高校野球で投球数制限、なぜ必要? 採用訴えた整形外科医に聞く

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行岡病院副院長の正富隆さん=大阪市北区(撮影・風斗雅博)

 日本高校野球連盟が来春から投球数制限を導入する。かつてはエースが1人でマウンドを守り、その力投にファンは喝采を送った。一方、1991年夏の甲子園大会で準優勝した沖縄水産・大野倫投手のように右肘痛に耐えて連投し、後に剥離(はくり)骨折が判明した悲劇もあった。肩や肘の障害から投手を守れるか。日本高野連が設けた有識者会議で、投球数制限の採用を訴えた一人が整形外科医の正富隆さん(58)だった。「小規模校に不利」「野球が変わる」など異論も根強い中、なぜ制限が必要なのか。障害が起きる仕組みから教えてもらった。(伊丹昭史)

-肩や肘の障害は昔から「投げすぎのせい」と言われてきました。-

 「原因は複数で球数はその一つです。投手は球を加速させるために肘がしなります。このとき、肘の内側の靱帯(じんたい)が引っ張られるなどの大きなストレスがかかる。そこを一瞬で通過し、腕が自然と内側へひねられながら、体に巻き付くようなフィニッシュができれば、腕の負担を軽減できる。これが上手にできない選手は1球ごとの負担が大きく、少ない投球数でも痛めてしまいます」

 「うまく投げる選手でも球数を重ねると、肩や下半身に疲れが出てフォームが崩れ、1球の負担が大きくなって痛み始めます。だから持久力も影響します。またボールの握り方によって、手首を柔軟に使えなくなりストレスがかかる。カーブやスライダーは肘の内側の靱帯に響くので、球に回転を加える意識で投げない方がいい。どの球種でもリリース後に腕が内側にひねられるフォロースルーがとれたらいいのですが。そういう運動神経の良さが必要です」

-高校生はまだ体が完成していない成長期です。障害への影響は?-

 「若いほど肩や肘を痛めやすい。子どもの骨は、両端にあるまだ骨になりきっていない軟骨が関節をつくっており、靱帯も軟らかい。早く対処すれば治るけれど、肘へのストレスが続くと軟骨が割れ始めたり、軟骨の一部がはがれて“ネズミ”と呼ばれる遊離体ができ、関節の中で動いて他の軟骨を削ったりする。放っておくと関節の形が変わって曲げ伸ばしができなくなる。小学生は運動神経も十分には発達していない。投球数制限は成長期、若ければ若いほどやらないと駄目なんです」

-有識者会議でも、投球数制限の導入を強く訴えました。-

 「当初は『指導者が疲労など選手の状態を見極め、続投か降板か的確に判断できれば投球数制限はしなくてもいいのでは』という意見もあった。確かに正しく、理想です。でも自信を持ってそれができる指導者がどれだけいるのか。障害に泣く選手を多く診て、一向に減らない現状を危惧している医者としては、取りあえず投球数だけでも最低限ここまでと制限しましょうと。『いくらでも投げられるものじゃない』という世間へのインパクトにもなる」

-今回の制限は1週間で500球以内です。この数字の根拠は?-

 「限界がどこなのか、明確な医学的根拠はまだないんです。持久力や運動神経など、いろんな要素が絡むので非常に難しい。94年に甲子園大会前検診が正式導入されました。翌年、受診した投手の球数などを参考に日本臨床スポーツ医学会が現場の感覚で提言をまとめた。それが1週間で500球。20年余りを経て、ようやく受け入れられました」

 「ただ過去にこの数字を超えた選手はほぼいないと思う。実はそれぐらい緩い数字なんです。本当はもっと減らしたかったのですが、まずは投球数制限の導入が大事。取りあえず、みんなが受け入れてくれる数字にした。3年間の試行期間に医学的データを集めて検証する。導入さえすれば球数は正していけます」

-「部員数の少ない学校が不利」とか「高校で野球をやめる選手もいるので、悔いなく投げさせてやりたい」など反対意見も根強くあります。-

 「それは勝敗の不利を理由に、投手がつぶれることを許容するということ。米大リーグでは契約で投球数を決めてまで選手を守るのに、まだ子どもの高校生になぜ無制限に投げさせるのか。『最後まで投げたい』と言う球児に『よっしゃ、腕が折れるまで投げろ』と言う大人が良い大人でしょうか。『感動がなくなる』との声もあるが、感動の陰で泣いている選手は一人もいてはいけない。有識者会議では『野球を変えることで子どもが守れるなら、変わればいいじゃないですか』と言いました」

-これで野球は変わりますか。-

 「議論の土壌はできてきたものの、まだスタートの段階。今回は試合の投球数だけだが、練習でも意識してほしい。登板イニング数ではなく投球数を制限したのは、そういうメッセージがあるからです。答申には指導者のライセンス制や、選手が『痛い』と言える環境づくりも盛り込んだ。小学生は1試合をチーム全員で分担して投げるなど、年代に応じたルールが必要。野球は小学生からプロまで同じじゃない、という意識が当たり前になってほしいですね」

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 肘の障害は早期治療が肝心だが、初期は投げても痛みがなく日常生活も普通に送れるので、なかなか異常に気が付かないという。簡単なセルフチェックを正富さんに教えてもらった。

 両手を上に向けて肘をしっかり前に伸ばしてみる。異常があれば伸ばしきれず、写真の右腕のように曲がったままで止まってしまう。無理に伸ばすと痛みが出る。練習を控えめにするなど対応が必要になる。

 炎症は寝ている間に起こるので、チェックは練習日の翌朝がお勧め。選手は痛みを隠す場合もあるため、「特に小中学生は、指導者はもちろん、保護者も見てあげた方がいい」と正富さんは話す。

【まさとみ・たかし】1961年生まれ、大阪市出身。大阪大学医学部を卒業後、同大付属病院、大阪厚生年金病院などを経て現職。日本高野連の医科学委員。甲子園大会で出場投手を対象にした関節機能検査の担当医。80年代から阪神タイガースのチームドクターも務める。

■有識者会議答申を受けた 高野連の主な取り組み

 【高野連単独の取り組み】 ・高野連主催大会で1人の投手が1週間に投球できる総数は500球以内 ・高野連主催大会などで3連戦を原則回避する日程に ・上記は原則、来春の選抜大会を含む春季大会から。3年間を試行期間とする。罰則は設けない ・3年後の見直しに向け、選手権地方大会全ての投手別投球データを収集する

 【球界全体と連携した取り組み】 ・学童・中学野球における大会、試合数の精選とシーズンオフの導入 ・成長期のスポーツ障害早期発見のための検診システム構築 ・指導者のライセンス制の検討