2019年9月中間決算  上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査

 2019年9月中間決算を発表した3月期決算の上場企業2,420社のうち、GC注記と重要事象を記載した企業数は55社で、前年度本決算(2019年3月期)の58社から3社減少し、これまで最少だった2018年9月中間決算(54社)を1社上回った。
 決算短信で「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン注記、以下、GC注記)」を記載した上場企業は21社で前年度本決算(21社)と同数。また、事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある場合に記載する「継続企業に関する重要事象」(以下、重要事象)は34社で、前年度本決算の37社から3社減少した。
 GC注記と重要事象が記載された企業は、リーマン・ショック直後の2009年3月期に過去最多の145社を記録し、その後は減少をたどっている。ここ数年は50社台と、一進一退が続いているが、業績回復が遅れた中堅や新興勢が大半で、好調企業との二極化が鮮明となっている。また、高い業界シェアを誇りながらも不振が続く大手企業や、不適切会計が発覚した企業にもGC注記が記載され、注目度が増している。

  • ※本調査は、全証券取引所に株式上場する3月期決算企業を対象に、2019年9月中間期の決算短信で12月5日までに発表された「GC注記」及び「重要事象」を記載した企業の内容、業種を分析した。

新たに2社にGC注記の記載 注目集めるJDIにも前年度に引き続きGC注記

 2019年9月中間決算でGC注記を記載したのは21社で、前年度本決算(21社)と同数だった。
 前年度本決算のGC注記企業21社のうち、曙ブレーキ工業(東証1部)は事業再生ADRによる事業再生計画案が全取引金融機関の同意を得て成立、総額560億円の債務免除とファンドによる増資が完了したとしてGC注記が解消した。また、樹脂製容器などを製造する中央化学(JASDAQ)は、業績回復による利益計上などを理由にGC注記が解消した。
 一方、前年度本決算でGC注記を記載しなかったが、当中間期決算で記載したのは2社だった。電子機器受託製造のユー・エム・シー・エレクトロニクス(東証1部)は、7月に不適切な会計処理が発覚して過年度決算を訂正。これにより「当社に対する金融機関の与信姿勢に不透明さが生じている」とした。建材ボード製造の東京ボード工業(東証2部)は、前年度に引き続き営業・経常・最終損失、営業キャッシュ・フローのマイナスを計上した。
 また、不適切会計の疑いで12月2日付けで特別調査委員会を設置した液晶パネル大手のジャパンディスプレイ(東証1部)は、大幅な連続赤字の計上により、9月中間決算時点で1,016億円の債務超過となり、前年度決算に引き続きGC注記を記載した。
 GCに至らないまでも事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある場合に記載する重要事象を記載したのは34社で、前年度本決算(37社)から3社減少した。

3月期決算企業 GC・重要事象件数推移

GC注記・重要事象記載 本業不振が8割

 GC注記・重要事象の記載企業を理由別に分類すると、45社(構成比81.8%)が重要・継続的な売上減や損失計上、営業キャッシュ・フローのマイナスなどの「本業不振」を理由としている。次いで「財務制限条項に抵触」、「再建計画遂行中・その他」、「資金繰り・調達難」が6社(同10.9%)だった。売上や損益の悪化など、本業面で苦戦が続く企業が大半を占めている。
 このほか、1年以内に解消できない場合、原則として上場廃止となる「債務超過」。金融機関への返済猶予・リスケジュールや取引先への支払遅れが発生している「債務支払条件変更・遅延」がそれぞれ3社(同5.4%)と、重大局面が続く不振企業が存在している。

  • ※注記理由が重複記載されており、構成比合計は100%とならない。
GC注記・重要事象記載企業 理由別

業種別では製造業が約4割 新興市場と中堅規模が中心

 GC注記・重要事象の記載企業55社の業種別は、製造業が24社(構成比43.6%)で最多。中堅規模のメーカーなどが多くを占めた。上場区分別では、東証1部は10社(同18.1%)にとどまり、東証2部上場の中堅規模や、JASDAQ、マザーズなどの新興市場が半数以上を占めた。
 名門で実績はあっても、近年は業績回復の糸口が見えずに不振が続く老舗や事業基盤や財務体質がぜい弱なベンチャーなどが多いことも特徴といえる。

 上場企業の倒産はリーマン・ショックの2008年の33件をピークに減少をたどり、2019年は12月5日時点で1件にとどまっている。倒産の減少とともにGC注記と重要事象の記載企業は減少し、3月期決算企業の2019年9月中間決算も、55社と低水準が続いている。
 一方、GC注記の記載理由には、連続赤字など本業不振にとどまらず、債務超過や債務の未払いなど深刻な事態を露呈しているケースも散見される。2019年1月に民事再生法を申請したシベール(JASDAQ)も「重要事象」を記載していた。2010年以降、倒産した上場企業30社のうち、28社までが直近決算でGC注記・重要事象を記載し、残る2社も期中に粉飾決算などが発覚し、訂正しないまま破たんしたケースだった。あらためてリスク情報としてのGC注記・重要事象がクローズアップされている。
 上場企業の倒産件数とGC注記・重要事象の記載企業数は沈静化しているが、経営状況を示す重要なシグナルとして、引き続き注視していく必要がある。

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