酒瓶のアール・ブリュット 知的障害の犬塚弘さん 記憶を頼り 細やかに描写

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記憶を基に酒瓶を描く犬塚さん=雲仙市瑞穂町

 日本酒や焼酎の瓶、ラベルを見詰め、その記憶を基にして詳細に描く犬塚弘さん(51)=雲仙市在住=の初めての個展「酒びん×人生」(実行委主催)が24~28日、長崎市出島町の県美術館県民ギャラリーで開かれる。犬塚さんは知的障害者で酒瓶に対して強いこだわりがあり、見ながらではなく、刻み込んだ記憶を頼りに制作。人の心を和ませる作品を生みだしている。芸術教育を受けていない人々が独自の発想で作ったアート「アール・ブリュット」(生のままの芸術)そのものだ。

 同市伊王島町出身。幼少のころから絵が好きで、植物や風景などを描いていたが、その絵には既に酒瓶や酒屋も描かれていた。なぜ酒瓶のとりこになったのかは不明だが、犬塚さんが入居するグループホームを運営する社会福祉法人南高愛隣会(本部・諫早市)によると、犬塚さんが子どものころ、実家ではよく宴会が開かれていたという。
 中学生までは長崎市の当時の養護学校に通い、卒業後、同会の授産施設に入所。就労や自立のためのプログラムなどを受けてきた。現在は同会の支援を受けながら、同会のアートクラブなどで柔らかなデッサン力と細やかな描写力を発揮し、大好きな酒瓶の絵画を描いている。また、県内の蔵元などを巡り、酒の新情報を得るなどして楽しんでいる。
 犬塚さんの特性は、まず突出した記憶力。周囲からは「目はカメラ、頭がコンピューター」と呼ばれ、酒瓶や酒に関する書籍、図鑑、パンフレットなどを一度見れば、ラベル、酒造元、生産地、値段などをほぼ覚える。数多くの酒の情報が頭にインプットされているらしい。また、出会った人の名前や生年月日なども覚え、誕生日には色紙などにその人に関連するメッセージや絵などを描いてプレゼントしている。
 同会が確認しただけでも酒瓶の絵、幼少期の絵、色紙など合わせて650点に上る。描いた酒瓶は、県内の酒造会社だけでなく、県外約50カ所の蔵元に及ぶ。鋭い洞察力で瓶一つ一つの特徴を捉え、豊かな色彩で表現した作品はどこか愛着や懐かしさを感じさせる。
 グループホームの自室。犬塚さんはスケッチブックを手に取り、描きたい酒瓶の特徴や情報などを思い出しながら、お気に入りのボールペンを軽快に滑らせる。次に黒のフェルトペンや筆ペンで、銘柄や酒造元、アルコール度数、住所、値段など酒の情報を書き込んでいく。その後、ラベルのデザインを色鉛筆やクレヨンで描き、瓶の色を塗って完成。要した時間は約3分。一度も手が止まることはなかった。犬塚さんの生き生きとした表情と酒瓶を愛する思いは、作品にも表れていた。
 犬塚さんは、人の話は理解できるが、思っていることをうまく文章で伝えることが困難。それでも絵を描くことに対する思いを尋ねると「楽しい」と答え、個展開催についても「うれしい」と言葉を弾ませた。
 作品展では、酒瓶の絵画約100点を含め、幼少期の絵、風景画、色紙など計約400点を展示する。入場無料。南高愛隣会や雲仙市の有志、福祉関係団体などでつくる実行委の松村真美委員長は「障害のある人の自己実現や素晴らしい才能を広く知るきっかけにしてもらいたい」と話した。
 作品展に関する問い合わせは同会(電0957.77.2180)。