父が認知症、愛車をいつ処分するか

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介護のことを書いた本は多い。しかし、マンガはまだ少ないのでは。本書『マンガ 介護する人・される人のきもちがわかる本』(朝日新聞出版)はその少ないマンガ主体の本の一つだ。著者の北川なつさんは漫画家・イラストレーター。かつては特別養護老人ホームなどで働いていたうえ、ケアマネージャーや介護福祉士の資格も持つ。自身の母の介護も経験している。介護マンガを描くのには十分すぎるキャリアの持ち主だ。

100本の作品収録

本書は「第1章 介護の悩みは、みんな同じ?」、「第2章 あなたの本当のきもちが知りたい」、「第3章 介護の初心を大切にしたい」、「第4章 プロでも介護はやっぱり大変?」、「第5章 どうして介護が長続きするの?」、「第6章 どうなる? 介護の未来」の6章に分かれている。それぞれの章に「年賀状」「入浴拒否」「母の遺品」などのタイトルが付いた5、6コマのミニ・ストーリーマンガが計100本描かれている。

その一つ、「父の愛車」はこんな話。認知症と診断されている「お父さん」が高齢にもかかわらず、自家用車を運転したがる。事故が心配な家族は父が入院中に愛車を売り飛ばした。退院した父は「なんで勝手なことを」と怒り出す。しかし、そのうち車のことは口にしなくなった。毎日ボーッと、庭先の車を置いていた場所を家の中から眺めている。その後、父親に愛車の18分の1のミニカーをプレゼントしたら機嫌が良くなり、最近は毎日それを磨いている。

「家」は老健施設にいる父親の話。家族が見舞いに行くと、決まって口にするのは「家は大丈夫か? 古い家だし雨漏りしていないか」。寝たきりになっても「家」のことが心配なのだ。家族は「大丈夫だよ」と安心させるが、実はもう空き家になっている。辺鄙な場所にあるので、残っていた家族全員が引っ越したのだ。父は「家の周りの草刈りはちゃんとしとるか」と畳み掛ける。もう空き家になっているということは死ぬまで言えない。草刈りだけは時々やっている。

介護施設の職員自身も主役

作品の紹介を始めるときりがない。どれもが「あるある、そんなこと」、私も経験した、と感じられる身近な話だ。それぞれの話をわが身に引き寄せて読むことができる。介護する人・される人の両方の立場に身を寄せつつ描いているので、身につまされ共感度が深い。自身も介護現場に関わってきた漫画家ならではの含蓄がある。

本書は制作前に、介護現場の経験者107人にアンケートを行い、その内容を作品にも反映している。著者自身も現場経験があるのだが、さらに念入りにリサーチしている。

したがって作品では介護施設の職員多数も主役として登場する。また、介護に関するコラムも途中に入り、介護についての理解を広げられる。

高齢化社会だから、いまは未経験でもいずれ介護に直面する人が多いはず。本書で予習しておくとよいかもしれない。もちろんすでに介護を経験中の人にとっては、マンガとはいえ専門家の監修も経ているので、参考になるところが多いに違いない。

介護に関しては、仕事はやめず同居もしない介護について書いた『子育てとばして介護かよ』(株式会社KADOKAWA)、介護現場に広がる多国籍化に焦点を合わせ、外国人労働者とのコミュニケーションを軸にした『5か国語でわかる介護用語集』(ミネルヴァ書房)、介護現場に蔓延する見えないセクハラを取り上げた『介護ヘルパーはデリヘルじゃない』(幻冬舎新書)など多数の本が出ており、それぞれ参考になる。

  • 書名:マンガ 介護する人・される人のきもちがわかる本
  • 監修・編集・著者名: 北川なつ マンガ・著、柳本文貴 監修
  • 出版社名: 朝日新聞出版
  • 出版年月日: 2019年10月18日
  • 定価: 本体1100円+税
  • 判型・ページ数: A5判・192ページ
  • ISBN: 9784023333031

(BOOKウォッチ編集部)