JTBが「陸のクルーズ」でヨーロッパに注力する裏事情

旅行代理店大手のJTBが、全社的に力を入れるエリアとして指定する「グローバル・デスティネーション・キャンペーン」。2017年度はシンガポール、2018年度はオーストラリア、2019年度はハワイときましたが、2020年度はヨーロッパに決まりました。

ヨーロッパに注力するのには、どのような狙いがあるのでしょうか。12月5日に開かれた「2020年度JTB海外旅行 新商品発表会」の内容から探ります。


ヨーロッパをめぐる現地発着バス

ガラス張り2階建てのバスで、フランス料理のフルコースディナーを食べながら、パリの観光名所を巡る――。これは今回発表された新商品の1つです。JTBがバスレストラン「バストロノーム」を365日チャーターし、ミシュランガイド2つ星のシェフが監修した食事を提供します。

また、「その時期、その場所でしか体験できない感動」を届けるという「旬の旅ヨーロッパ」は、個人旅行では計画しづらいイベントに行けるプラン。スペインのトマト祭りや、ドイツのオクトーバーフェストなどがラインナップされています。

「差別化コンテンツとして、貸し切り観光・特別観光を強化する」と、海外仕入商品事業部・商品戦略部の武藤好則部長は、新商品の狙いを説明します。

さらに2020年度は、2019年4月から開始した「ランドクルーズ」の運行ルートを拡大。ヨーロッパ16ヵ国をカバーしており、今回新たに「美食の街スペイン北部バスク地方」「クロアチア・スロベニア」「イギリス コッツウォルズと湖水地方」の3ルートが加わります。

ランドクルーズは宿泊・観光付きの現地発着型の周遊バスツアーで、「海にクルーズがあるように、陸にもクルーズを」がコンセプト。利用者は行きたい場所に合わせて、バスを自由に乗り継げます。バスには日本語現地係員が同乗し、1人からの出発保証もあります。

これまでの利用者は約2,600人で、約4割がJTBの新規利用者。「自分の力ではいけない場所に行けて満足」「すごい行列だったのに殆ど待たずに観光できた」「夕食がついていないのが魅力」といった声が寄せられているといいます。

アウトバウンドは2000万人達成見込み

JTBの海外仕入商品事業部の遠藤修一・事業部長によると、2019年度の海外旅行の市場環境は「非常に好調」。日本政府観光局(JNTO)が11月に発表した日本人出国者数は、2019年1~10月の累計で1,672万人(前年同期比107.1%)。このままのペースが続けば、政府が目標とする2,000万人を超える見込みです。

そうした中、パッケージツアーに強みを持つ同社が、なぜヨーロッパでのランドクルーズの拡充などに積極的に取り組むのでしょうか。

「マーケットの変化に対応しきれていない。FIT(海外個人旅行)化など旅行目的の多様化や、パーソナライズ化が進んでいる」(遠藤事業部長)。市場全体の伸びや性質の変化に同社が追いついていない、と指摘します。

その点でランドクルーズは、FITがベースでも追加で申し込める内容です。また、JTBの持つ国内外のネットワークを生かした商品企画が可能。同社ならではの価値を創出して、オンライン旅行会社との差別化を図る狙いです。

ヨーロッパのテロイメージが払拭

ヨーロッパに注力する別の背景として、利用者のヨーロッパに対する心理状態の変化もあります。2015年に起きた「パリ同時多発テロ事件」の影響で、一時はヨーロッパへの旅行人数が減少していましたが、現在は元に戻りつつあるといいます。「テロのマイナスイメージが完全に払拭できている」(遠藤事業部長)。

座席供給数の大幅な増加も、理由の1つです。羽田空港で発着枠増枠があり、関西国際空港発着のヨーロッパ路線も拡大。それによる新規就航路線をいかに活用するかがポイントといいます。

「ラグビーワールドカップや来年の東京オリンピックで欧米からの訪日需要が強く、欧米路線が増えている。これはアウトバウンドにとっても、強い追い風になっていく。活用できる座席があるので、取り組みを強化してキャッチアップしていきたい」(同)

2020年度の目標は、売り上げが2019年度とほぼ同額、人員は7%増。「ハワイプライド宣言」と銘打ち、ハワイに関してもグローバル・デスティネーション・キャンペーンの対象だった今年度と同規模のキャンペーンを展開する予定です。

東京オリンピック開催期間中は「海外旅行控え」が懸念されますが、先行発売ではハワイに関して前年実績を大きく上回り、「海外旅行に行く需要が確実にあると実感できた」(同)といいます。

インバウンドとともに盛り上がりを見せてきたアウトバウンド。オンライン旅行会社にはない商品の力で、ユーザーを取り込むことができるでしょうか。

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