【ASEAN新潮流】マレーシア・インドネシア 文化と共存、業績に効果 奨学金で住民支援も

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お好みソースを箱詰めするオタフクソースマレーシアの従業員
広大な敷地内を車が行き交うカラワン工業団地

 東南アジア諸国連合(ASEAN)を訪問した広島経済同友会の視察団。食品事業を手掛ける企業からの参加メンバーが、マレーシアの首都クアラルンプールのスーパーを見学した。陳列したお好みソースに目が留まった。イスラム教が戒律で禁じる原料の不使用を示す「ハラル認証」のマークが付いていた。

 生産したのは、オタフクソース(広島市西区)の現地法人オタフクソースマレーシア。スーパー近くの工場を訪れた一行を、尼田和孝社長(44)が出迎えた。アルコールや豚由来の原料を認めないハラル認証。マレーシア政府の認証機関「JAKIM(ジャキム)」は厳格な審査で知られる。尼田社長は「ハラルを正しく理解すれば、前向きに対応してくれる」と説明した。

 ▽祈りの部屋整備

 2017年に認証を得るまで苦労を重ねた。ソースの複雑な味わいを生む原材料の一つ一つが既に認証を受けている必要があるためだ。最も苦労したかつお節粉末は、日系メーカーのインドネシア産を探し当てた。

 現地の文化との共存にも心を砕く。イスラム教徒の従業員のため、建物内に男女別の祈りの部屋を整えた。金曜午後はモスクに行くため、違う宗教の従業員を雇って対応している。働きやすい職場環境は好業績につながった。最近の生産量は当初想定の倍となる月4万リットルペース。視察団長でオタフクホールディングス(西区)の佐々木茂喜社長(60)は「次の工場を検討している」と明言した。

 同国の人口3200万人のうち6割はイスラム教徒。世界全体では約16億人とされ、インドネシアやブルネイにも多く、イスラム教徒向けの事業は魅力が大きい。加えて、ASEANは若者が多い。18年時点のマレーシアの平均年齢は28.7歳。インドネシアも30.5歳と加盟10カ国すべてが日本の47.7歳を大幅に下回る。

 こうした若者が働き手を担う工業団地が、インドネシアの首都ジャカルタの東約60キロにある。カラワン工業団地だ。約160社のうち、殺虫剤製造のフマキラー(廿日市市)など8割を日系企業が占める。自動車や電気・半導体関連などが目立つ。

 約1400ヘクタールの敷地は、1992年から伊藤忠商事と現地企業が共同で開発・運営する。国営電力PLNと優先供給契約を結び、国内で多い停電はほとんどない。団地内の道路は滑らかで通信回線やレストラン、医療施設も整う。運営会社の山口真社長(55)は「事業に専念してもらえる」と視察団に売り込んだ。

 ▽人件費高騰課題

 団地は、貧困に苦しむ周辺住民の支えにもなっている。雇用をもたらすだけではない。進出企業でつくる「自治会」はベビーフードや奨学金を住民に贈り、農水産業の方法を伝える事業にも取り組む。無料の学習塾の開設も検討している。山口社長の説明に、視察団の副団長で広島ガス(南区)の田村興造会長(68)は「持続可能な開発目標(SDGs)を先取りするような取り組みだ」とうなずいた。

 企業にとって課題は人件費の高騰だ。ジャカルタの今年の最低賃金は10年前の約3.5倍。周辺各国でも上がり続ける。安い働き手を求めるだけでなく、いかに経済成長を持続させるか。そのヒントは、ASEANに根付く多様性の中に垣間見える。(桑田勇樹)

 <クリック>ハラル認証 食品や医薬品、化粧品などに、イスラム教が禁じる豚肉やアルコール由来の成分を含んでいないことの証明。各国の認証機関が、製造工程や包装、保管の方法も踏まえて審査している。ハラルはアラビア語で「合法」を意味する。