【社説】日米貿易協定 「ウィンウィン」本当か

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 日米貿易協定が衆参両院で承認された。米国が求めていた通り、来年1月1日に発効される見通しになった。

 米国産の牛肉や豚肉、ワインなどの関税が環太平洋連携協定(TPP)と同じ水準まで引き下げられ、日本市場に入ってくる。国内農家にとっては大きな試練となる。

 その一方で、日本から輸出される自動車と関連部品の関税の撤廃は見送られた。懸案だった日本車への追加関税は当面回避されるが、発動しないことは明記されておらず、曖昧な点が少なくない。

 日本に不利な内容になっているのではないか。国会審議で、野党が協定に関する情報公開を求めたのは当然のことである。しかし政府は明確な答弁を避け、資料などの公開にも積極的に応じていない。とても説明責任を果たしたとは言い難い。

 協定は地域の経済や雇用にも大きく影響する。疑念を残したままでは、国民の不安や不満は解消されず、将来に禍根を残しかねない。

 安倍晋三首相は、日米双方に利益をもたらす「ウィンウィン」の協定と誇る。それならば日本にとって何が「ウィン」となるのか、根拠を示すべきだ。

 政府は、協定の発効で国内総生産(GDP)を実質ベースで0.8%押し上げるとの試算を公表した。

 年間約4兆円に相当すると経済効果をアピールするが、この試算には今回見送られた自動車の関税撤廃の影響分も織り込まれている。「上げ底」してまで、成果を大きく誇示したいのだろうか。

 野党は自動車を含めない試算を公表するよう要求したが、政府は「撤廃は前提になっている」と拒否した。だが協定には「撤廃について引き続き交渉を続ける」との文言しかなく、撤廃の時期さえ明らかでない。

 さらに撤廃が確約されていなければ、世界貿易機関(WTO)のルールに違反する可能性もある。さまざまな疑念に対し、政府は誠実に説明するべきだ。

 国内農家への影響も精査が必要だ。政府の試算では、国産農産物の生産額は年間で最大1100億円減少する。とりわけ牛肉や乳製品、豚肉の生産者に大きな打撃が見込まれる。

 ただ、国内対策で農家の所得や生産量は維持されることを前提にしている点は見逃せない。農産物の価格が下がれば、農家の収入は減り生産量も落ち込むのではないか。甘い試算で、影響を過小に見積もれば、必要な対策を打てなくなる。

 問題の多い協定でありながら、踏み込んだ議論に至らないまま国会審議が終結した。情報不足とはいえ、野党の追及も迫力を欠いたのは残念だ。

 発効後の焦点は、追加交渉に向けた予備協議となる。4カ月以内に交渉でどんな分野を扱うのかを決めていく。

 日本政府は引き続き日本車の関税撤廃を求める構えだが、トランプ米大統領は来年11月に大統領選を控え、簡単に受け入れるとは思えない。むしろ日本が強く撤廃を求めれば、農産品やサービス分野でさらなる市場開放を迫ってくる恐れもある。

 米国とどう渡り合い、国内産業を守っていくのか。政府には国民が納得するだけの丁寧な説明が求められる。