見た目は普通のハッチバックでも中身はFF最速、ルノー「メガーヌR.S.トロフィー」をサーキットで試乗

量産FF車世界最速ともいわれる「ルノー メガーヌR.S.トロフィー」。どれほど特別なクルマなのでしょうか?

サーキットでの試乗が許されたスペシャルモデルでちょっぴり走り込んでみました。


世界で最も過酷なテストコース

今回の主役「ルノー・メガーヌR.S.トロフィー」ですが「ニュルブルクリンクFF最速のDNA」というキャッチコピーが与えられています。クルマ好きにとって「ニュルブルクリンク最速」という言葉は、実に魅力的な響きがあります。それはなぜでしょう?

まずニュルブルクリンクですが、ドイツ北西部にある一周約25kmのサーキットです。ここにはF1やWEC(世界耐久選手権)などが開催されている1周約5.1kmの「グランプリコース」と、そして1周約20.8kmの「ノルドシェライフェ(北コース)」という二つのコースがあります。この二つを合体させたコースではニュルブルクリンク24時間レースが開催されることでも知られています。

そしてCMなどでも耳にする“ニュルブルクリンク最速”というタイムは北コースでの記録のことをいいます。このコースはヨーロッパの一般地方道に似たレイアウトで、なんと標高差が300m、コーナーは大小170を超え、低速から超高速域のあらゆる速度域での走りが要求されます。例えば日本の鈴鹿サーキットは全長5.807km、高低差約40m、コーナー20ということを見れば、ニュルブルクリンクの巨大さが分かると思います。

一見するとノーマルのメガーヌですが、フロントマスクやエアロパーツなどスポーツモデルとしてのしつらえが全身に散りばめられ、精悍さもあります

さらに路面は一般のサーキットのように滑らかではなく、「平らな部分が一つもないのでは」走った人たちに言わせるほど変化に富む難しいコースで、別名「緑の地獄」ともいわれています。知人のレーサーたちも“いくら走っても恐怖がつきまとう”と言うほどのコースは「世界中の道が凝縮された“生きた道”」とも「クルマ開発の聖地」ともいわれています。そうした意味からこの北コースは世界有数の難関コースにして、世界最良のテストコースでもあり、多くのメーカーがテストやタイムアタックを行います。トヨタのクラウンのように「ニュルブルクリンクで鍛えた」と、CMで謳うメーカーが有るのもこのためです。

ちなみにここでの1周のタイムでは、レーシングカーのポルシェ919ハイブリッドEVOが5分19秒5、スバルWRX STIのニュル・アタックスペシャルモデルで6分57秒5という記録があります。市販で見るとランボルギーニ・アヴェンタドールSVJが6分44秒97という記録を現在持っていますが、まぁ、考えてみてください。変化に富む20kmのコースをわずか6分から7分台で走るのですから、相当な性能自慢がここに集うわけです。

強烈なプラスアルファを追求

今年の4月、量産FF車としての最速タイムにルノー・メガーヌR.S.トロフィーをさらにチューニングした「トロフィーR」が挑み、7分40秒100をたたき出しました。それまでホンダ・シビックTYPE Rの7分43秒80とされていますから、コースが2016年以降に改修を受けたとはいえ、市販量産車としてのFF最速を塗り替えたということになります。

そして今回の主役、ルノー・メガーヌR.S.トロフィーですが、市販車とはいえ、これまた特別なクルマです。R.S.(RENAULT SPORT) の名を持つクルマが、サーキットでも公道でも輝きを放つ理由はそこにあります。R.S.のエンブレムはルノーのモータースポーツ活動の中心を担う「ルノー・スポール」が手掛けている証で、F1テクノロジーや情熱などが余すことなく注入されたモデルなのです。ルノーには他にもR.S.の称号が与えられているクルマがありますが、当然のように モータースポーツのDNAが生かされた一級品のスポーツカーといえるワケですが、さらに勝者の証、頂点に立つという意味の「トロフィー」と名付けられているのですから、特別中の特別。ルノー・スポール最高峰のパフォーマンスを実現したモデルとなるわけです。

フロントフェンダーのエアアウトレットは、ホイールハウス内とエンジンルーム内の熱の排出効果を高める

通常でも切れ味鋭いR.S.をさらに研ぎ澄ました特別な存在ですから、さぞかし見た目も凄いかと思いますが、意外なほどさりげない外観です。ごく普通のハッチバックモデルとぱっと見は変わりがないかもしれません。それでもボディにはエアロパーツがさりげなく、足下にはブレンボの赤いキャリパーがとか、見る人が見れば“ただ者ではない感”が散りばめられています。

スポーツモードにセットすると迫力あるエンジン音が響き渡る

ところがボディの骨格であるシャシもサスペンションも、そして1.8リットルの直列4気筒ターボエンジンも、R.S.よりも21PSアップの300PSとなっている特別モデルです。サスペンションなどにも徹底的に手が入っています。ノーマルのR.S.が448万1千円ですが、トロフィーは2ペダルのモデルで499万円、その差は約50万円です。果たしてその差は適正なのか、お買い得なのか試すためにサーキットへと乗り出しました。

コイツにふさわしいスキルを磨きたい

強烈な加減速、ハードなコーナリングを要するサーキットでも、安定した走行を実現する

拍子抜けするほどあっさりと走り出します。特別な操作も癖もありませんし、何よりも乗り味がなんともソフトで優しいことから、こちらが油断してしまいます。ごくごく普通に使うなら、とても使いやすいフレンチハッチとして買い物でもお迎えでもなんにでも使えます。

でも今日はサーキットを走る時に必要な性能を引き出すために「レースモード」にセットします。するとエキゾーストがかなり勢いよくボボボボボッっと響き渡り、私たちにはとても心地いい音が聞こえてきました。早速コースに飛び出し、最初はウォーミングアップ走行、と思いましたが、サウンドが変わったと同時にエンジンのトルクアップとレスポンスアップを少しでも速く味わいたくなり、途中からけっこう活発な走りに突入です。

当然、サーキット走行を想定したセッティングですから、アクセルを踏み込むほどに安定してグイグイと引っ張ってくれます。さらにブレーキの聞きも唐突すぎず、かといって踏み応えが頼りないこともなく、いい塩梅で加速も減速もこなしてくれるのです。この路面とのコンタクトのレベルの高さはさすがと言えるもので、どんどんと笑顔になっていきます。

「TROPHY」と名付けられた専用アルミホイール。赤い4ピストンのモノブロックキャリパーがその奥で存在を主張しています。ブリヂストン ポテンザ S001を標準装備し、広い接地面で路面をしっかり捉えます

もちろんサーキット走行とはいえ、試乗会ですから抜きつ抜かれつは禁止です。心置きなく自分のレベルに合わせて走ることが出来ます。それでも筑波の最終コーナーで軽いスキール音と、わずかなスリップを伴いながら、安全に駆け抜ける事が出来たのはサスペンションのセッティングの良さ、このクルマの素性の良さを強烈に感じることが出来たシーンでした。とくに4コントロール(4輪操舵システム)はなんとも安定したコーナリングレスポンスを実現してくれるので、性格に走行ラインをトレースし、まるで自分の腕が上がったような感覚になる。こうしてどんどん楽しくなるのだが残念ながら周回をこなし、さらに楽しくなってきたところで試乗は終了。“久し振りの楽しさ”にそれなりに興奮していたのでしょうが軽く汗ばんでいました。

ここでサーキットモードを解除してみると、また日常的な乗り心地が蘇り、なんとも使い勝手のいいフレンチハッチに戻っているのです。当然のように日常的にサーキットモードはほとんど使うこともなければ、助手席に家族が乗っていたりすれば、むしろ嫌われるモードかもしれません。でも“イザとなればケンカには強いんだぜ”と言うところは、密かな楽しみになるわけです。そのためにR.S.よりも50万円多く支払う。難しい判断かもしれませんが、少し無理しても私は見栄も張りたいのでトロフィーを選択します。あ、その前にこいつをキッチリ使いこなせるだけのスキルを持ち合わせていないと、本当の宝の持ち腐れになりますが……。

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