の会」の代表に尋ねてみた。しかし気にも留めていない様子だった。メッセージの返信には「当局が知らない売買は山ほどある。密売は撲滅できない」と書かれていた。

【動画】タイの捜査当局が押収したコツメカワウソ(https://www.youtube.com/watch?v=QY9sLKy6oik

© 一般社団法人共同通信社