小さくたって、プレミアム!
“ナマイキ可愛い”サイズはお好き?
プレミアム×コンパクトの成功は、これまでの常識だった“ボディサイズとラグジュアリーは比例関係にある”という概念が、マーケットに必ずしも当てはまるものではない、ということを示した好例だったように感じている。
つまり、小さなクルマ=安いクルマではなく、小さなクルマにも、いや小さなクルマだからこそクラス感を大事にしたい、という層が確実に存在するということを、販売台数で証明したのではないかな、と。
それに単純に、プレミアムなエンブレムを付けた小さなクルマなんて…なんだか見るからにナマイキ可愛いし!
ジャーマン3最小ながら、世界90万台を売り上げ
というわけで、欧州勢では今や、ドル箱の一角を担うコンパクトセグメントをラインナップするのは当然のフローになっているわけだけれど、なかでもとりわけ個性的なのはアウディだ。
“ジャーマン3”の最小モデルのなかでも最も小さなアウディ A1/A1スポーツバックは、先代で全長4000mmに満たないサイズ。メルセデス・ベンツ Aクラス、BMW 1シリーズに相当するのは同社で言えばA3で、A1はそれよりもさらにコンパクトということになる。
その小さなカラダでユーティリティや室内空間の狭さなどを差し置き、なんと全世界シリーズ90万台を売り上げた力持ちだ。日本でも販売台数は3万台と大人気。エントリーモデルとしての役割を果たす重責はもとより、“このサイズだから”と敢えてガレージに迎えた顧客も多いにちがいない。
8年ぶりのフルモデルチェンジで、嬉しい進化
新型A1スポーツバックが登場!
2019年11月、そんなアウディ A1スポーツバックが8年ぶりに、2代目にフルモデルチェンジを果たした。
大きなトピックスとしてはボディサイズの拡大とパワートレインの変更。…と書くと月並みなのだけど、これまたアウディらしくちょっと個性的な進化なのだ。
まず、ボディサイズから見てみよう。
拡大されたのは全長のみ。先代比で+55mmとなんと、4000mmをすこし超えて4040mmに。全幅と全高はほぼ同じで、伸びた全長分はそのほとんどをホイールベースに生かしたかたちとなる。
見た目は変わらず、中だけ大きく!
こうなることで生まれたのは、先代では成し得なかった室内空間のゆとりだ。特に後席のニースペースとラゲッジルームの拡大は嬉しい進化ではないかと思う。
なお、新型からは先代モデルに用意されていた3ドアモデルが廃止され、5ドアのスポーツバックのみに絞られる。
「3ドアはグッドルッキングだったのだけど、実際にはほぼ5ドアにしか需要がなかった」というのがその理由で、やはりコンパクトなサイズにもある程度のユーティリティを求めるというのがオーナー心理なのだとすれば、理にかなった進化だと感じた。
時代に合ったパワートレイン
アップorダウン? いいえ、“ライト”です
エンジンは2種類の用意になる。
まず日本に導入され、試乗が叶ったのは4気筒1.5リッターガソリンターボの35 TFSI。続いて2020年には3気筒1リッターターボの25 TFSIがやってくる。組み合わされるのは新開発の7速ATのSトロニックだ。
ここで「あれ?」と思った人は鋭い。そう、先代モデルは1.4リッターターボを備えていたのだ。声高に環境負荷低減を叫び、ダウンサイジングターボの先駆けとなった同グループで、25 TFSIがもうじき日本にも到着するとはいえ、1.5リッターに「アップサイジング」されているのは何故なのだろう?
その答えはこうだ。今のアウディは「ライトサイジング」なのだという。このライトは軽いのlightではなく、正しいのright。つまり、時代に合ったエンジンを導入していくという狙いがあるのだそうだ。
気筒休止システムで燃費も良好?
そうなると燃費が気になるところだが、先代はJC08モード計測(旧1.4 TFSI:17.8km/L)、この新型A1スポーツバックからはWLTP値での計測(35 TFSIでWLTCモード燃費:15.6km/L)と、計測方式に違いがあるため、カタログを一見しただけではかなり燃費が落ちたようにも見える。しかし、ユーザーからは「肌感として、先代モデルよりも燃費がいいのを実感している」という声もすでに届いているのだという。
今回の1.5リッター直4ターボには、気筒休止システムが搭載される。150PS/250Nmを発揮しつつも賢く燃焼をマネジメントする、その恩恵も大きいだろう。
いよいよ試乗、“ライトサイジング”は吉と出る?
ハンドリングの面白さは絶品!
今回の試乗はワインディング中心で前述の気筒休止システムの恩恵にはほぼ与(あずか)れなかったのだけど、このエンジンと7速Sトロニックのマッチングはすでにグッドな仕上がりだ。
駆動方式はFFのみ、とエントリーモデルらしい割り切りはあるのだが、FFながらも“クワトロメーカー”らしいセッティングはちゃんとなされていて、このあたりはさすがアウディ、といえるところ。
むしろ鼻先の軽いFFだからこそのしゅっと爽やかなコーナーの進入から、反してコーナー後半にはグイっと押し出すようなトルクを足せる感じは四駆チック、と、まさに双方の美味しいトコ取りな感覚があって、これはまさに軽量・コンパクトなA1だからこそ享受できる個性でもあると感じた。
なんとも独特でユニークなのだ。そう、単純にハンドリングが面白い!
話は横道に逸れるが、わずか1220kgながら接地感の味付け方も抜群で、このあたりもアウディらしいハンドリングが実現されている所以ともいえる。
加速ムラのない、なめらかな仕上がり
そして、このコーナリングの最中にも威力を発揮するのが7速Sトロニックだ。シフトチェンジが驚くほどなめらか、かつシームレスで、加速にムラが生まれがちなダウンサイジングターボらしからぬ滑らかさ。
特に登坂のヘアピンなど車速変化が大きくなるようなところに来ると、エンジン自体の繊細な吹け上がりもさることながら、シフトダウン/アップにムラがないことがともて気持ちいい。ちゃんと車速に合ったギアを選択してくれるからこそ、ターボラグも最低限に抑えられているという感じだ。
この途切れのなさはむろん、時速0キロを含む超低速からの走り出しなんかにも言えて、さすが“ライトサイジング!”と膝うつ良き仕上がりだ。
このコンパクトに、この先進性はズルい
デジタル感がまぶしいコックピット
さて、この新型A1スポーツバックはブランドのエントリーモデルでもあることから、デジタルコンシャスな若年世代をも取り込むべく、先進を意識したインターフェースが積極的に採用されているのも大きなセールスポイントだ。
そもそもデジタルと光り物(ライト系ですね)に関しては一家言あるアウディのこと、従来のMMIインターフェースをさらに進化させた。
メータークラスターの中をフルデジタル化し(標準装備)、ナビなどを表示できるバーチャルコックピットはそのまま継承(オプション)。画面の操作はステアリングホイール内のスイッチで行える。
メインディスプレイは10.25インチでこちらはタッチ操作にも適応し、他モデルでお馴染み、シフトノブ周辺に配されたダイヤル式のコマンドスイッチは廃止されている。
ちょっと驚きの快適装備
ほかにはスマートフォンの非接触充電(iPhone8以降対応)、USBポートは2つ、そのうちのひとつはType-Cで、ノートパソコンなどの充電出力にも対応(!)しているという。また、オプションだがバング&オルフセンのオーディオも用意された。
世代的にかなり上級兄貴分のQ5なんかよりよっぽどいいものが入っている…ちょっと驚きの内容だ。
安全装備もグレードアップ
そして、運転アシスタンスも上級グレードに引っ張られて最新世代に。
レーダーセンサーで前走車、歩行者などを感知するとアラートで知らせ、それでもドライバーが気づかないとブレーキに微振動を与えて注意を促す。さらに危険な状態が続くと自動的に減速し、停止させるところまでをサポートする「アウディプレセンスフロント」は標準装備となる。
オプションも豊富で、アシスタンスパッケージにはアクティブレーンアシスト、アダプティブクルーズコントロールにくわえ、パーキングアシストも備えた。
さて、どれを買おうか
まさに盛りだくさんの進化を遂げたアウディ 新型A1スポーツバック。
装備をシンプルにして廉価なアドバンスか、上級装備のSラインか。それとも1.0リッターエンジンを待つか。
またコンパクトに楽しみが増えた。
[筆者:今井 優杏/撮影:茂呂 幸正]
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アウディ 新型A1スポーツバックの主なスペック
※1.0L 直列3気筒エンジンを搭載するA1スポーツバック 25 TFSIの日本導入は、2020年夏頃を予定。