タイでは安くて豪華な家に住める? 現地採用と駐在員の日本人の住まいの実態

テレビではときどき、東南アジアに住む日本人の住居を訪ねる番組を見ることがあります。「日本の物件よりはるかに広くて、設備も整っていて、それにメイドまでいてこの安さ?」と驚く展開は、なんだか定番のようになっています。駐在員ではない現地採用の立場でも、東南アジアならリッチな生活が送れるのだといいます。これは本当なのでしょうか。


家賃1万バーツの物件とは?

タイでいま急増している現地採用の日本人が住んでいるのは、家賃が月1万バーツ(約3万6,000円)前後の物件ではないでしょうか。日本人がタイで働く場合は、月5万バーツ(約18万円)の給与が最低額と定められています。5~7万バーツ(約18~25万円)で働いている人が多いでしょう。その額を考えると、1万バーツ、高くて2万バーツの家賃が現実的なように思います(※冒頭の写真は2~3万バーツ(約7万2,000~10万8,000円)クラスの物件)。

このくらいの家賃で、バンコク都心で日本人向けの店も多いスクンビット通りやシーロム通りに住もうと思うと、かなり狭いワンルームになるでしょう。「うさぎ小屋」と揶揄される日本の部屋と大差ありません。

バンコクでも駅からの距離が物件の値段の目安になっている

そこで現地採用者は、やや郊外に出ることになります。BTS(高架鉄道)や地下鉄で、地価の高い中心部を離れていくと、安い物件が増えてきます。いま日本人の現地採用者がよく住んでいるのは、スクンビット東部のオンヌット周辺や、バンコク北部のラチャダーピセーク通りあたりでしょうか。都心まで15~20分といったところ。近くには大衆的なショッピングモールや屋台街もたくさんあって、生活臭たっぷり。リッチさとはほど遠い界隈ですが、昔懐かしい下町の風情は感じられます。

こうした場所にある1万バーツくらいの物件となると、50平米程度の広さは確保できます。ワンルームでもかなり広々でしょう。備え付けのベッドもクイーンサイズ。ほかにもテレビ、冷蔵庫、エアコン、ソファー、カーテンなどがあらかじめ揃っているのがタイ・スタイル。いきなり暮らし始められます。

またバンコクの街を見晴らせる高層階に住めたり(といっても10階程度)、敷地の中に小さなプールやジムがある物件も珍しくはありません。利用者はあまりいませんが……。

水回りのトラブルや、近隣の環境問題も

ただ、このクラスだと住み込みのメイドさん(タイ語ではメーバーン)は望めません。その代わり物件全体の掃除や洗濯をするスタッフがいて、家事を頼むことはできます。家賃に含まれていることもあれば、別途料金が必要な場合も。

それと水回りのトラブルはときどきあります。水漏れ、雨漏り、給湯器の故障、水圧の弱さ……。湯につかる習慣がタイにはあまりないこともあり、バスタブを持つ物件は少なめ。仮に見つかっても、お湯がぬるかったりします。

なお安い物件ほどキッチンがありません。調理するスペースもガスもないのです。住民の皆さんは屋台で安いメシを買ってくるか、自前の小さなテーブルで簡単な料理だけつくるか、その程度で過ごしています。また洗濯機がない、置くスペースがないところもあり、メーバーンに頼むか、こうした界隈ならたくさんあるコインランドリーを利用します。

7,000バーツ(約2万5,000円)の安価なアパート。手狭だが設備は整っている

そしてやはり、安いほど治安が気になるでしょう。1万バーツならまだしも、5,000バーツ(約1万8,000円)前後の物件が密集する場所だと、思いっきり庶民的でガサツな雰囲気になるので、男ならどうということもありませんが、外国人女子はちょっと心配かもしれません。加えてあまり安いと、駅から離れており、どこへ行くのもタクシーかバイクタクシーを使わねばならず不便です。

豪華でなくても居心地はいい

決してテレビの言うような「豪華で安い住環境」ではないのですが、それでもタイ人のつくるゆるやかで気楽な雰囲気の中で暮らせることは大きいでしょう。「タイ人は外国人住民にも気さくに挨拶してきて、かといってべったり付き合うわけでもなく、ほどよい距離感の近所づきあい。ストレスがない」と言う日本人もいます。昔ながらの商店街もたくさんあって、賑やかな庶民の雑踏の中に心地良さを感じる日本人もいます。

そして1万バーツくらいの物件でも、設備の細かい問題はありますが、とりあえず部屋は気持ちよく広い。リッチではないけれど、等身大の居心地の良さ、同じ首都でも東京よりも少し良い住環境が得られるでしょう。

加えて、日本人ならパスポートひとつで借りられます。敷金も礼金も不要です。不動産屋が仲介することもなく、物件に直接行って部屋を見せてもらって契約するシステムなので、よけいな手数料もかかりません。退去時に返ってくるデポジット(家賃2~3か月分)を支払えば、その場で入居できる手軽さは、日本とは比べ物になりません。

駐在員は貴族のような暮らしだが

スクンビット中心部にはタワマンがそびえる。現地採用でも何人かでシェアしてこうした物件に住む人もいる

大手企業の駐在員の中には、城のような物件に住む人もいます。ベッドルームが3つも4つもある200平米以上の広さを持ち、バンコク一円を睥睨できるタワーマンション。もちろんスクンビットなどの一等地です。片言の日本語がわかるメーバーンが家事全般をこなし、プール、ジム、キッズルーム、コンビニなども入居。

家賃は10万バーツ(約36万円)超、もちろん駐在員なら会社持ちでしょう。現地採用とはもはや世界が違います。タイでは日本人同士でも、圧倒的な格差を目の当たりにするのです。

ただ、駐在の皆さまにもご苦労はあります。物件の住民すべてが日本人で、近所づきあいが面倒だったりするのです。勤務先の会社が同じフロアをすべて借りていて、隣が同僚だったり上司だったりすることもあり、神経を使います。さらに奥さま同士でも、気の使い合い見栄の張り合いがあり、ノイローゼになったなんて話もあるようです。

※1バーツ=3.6円として計算。

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