上昇する毒ガス!高層ビルを元山岳部の無職男と後輩美女が疾走!! エクストリーム・パニック映画『EXIT』

『EXIT』© 2019 CJ ENM CORPORATION, FILMMAKERS R&K ALL RIGHTS RESERVED

韓国からモーレツにフレッシュなパニック映画の傑作が登場! 2019年11月22日(金)から公開中の『EXIT』(2018年)で主人公を演じるのは、Netflixオリジナル映画『麻薬王』(2018年)でのソン・ガンホを詰める若き熱血検事役も記憶に新しいチョ・ジョンソク。元山岳部で無職のボンクラ青年ヨンナム(ジョンソク)が、かつて想いを寄せていた後輩ウィジュ(演じるのは『コンフィデンシャル/共助』(2017年)で可愛さのあまり異様な存在感を放っていた少女時代のユナ)と共に、謎の殺人ガスから命がけの脱出を繰り広げるエクストリーム・パニック・アクションだ。

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緩急豊かな展開でスリルとユーモアを見事に両立させたフレッシュ・パニック!

主人公ヨンナムは就職もできず実家暮らしのボンクラ青年。唯一の取り柄は学生時代に訓練したクライミングのスキルくらい……。親族たちにも慰められまくる中、学生時代にフラれた山岳部の後輩ウィジュと、母の古希祝いのパーティーで思いがけず再会しヨンナムは内心ブチ上がる。

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親族が宴会しているだけの気の抜けた序盤の展開は、いったい何を見せられているのかとクラクラしてくるユルさ。会場がウィジュの職場ということもあって、ヨンナムは意地汚い超庶民的な親族に「勘弁してくれよ……」と狼狽するのだが、これから迫りくる未曾有の危機的事態とのギャップを演出するという意味では大成功である。

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たびたびアピールされるボンクラ男子描写も、緊張感の合間に挟み込まれるユーモラスな演出にフル活用してみせる。序盤でチラリと見せた山岳部の訓練を、しっかりヨンナムの見せ場として回収していく様子はスカッと爽快。立ち上ってくる毒ガスから逃げるため、とにかく高いところを目指すというパニック映画のセオリーを逆転させた発想には脱帽だ。

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最初のミッションこそ高層ビルの外側から屋上に到達するだけのシンプルなものだが、基本的には引っかかりもないツルツルのビルである。しかも、途中からフリーソロ(命綱なし)の状態になるという超スリリングな展開には、フィクションと分かってはいても思わず足がすくんでしまうだろう。

新人監督の手腕に脱帽! 現代韓国が抱える諸問題を盛り込みつつエンタメ性も抜群

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現代韓国社会をベースに親族付き合いのしんどさ、じわりと追い詰めてくる就職活動からブラック企業のウザさ、さらにセクハラ・パワハラ問題などを盛り込み、かつオリジナリティあふれる作品に仕上げてみせたイ・サングン監督は、初の長編とは思えない手腕。パニック映画には必須のクズキャラもバッチリ配置し、気が緩んだり心が折れそうになったときに垣間見せる弱さ(ユナの泣き顔が激カワ)など、過剰にヒロイックに描かないバランス感覚も秀逸だ。

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山岳救助隊が犯罪組織と戦う『クリフハンガー』(1993年)や超高層ビル火災からの救出劇を描いた『タワーリング・インフェルノ』(1974年)を想起させるシチュエーショではあるが、ネット中継でキャラクター同士の視点を繋ぎ、人気YouTuberがエールを送り、ドローンが窮地を救う展開は00年以降ならでは。それでも最後には、文字通り体を投げ出すクライマックスの脱出劇が用意されていて、なんだか不思議なほど感情を揺さぶられてしまった。

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なお、地下鉄内でガスマスクを調達するシーンが印象的だが、第二次大戦~朝鮮戦争後に作られた韓国の地下鉄はシェルターがベースになっているそうで、ガスマスクや酸素ボンベなどが入った棚が普通に設定されているらしい。かつて凶悪な有毒ガス事件に見舞われ、現在も放射能に怯える災害大国日本にも、韓国の危機管理意識の高さを見習って欲しいところである。かなり極端な例ではあるが、本作は災害時の行動パターンを学ぶという意味でも得るものが多い映画と言えるだろう。

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『EXIT』は2019年11月22日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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