「死より命」「自尊意識を」 若者に平和どう伝えるか

平和教育について考えるセミナーで登壇した(左から)平山教授、浜田さん、石岡さん=県立地球市民かながわプラザ

 戦後74年がたち、時代に即した平和教育の模索が続く中、子どもや若者に平和を伝える方法や視点を考えるセミナーが、県立地球市民かながわプラザ(横浜市栄区)で開かれた。自分事と捉えることが重要、日常の中で実感を持って考えられるような働き掛けが大切-。全国の平和博物館から集まった参加者や講師が意見や知見を交換し、方向性を探った。

 講師を務めたのは、絵本作家の浜田桂子さんと、NPO法人ホロコースト教育資料センター(Kokoro)理事長の石岡史子さん。

 浜田さんは日本、中国、韓国の3カ国の作家が4人ずつ平和への願いを込めた絵本を描き、全12冊を各国語で出版する企画を紹介。自作の「へいわってどんなこと?」の中でつづった「へいわって ぼくがうまれて よかったっていうこと」との言葉に触れながら「『私はとても大切な子どもだ』と自尊意識を持つことが、他者の命に共感する力を育む」と語り、「子どもたちが『生まれてきて良かったんだ』と思える環境を整えることが平和をつくっていく」と呼び掛けた。

 石岡さんは、ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)で犠牲となった少女ハンナ・ブレイディのカバンを教材にした取り組みを報告した。

 ポーランドのアウシュビッツ博物館から借り受けたカバンを前に、日本の子どもたちと重ねた会話をきっかけに、カバンから生前のハンナの人となりや暮らしぶりに思いを巡らせることで「死よりも命を伝えたいと思った」と回顧。取り組みを通じ、ホロコーストで600万人といわれる人々が犠牲となったという数字ではなく、一人一人に命があったことを学んできたと説明した。また民主的と思える選挙を経てナチスが台頭した点などを踏まえ、「『恐ろしいことが起きた、かわいそう』と結果を見るのではなく、過程を学ぶことを意識してきた」とも述べた。

 進行役の明治学院大国際学部の平山恵教授も登壇した。大虐殺が起きたアフリカ中部ルワンダの難民キャンプで支援した際、現地の男性に感謝されつつも「本当に欲しいものを誰も持ってきてくれない。水、食べ物、医療よりも平和教育がほしい」と言われたエピソードなどを紹介。自身のテーマの一つとして「どのように死者と話すか」を挙げ、「平和教育は一番苦しんだ人と対話していくことであり、記録したものから引っ張り出すのが博物館の働き」と語った。

 参加者からは「自分事と考えられなければ(問題を)邪悪な誰かのせいにしてしまう」「今の社会について、子どもたちと一緒に考えることが大切」など、さまざまな感想が寄せられた。

 セミナーは日本平和博物館会議が毎年開く会合の一環として22日に開催され、同プラザのボランティアを含め22人が参加。同会議は同プラザや川崎市平和館をはじめ、広島と長崎の原爆資料館、沖縄の三つの平和博物館など10館が加盟している。

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