【野球と記録】野球はなぜ「記録のスポーツ」に? 19世紀後半のリーグ戦開始がきっかけ

スポーツの中でも野球は記録との親和性が高いとされている

プレーに区切りのある野球は「記録」が取りやすいスポーツ

 前CEOのシーモア・ウォルフ氏が11月29日に死去した「エリアス・スポーツビューロー」社は、約1世紀前にスタートしたが、今では北米4大スポーツをすべて網羅し、これらのスポーツの公式データを提供するほか、ESPNやCBSスポーツなどにもデータを提供する巨大企業になっている。

「スポーツの記録」が巨大ビジネスになった源流を探ると、「野球」という極めて特殊なスポーツの存在に行き当たる。野球の起源には諸説あるが、ニューヨークのマンハッタンで19世紀半ばに今のルールの源流ができたと考えられている。

 野球はその原初の時点で、「記録」が取りやすいスポーツだった。ボールを投げる、打つなど1つ1つのプレーに区切りがある。その都度記録することが容易だ。

 サッカーやバレーボールなどのスポーツは、連続的な流れの中でプレーが進行する。パスやレシーブなどのプレーはそこで途切れることなく、次のプレーにつながっていくのでオンタイムでの記録が取りにくい。そのこともあって、当初は野球ほどには記録が発達しなかった。

「野球の父」と呼ばれたヘンリー・チャドウィックは、野球のプレーの記録法を整理、統一し「ボックススコア」を考案。そこで得られたデータをまとめる統計手法も考案した。「打率」「防御率」などは、チャドウィックが考案したものだ。

 もともと記録との親和性が強かった「野球」が「記録のスポーツ」へと進化したのは、リーグ戦の始まりがきっかけだった。

同時進行的に行われる「リーグ戦」が記録の重要性を高めた

 アメリカ北部で盛んだった野球は、南北戦争で南部にも広がった。チーム数が増える中で、実力が近いチーム同士での定期的な試合が組まれ、これがリーグに発展した。世界で初めて「リーグ戦」を考案したのはアメリカの野球だ。1871年に最初のリーグであるナショナル・アソシエーションが誕生したのだ。ちなみにサッカーの最初の「リーグ」であるイギリスのフットボール・アソシエーションは、ナショナル・アソシエーションを参考に作られたものだ。

 リーグ戦はトーナメント戦と異なり、複数の球場で同時進行的に行われることが多い。観客は、リーグ戦ではすべての試合を観戦することはできない。そのために、試合は「記録」という形で保存され、集計され比較される。勝敗や選手の成績も数字で残ることとなった。

 リーグ戦が始まってから、野球の魅力はさらに厚みのあるものとなった。各チームの成績は勝敗表という形でまとめられ、優勝チームが決められた。選手の個人成績は、投手と野手別に集計され「Stats(Statistics=統計の略語)」という形で公表された。これによってファンはチームの強さや選手の優劣を数字で比較し、楽しむことができるようになったのだ。

 当初、MLBの記録部門を担当していたのは新聞社だった。新聞記者たちが試合のスコアをつけ、集計していた。しかしリーグが大きくなり、試合数も増えるとともに、新聞社を経て集まった記録を集計し、管理する必要が生じた。1913年に創設された「アル・マンロー・エリアスビューロー」(エリアス・スポーツビューロー社の前身)は、まさにその任を担った。

 こういう形で、野球は「記録のスポーツ」としてアメリカのファンに支持されるようになっていった。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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