ラグビーは「総合芸術」だ!

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すぐれたスポーツ選手は、常に芸術的なパフォーマンスを見せる。本書『新版 一流選手の動きはなぜ美しいのか――からだの動きを科学する』(角川選書)はその理由について科学的に迫ろうとしたものだ。

初版が2012年。最近になって改訂新版が出た。来年の東京五輪を念頭に置いたのだろう。本文中にリオ五輪やイチロー引退などの話が出てくるので、部分的にあちこち補足したようだ。

京大ラグビー部の監督も経験

著者の小田伸午さんは1954年生まれ。東大の大学院を出て京大で教え、現在は関西大学人間健康学部教授。人間の身体運動やスポーツ動作に関する運動制御機構を総合的に研究している。著書に『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』『身体運動における右と左―筋出力における運動制御メカニズム』などがある。ラグビー指導者として、日本代表チームトレーニングコーチ、京都大学ラグビー部コーチおよび監督を務めたこともある。

本書でもラグビーの話が何度も出てくる。「あとがき」を書いている時期にワールドカップで日本がどんどん勝ち進み、予選リーグを突破、決勝トーナメントでは南アフリカに敗れたものの史上初のベスト8入りを果たした。「正直、日本代表チームがここまで強くなっているとは、筆者をふくむラグビー関係者には信じられないのが本音だっただろうと思います」と驚嘆している。

日本代表について、小田さんがコーチをしていたころの1983年と、直近の2015年の比較データが掲載されている。フロントローの平均身長は変わらないが、体重は20キロ増えた。バックローの身長は7センチ伸びて体重は16キロ大型化した。バックスの体重は73キロから88キロになっている。

83年段階では、ベンチプレスのフォワードの平均は100キロにとどまっていた。今は大学チームでも120キロ程度は挙げられるから、非常に低い数値だった。日本代表の活躍の背景には体格、体力のアップがあったことがわかる。

小田さんは当時、日本代表チームの筋力、パワーをアップさせることが仕事だった。1年間で大半の選手たちの「2割アップ」を達成したという。

もちろん体格、体力の数字をアップしただけでは勝てない。そのあたりについても説明されている。

身体の感覚が重要

本書は「第1章 主観と客観のずれ」「第2章 筋力に対する誤解」「第3章 手足、体幹の使い方」「第4章 走り方を考える」に分かれている。直接、「一流選手の動きはなぜ美しいのか」という問いに答えるというよりは、身体機能を改善し、好成績を維持するにはどうすればいいか、というような話が多い。

例えばイチロー選手。打撃成績の数字が下がる前に、調子が良くなくなっていることに気付くそうだ。逆に一時的に数字が下がっても、感覚が狂っていなければ、心配いらない状態だという。シーズンオフも決して手を抜かないトレーニングの中で、「身体感覚」が出来上がっているようだ。

野村克也氏は『イチローの功と罪』(宝島社新書)で、「イチローの打撃練習を見て何かを盗むのは難しい。独特の打ち方で、天才だから、凡人の参考にはならない」と書いていた。「天才」ならではのセンサーが既に備わっているということだろう。

小田さんによれば、科学的に良い動作はこうなっていると分析することはできるという。しかし、それを直接意識しておこうなうのではなく、何か別な意識や感覚に置き換えることが重要だと指摘している。

しかもその感覚は自分独自のもので、誰にでもあてはまるものではないという。結局のところ、科学を生かすのは自分の感覚というわけだ。

ワールドカップのラグビーを見ていて似たような思いにとらわれた人は少なくないのではないだろうか。キックを決める選手は、常に修行僧のような顔つきになって雑念を取り払い、無心の境地で、球を蹴る。これは修練によって、蹴り方の科学が血肉化している、ということだろう。フォワードの選手は野生のサイや水牛のように本能をむき出しにして、ひたすら突進を繰り返す。ウイングの選手は、草原のヒョウやカモシカみたいに、人間離れしたステップを踏む。それぞれに動きに科学的根拠はあるのだろうが、「自分の感覚」が出来上がっている。これら個々人の見事なパフォーマンスが「ワンチーム」として一体になり、意外性に満ちた流線を描きながら総合芸術として完成した瞬間が、トライやゴールだ。だからラグビーは美しいのだと納得した。

  • 書名:新版 一流選手の動きはなぜ美しいのか
  • サブタイトル: からだの動きを科学する
  • 監修・編集・著者名: 小田伸午 著
  • 出版社名: 株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日: 2019年11月22日
  • 定価: 本体1700円+税
  • 判型・ページ数: 四六判・272ページ
  • ISBN: 9784047036734

(BOOKウォッチ編集部)