日本人の読解力が15位に再び急落!PISAの「読解力ショック」から日本の教育はどう立ち直るのか

経済協力開発機構が発表した学習到達度調査で、日本人の読解力が15位に急落したことが報道されました。竹内先生いわく、このまま読解力や思考力に欠ける人間が増えると、AIに仕事を奪われる可能性が高いとのこと。ではどのようにすれば読解力を上げることができるのでしょうか。

  • OECDが3日に発表したPISAでは、日本人の読解力が前回の8位から15位に「転落」。
  • 専門家によると、SNSで短文ばかりに触れているために長文読解力が落ちたという意見がある。
  • 2015年度からPISAが紙ではなくパソコンで解答する形式になったため、パソコンに不慣れな日本の生徒が不利になった、という意見も。
  • 3つ目の要因は、日本の生徒がノンフィクションや長文を読む機会が少ないこと。
  • そのために家庭でできることは、子どもに読書の機会を増やすことが大切。

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15歳を対象に3年に1度実施されている国際的なテストで読解力が15位

経済協力開発機構(OECD)が3日に発表した学習到達度調査(PISA、ピザ)では、前々回4位、前回8位だったのに、なんと15位に「転落」。新聞各紙も一面でそのショックを伝えています。これは、加盟国などの15歳を対象に3年に1度実施されている国際的なテストで、数学応用力、科学応用力、読解力を測るもの。ちなみに発音はピサではなく「ピザ」なんですね(私はこれまで間違ってピサと発音しておりました)。

2018年調査の結果(灰色の国・地域は非OECD加盟国・地域)文部科学省・国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」より画像参照:http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html#PISA2018

2000年の調査では、日本は数学1位、科学2位、読解力8位でしたが、2003年には数学が10位、科学が6位、読解力が15位と急落して「PISAショック」と呼ばれました。まるでリーマンショックみたいですが、これを機にいわゆる「ゆとり教育」が打ち止めとなったのです。その後、3分野とも復活基調にありましたが、今回の調査で再び「読解力ショック」がやってきたわけです。

学習到達度調査(PISA)における日本の平均得点および順位の推移文部科学省・国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」より画像参照:http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html#PISA2018

はたして日本の教育はこのままで大丈夫なのでしょうか。

なぜ読解力だけが急落したのか

専門家がいろいろな要因分析をしています。たとえば、スマホとSNSで短文ばかりに触れているために長文読解力が落ちたという意見があります。実際、毎日チャットをしている生徒の割合は、OECD諸国の平均が67.3%なのに対して、日本は87.4%と高い水準にあり、日本の子どもたちがスマホ漬けになっている実態が浮かび上がります。

YES International Schoolでは、「夜の11時以降のライン連絡はやめる」と言った方針で保護者と連携し、スマホ漬け防止に取り組んでいます。あるいは、YouTubeも、短文どころか映像漬けになってしまうので、子どもには一日の視聴時間の制限を設ける必要があります。

個人的にはインターネットのリテラシーを身につけた上で、高校生以上は「自由」というのが理想なのですが、今回の読解力急落を見て、少し考えが変わりました。まだ社会で必要となる読解力を身につけている最中の高校でも、完全にSNSなどを自由にすると、国の将来が危うくなるかもしれません。インターネットも、お酒と同じで、二十歳過ぎから自由とすべきなのかもしれません。

専門家の意見としては、2015年度からPISAが紙ではなくパソコンで解答する形式になったため、パソコンに不慣れな日本の生徒が不利になった、というものもあります。実際日本の学校へのデジタル機器の導入は大幅に遅れており、PISA参加国の中で「最低水準」なのです。

学校でのデジタル機器の利用状況文部科学省・国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」より画像参照:http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html#PISA2018

ええっ?日本って科学技術立国じゃなかったの?いまどきパソコンが使えないで国際競争で生き残れるの?ちょっと驚きですが、事実です。日本政府の公教育への支出は、OECD諸国で最低レベルであることは、これまで度々指摘されています。多くの公立学校で、複数人で一台のパソコンをシェアしているのが実情です。

今回の読解力のテストでは、インターネットのWebや投稿に関する信憑性や質を問う問題、つまりインターネット・リテラシーが問われたため、日本の生徒の点数が急落したとも考えられます。つまり、単にパソコン操作に不慣れというだけでなく、その奥にある、広大なインターネット空間におけるリテラシーが欠如している可能性があるのです。

スマホ漬けになって、毎日チャットばかりしているのに、パソコンが操作できず、自分を取り巻くインターネット空間におけるリテラシーに欠けている……日本の15歳は、かなり深刻な状況に置かれているのかもしれません。

専門家があげている3つ目の要因は、日本の生徒がOECD諸国の平均と比べて、ノンフィクションや長文を読む機会が少ないこと。文章を読むときには、(想像力を刺激する)小説などのフィクションと(読解力・思考力を鍛える)ノンフィクションのバランスが大切だと、私は考えています。しかも、長文を読みこなすことでしか、アタマは鍛えられません。新聞や新書を読む習慣を取り戻さないと、日本の将来は危ういように思います。

読書活動と読解力の関係文部科学省・国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」より画像参照:http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html#PISA2018

(国語ではありませんが)YES International Schoolでも、TOEFLのリーディングの成績が急落したことがあり、私もPISAショックならぬTOEFLショックを経験しました。すぐに英語ネイティブの先生と要因を分析しました。どうやら、時間割から「読書」の時間を削ったことが裏目に出たように思われました。英文法の授業も大切ですが、子どもたちが好きな本を自分で選んで読む読書タイムが不可欠であることを思い知らされました。

もちろん、先生も子どもたちに「自分が子どものころに読んでおもしろかった本」を紹介したりもしますし、学校の本棚にも多様な本を並べておかないといけません。ウチの学校の場合、Scholastic Book Clubのシステムは重要で、子どもたちは自分で選んで注文した本を集中して読む傾向があります。

家庭でできること

現在進行中の第四次産業革命のせいで、近い将来、読解力や思考力に欠ける人間はAIに仕事を奪われる可能性が高いことは、この連載でも度々指摘してきました。パターン化された仕事ばかりしていたり、指示待ち社員になってしまうと、遅かれ早かれ仕事がなくなります。社会環境の激変にしっかりとついてゆき、自分で考え判断するための基礎は、「読解力」の養成にあります。要するに、他人が言っていることを読解できないと、うまく立ち回れないのです。判断を間違ってしまうのです。社会で生き残れないのです。

学校でうまく読解力をつける授業や読書タイムを実践してくれていれば、あまり心配はいらないでしょう。しかし今回のPISAで明らかになったように、いま、日本の多くの学校で、読解力の訓練が機能していないことは事実です。学校にまかせられないとなった場合、では家庭でなにか工夫ができるでしょうか。

すぐに思いつくのは、「読解力がつく」と銘打った参考書を子どもにやらせることです。これは、多少の効果はあると思いますが、子どもの多くが活字を好きにはならないように思います。「読解力」という目標のためにやるのではなく、本や新聞を読むのが好きになった結果として、読解力がついて来るほうがベターなのです。なぜなら義務でやる参考書は、やり終わったらそれっきりでしょうが、好きで本や新聞を読む癖がついたら、それは一生持続するからです。

私がよく使う「遊ぶ」という言葉がありますが、読書で遊ぶことが大切です。やらされるのではなく、楽しいから読む。そういう生活習慣をつけてあげるべきなのです。

そのためには、家に本がたくさんないといけません。 。考えてもみてください。親が本も新聞も読まないのに、子どもに読めと強制して、うまくいくはずがありませんよね。本に囲まれたワクワクする環境を用意してあげることが、子どもの読解力を伸ばすための第一歩です。もし、親御さんがあまり活字に触れない生活をしているのだとしたら、まずは新聞を読むこと、あるいは月に一冊、新書を読む姿を子どもに見せるところからはじめたらいかがでしょう

AI時代を生き残るための読解力は、一朝一夕で身につくものではありません。(参考書やハウツー本の著者や出版社には申し訳ありませんが)インスタント読解力要請術など存在しないのです。まだ遅くありません。遊び心を忘れずに、親子で活字を読む生活をしてみませんか

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