電力をめぐる「戦争」がいくつもあった

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福井県高浜町にある関西電力高浜原発をめぐり、同社の経営陣に地元有力者から金品が贈られていたことが明るみに出て、大問題になっている。原発にかんする闇の部分が表面化したものだ。電力をめぐっては戦後、さまざまな局面で権力と暴力、金をめぐる暗闘が続いてきた。本書『電源防衛戦争』(亜紀書房)は、戦後の電気業界再編の内幕をスキャンダルな事件をもとに描いたノンフィクションである。

電力利権の争奪戦

著者の田中聡さんはノンフィクション作家。著書に『陰謀論の正体!』(幻冬舎新書)、『電気は誰のものか』(晶文社)などがある。膨大な資料から歴史に埋もれた事象を掘り起こす仕事に定評がある。

本書の主な登場人物は5人。自ら作った発電所を戦前の国策会社に吸収され、戦後取り戻そうと戦い続けた実業家・加藤金次郎。官僚による電力の統制に抵抗し続けた「電力の鬼」松永安左エ門。発電所の労働組合と共産党の弱体化のために攪乱工作をした右翼活動家・田中清玄。原子力発電を超特急で日本に導入しようとした正力松太郎と中曽根康弘。加藤以外の4人は有名だ。

冒頭、加藤が当時、日本最大の企業だった日本発送電株式会社(日発)の総裁と前総裁らを恐喝、殺人未遂で告訴したスキャンダルから始まる。日発は全国の発電・送電事業を独占する国策会社。加藤が私財を投入し富山県の庄川につくった大牧発電所は金銭の補償がないまま、日発に吸収されたのだ。戦後、その返還を求める中でのことだった。国会でも質疑されたが、うやむやになった。

次はGHQの要請で始まった電力再編の話になる。電力事業を9社に分けるか、1社に統合するかで対立した。松永安左エ門の孤軍奮闘ぶりがよく語られるが、本書では日発の疑獄事件や右翼の三浦義一の暗躍、GHQ内部の抗争などにからめて立体的に描いている。

結局、マッカーサーから吉田首相宛の書簡が届き、「ポツダム政令」により9分割が決まり、今日に至っている。

一方、加藤が返還を要求していた大牧発電所は関西電力に移り、告訴は不起訴になった。逆に関西電力が原告となり、加藤に対する民事訴訟が続いた。こうした返還運動は他にもあったという。地方公共団体からの公営電気復元運動は現物復元から代案解決という形で、その後決着した。田中さんは「復興、再建といったスローガンのもと、人々の意識はなお総力戦のままだった」と書き、「加藤金次郎という危ない存在は、このような私たちの意識の秘密を照らし出している」としている。

電源地帯での噂

ところでタイトルにもなっている「電源防衛戦」とは何か。1950年の夏、群馬や福島など水力発電所を抱える電源地帯では「電源防衛隊」のいかつい男たちの姿が見られた。発電所の爆破を日本共産党が計画しているという情報が広まり、新聞も連日「電源を"赤"から守れ猪苗代から狼煙」(8月13日、毎日新聞)など書きたてた。

この前年に下山事件、三鷹事件、松川事件と国鉄をめぐる怪事件が続き、日本共産党のしわざとみなされていた。こうして共産党と対立する民同派が、電源を防衛せよという運動を展開した。

そして獄中転向して、反共主義者となった田中清玄が登場する。田中が創立した三幸建設工業の社員が電源防衛隊員になり、表と裏の二つの活動をした、と書いている。表は啓蒙活動だが、裏は暴力団まがいの実力行使だ。この活動は田中が社会的に認知されるきっかけになったという。

その後、田中はインドネシア、アラブ諸国からの石油輸入などにかかわる。「最期まで電源防衛隊の隊長であり続けたかのようだ」と書いている。

原子力発電を早くから唱えた中曽根康弘氏

本書の9章、10章では原子力発電の日本への導入についてふれている。先日亡くなった中曽根康弘氏が登場する。原爆を見た体験から原子力の「平和利用」に取り組んだ、と生前よく語っていたという。読売新聞社主の正力松太郎も原子力発電の導入に力を尽くした。

本書の結びはこうなっている。

「核爆発から生まれた戦後社会は、核への恐怖を『平和利用』で克服しようとしたが、今はその『平和利用』の恐怖が日常を浸食している。敗戦はしたが、終戦はしていない」

巻末には膨大な数の参考文献が挙げられている。事件やスキャンダルにも目を配り、単なる電力業界史に終わらない奥行きを出している。たいへんな労作だ。

  • 書名:電源防衛戦争
  • サブタイトル: 電力をめぐる戦後史
  • 監修・編集・著者名: 田中聡 著
  • 出版社名: 亜紀書房
  • 出版年月日: 2019年10月 7日
  • 定価: 本体1800円+税
  • 判型・ページ数: 四六判・347ページ
  • ISBN: 9784750516172

(BOOKウォッチ編集部)