【デザイナーに直撃!】<ザ・ノース・フェイス>のギアは日本の山から進化してるって本当ですか? ハイカーのみならず、多くのアウトドア好きから大人気の<ザ・ノース・フェイス>。アメリカを代表するアウトドアブランドですが、日本で展開されているプロダクトの多くは日本のフィールドに合わせて日本で企画されたものなんです。そこで多くのギアを生み出しているデザイナーさんに、モノづくりで大切にしていることを聞いてきました!

TNFのギアを手がけているのは、たったひとりのデザイナーでした

※筆者が背負い心地に新しさを感じた『エフピー30』

使ってみて、「どんな人がつくったのだろう?」 そう感じた登山の道具が、皆さんはありますか?
今年、ザ・ノース・フェイス(以下TNF)の[エフピー30]というバックパックを背負って歩いた時、私はその背負い心地の新しさに「いったいどんな人がつくったのだろう?」と思いました。

※左がデザイナーの知久 健さん、右がTNFエキップメントグループの門司陽佑さん

今回その念願が叶い、[エフピー30]の生みの親、デザイナーの知久 健(ちきゅう けん)さんにインタビューをすることができました。

聞けば知久さんは、日本のTNFのエキップメント=バックパックをはじめとするバッグ類、テント&タープ、ハットやグローブ、ゲイター等のアクセサリー類のデザインを、長きに渡りひとりで担当している方でした。
「日本の~」と書いたのは、実は日本で販売されているTNFの製品は、ゴールドウインというスポーツ用品会社が手掛けていて、現在ではそのほとんどが日本で企画された製品なのです。

今回のインタビューでは、デザイナー知久さんと同じくTNFのエキップメントグループで商品企画を行なうMDの門司陽佑さんも同席。このお二人に話しを聞けば、きっとTNFがモノづくりでどんなことを大切にしているかもわかるはずです!

元ファッションデザイナーが、TNFのバックパックに出合った

さて、早速[エフピー30]から話を進めたいところですが、知久さんの経歴がとても興味深いので、まずはその話からはじめます。現在ではエキップメントづくりのマスターとも呼べる知久さん。デザイナーとしてのはじまりは、なんとファッションからだったといいます。

「ゴールドウインに入る前、最初に働いていたのはファッションブランドでした。でもほどなく退社し、ヨーロッパへバックパッキング旅行に出掛けたんです」

多くの人の意見をまとめる、デザイナーの仕事

※製品化まではテストの繰り返し。テスターのみならず、知久さんを含むTNFスタッフも山で使い心地を試す。

そのバックパッキング旅行では、なんとTNFのバックパックを背負っていたそうです。

「ヨーロッパのバックパッキング旅行をはじめるにあたって、渋谷の東急ハンズでカッコいいなぁと手に入れたのが、TNFの[プロフィット65]というバックパックだったんです。それに、次にデザインの仕事をするなら服以外のものと決めていました。だからTNFの仕事が決まったとき、好きだった自然に関われる仕事、しかもギアのデザインをすることなり、これは面白いことになったなぁと感じました」

とはいえバックパックを含めて、アウトドアのギアをデザインすることははじめて。当然、試行錯誤はつきものです。

「デザイナーの仕事は、思い浮かんだアイデアをそのまま製品化することだと思われるかもしれません。でもアウトドアのデザイナーは、そうではないんです。提案した道具について、ショップのバイヤーやテストしてくれるアスリート、メディア関係者の意見に耳を傾け、まとめるのが仕事です

先鋭性とバランス感覚。両方を兼ね備えたタフなギア

※絵を描くことが好きな知久さんは、デザイン案を手描きするそう。ちなみにこれは来期の小型パックの案。

「いろいろなジャンルのトップがいて、それぞれに違った考えがあり、誤解を恐れずに言えば、皆さん好き勝手を言ってくれます。ひとつの方向にトガり過ぎてはいけないし、バランスを取り過ぎても面白くない。既存のモノの真似をせず、少しでも機能を高めたい。そう思ってモノづくりをしています」

トガり過ぎない・・・冒頭で紹介した[エフピー30]は、ガレージブランドが手掛けるバックパックのようにそのスタイルは斬新です。反面、ビギナーからベテランまで多くのハイカーが使いやすい。ファストパッキング(Fast Packing)の頭文字を取って[エフピー]と名付けられていますが、ハイキングからトレイルランニングまでに機能するオールラウンドなパックです。

高品質で、多くの人に受け入れられるものを

「2019年モデルの[エフピー]、そしてその前モデルのPONCHOさんが評価してくれている[エフピーハイブリッド]も、TNFが提唱するファストパッキングを具現化したパックです。軽くて、激しい動きに対応する運動性、背面の通気性を装備しながら、しっかりとした耐久性も併せ持つことを目指しました。ガレージブランドを含めて軽量パックもいろいろと研究しましたが、奇抜というか挑戦的なデザインや機能に偏ると、万人受けはしないだろうと考えました」

MDの門司陽佑さんが、こう続けます。
「ライト&ファースト=軽さと高い運動性に加えて、TNFがつくるギアは、耐久性=タフさを併せ持つことを基本にしています。アウトドアブランドが多くの人に満足、信頼してもらうベースはタフさです。だから素材ひとつとっても、厳しいテストを設け、それをクリアした素材しか使いません。またオリジナルの素材も開発し、より高い品質を目指しています」

日本の山にフィットするパックは、デザインにもこだわった

※左が2019年版のテルス35、右が同エフピー35

そもそも[エフピー]シリーズを開発したきっかけを問うと、それは現在で4代目となる[テルス]というバックパックが始まりだと知久さんは教えてくれました。

「登山できちんと使える高機能パックを、日本で企画した最初のモデルは[テルス]というパックなんです。ちょうど『山ガール』が注目された2011年、登山人気が再燃していた頃です。それまでのTNFの高機能パックはアメリカ企画の製品が中心でした。そこで日本人に合うフィット性、蒸し暑い日本の山でも快適な涼しさ、さらに雨の多い日本なのでレインカバーを装備、価格はビギナーでも手を出しやすい15,000円くらいのパックということでつくったのが[テルス]です」

その[テルス]は当時のバックパックでは珍しかった、本体とストラップが同色のワントーンでまとめられており、ヒット商品になったそうです。日本のハイカーと山にフィットする機能と、ファッションブランドのデザイナーでもあった知久さんならではのワントーンというアイデアが結実したプロダクトだったといえます。

培った機能をアップデートして生み出すプロダクト

「[エフピー]の背面に採用した「トランポリンパネル」も、[テルス]の次につくった[カイルス]がはじまりです。アドベンチャーレーサーの田中陽希さんが『名山ひと筆書き』の旅でも愛用してくれて、さまざまなフィードバックをもらい開発しました。
背中に当たる部分にエアメッシュ、本体側に逆Uの字型にアルミフレームを配した背面システムで、トランポリンのようにしなやかに荷重を支え分散、動きに対応。また背中とパックの間に大きな空間をつくってムレを軽減しました」

[テルス]で重視した通気性のよさを、[カイルス]でさらに向上させ、運動性もプラス。ビギナーだけでなくベテランハイカーが長期の縦走等に使えるプロダクトにアップデート。そして[エフピー]ではさらに軽さを装備させ、トレイルランニングやファストパッキングを楽しむアクティブ派に快適さを提供。

世界でも高評価!日本のTNFが世界のTNFへと羽ばたく

「日本の山の楽しみ方はどんどん細分化されているので、そのスタイル、ニーズに合ったギアをつくる難しさが、モノづくりの楽しさでもあります。また最近はアメリカ本国やヨーロッパのTNFでもかなり注目され、日本のギアをベースにした商品や、日本のデザイナーがつくったウェアが販売されているんです。日本の山に合わせてつくったギアやウェアですが、それが世界でも受け入れられるようになってきたことは、正直うれしいです

アメリカのアウトドアブランドらしいカラーやデザインにワクワクして、TNFを好きになった人は多いと思います。私もそのひとり。でも[エフピー30]を背負って歩いた時、TNFらしいエッセンスとともに新しさを感じたのは、日本のハイカーと山に合わせたモノづくりがあったからなんですね。それが日本を飛び出して世界からも評価されているとは驚きです!

それでは皆さん、よい山旅を!

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