カジノ誘致レースが本格化、「IR関連銘柄」の本命・大穴はどこか

カジノを含むIR(統合型リゾート)の誘致レースが過熱化し始めています。IRに認定されるための要求基準や評価基準を定めた基本方針が、来年1月をメドに策定される予定となっているからです。

立候補を検討している自治体は基本方針に沿って、申請期間(案)である2021年1月4日~7月30日に申請するための取り組みを活発化させていくことが見込まれています。認定される自治体の上限は3つ。認定時期は2021年後半から2022年頃になる見通しです。

動きを活発化させているのは、自治体だけではありません。関連企業も水面下で連携を模索する動きを強めています。どんな企業が有望なのか、考えてみます。


意外と高い誘致のハードル

現在、IRに名乗りを上げているのは東京、横浜、千葉、愛知、大阪、和歌山、長崎とされています。11月29日には北海道がIR誘致を断念しました。

環境影響評価(アセスメント)の遅れなどから、限られた期間内で希少な動植物が多い候補地の環境に配慮した対応を行うのが不可能なことや、意見を集約するのが難しかったことが、断念の理由のようです。

このようにIR誘致には、環境に対する配慮や、依存症をはじめとしたカジノ施設の有害な影響への対策、地元住民の賛同など、ハードルが高く、断念する自治体も出てくるものとみられます。

しかし、認定された自治体周辺には、大きな経済波及や雇用創出の効果、収入の増加が見込まれるため、誘致レースの過熱化とともに株式市場にも影響が出てくることが考えられます。

カジノフロアの面積はわずか3%

IRは、特にカジノについて注目されているようです。しかし、カジノをするゲーミングフロアは、IR施設における建物床面積の3%を上限と定められています。そのほかに、ホテルや商業施設、レストラン、劇場、アミューズメント施設、そして特に政府が注力しているMICE施設などを持つ複合型観光集客施設の全体を指して、IRと称するわけです。

MICEとは、Meeting(企業等の会議)・Incentive Travel(報奨・研修旅行)・Convention & Conference(学会や国際会議)・Exhibition(展示会やイベント)の頭文字をとったもの。これらのビジネスイベントに参加する参加者は1人当たりの消費額が多いとされており、観光業において特に注目を集めています。

政府の基本方針案に記された「IR整備の意義・目標」を見ると、政府の目指したいIR像がわかります。

【意義】

国際的なMICEビジネスを展開し、日本の魅力を発信して世界中から観光客を集め、来訪客を国内各地に送り出すことにより、「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光」を実現。

【目標】

・我が国におけるMICE開催件数の増加。

・2030年に訪日外国人旅行者数を6,000万人、消費額を15兆円とする政府目標達成の後押し。

・訪日外国人旅行者の国内各地の観光地への訪問の増加。

このように、観光への影響を非常に重視していることがわかり、インバウンドの恩恵を享受している企業にさらなる追い風となることが見込まれます。そのほか、MICEに携わる企業や翻訳に関係する企業にも脚光が当たりそうです。

早くも動き出したコンソーシアム構想

10月下旬に大阪で、「ツーリズムEXPOジャパン2019」と「インバウンド・観光ビジネス総合展2019」「IRゲーミングEXPO2019」が同時開催されました。また、12月には北海道、1月には横浜で、「統合型リゾート産業展」が開催される予定となっています。

このようにIR関係者との交流が着々と進められており、誘致レースの下準備が進んでいる状況です。中でも、カジノ運営事業者と日本の企業とのコンソーシアム(共同体)には特に注目したいと考えています。

大阪のIRに参入を目指している米MGMリゾーツは、いち早くオリックス(証券コード:8591)とコンソーシアムを組みました。また、セガサミーホールディングス(6460)も、特に関東圏のIRにおいて、コンソーシアムでのトップシェアを狙っています。

千葉では、新日本建設(1879)やキッツ(6498)などが「MICE IR千葉」を設立し、IRに関する情報提供を提案していくようです。このように、一部の企業はすでに動き出しており、各地域のコンソーシアムの状況がわかり次第、株式市場でも物色される可能性があるとみています。

候補地によって効果にはバラツキも?

どの候補地が選ばれるかによって、経済効果にもバラツキが起きそうです。各候補地を、特徴から3つに分けて考えてみます。1つ目が“フロントランナー”とみられている大阪、2つ目が地方、3つ目が首都圏です。

大阪では、運営時の経済波及効果を年間7,600億円、雇用創出人数を8.8万人程度と試算しています。2025年の万国博覧会の開催までにIRを開業したいと、前傾姿勢を続けている状況です。

地方の候補地では、経済波及効果は年間約2,000億~3,000億円で、雇用創出人数は約2万人程度となる見通しとなります。特に地方の候補地では、観光による経済波及効果や税収増加が大きいことから誘致したいと考えていますが、カジノ部分での住民の賛同を得られるように努力している状況のようです。

首都圏では、現在横浜が試算を出していますが、その試算の振れ幅が大きく、経済波及効果を6,300億~1兆円、雇用創出人数を7.7万~12.7万人としています。経済合理性を考慮すれば、首都圏での開業は経済波及効果が大きいと考えられ、また資金の回収性にも優れているために、有力な候補となっているようです。

いくつかのカジノ事業者では、首都圏を優先することも発表しています。しかし、観光業の振興や雇用創出などの面で地方創生にも寄与することから、政治的な考慮がなされる可能性も十分に考えられます。さまざまなケースが想定されることから、目が離せない状況です。

IR関連銘柄の本命は?

このような状況を踏まえたうえで、株式市場にはどんな影響が出てきそうなのでしょうか。ゲーミングによる収入がIR施設の大部分を占めるという試算もあることから、カジノ関連銘柄が注目されると考えられます。

たとえば、バンダイナムコホールディングス(7832)やコナミホールディングス(9766)などゲームマシンを作っている企業や、ユニバーサルエンターテインメント(6425)のようにすでに海外のIRに参入している企業。グローリー(6457)などの現金処理を担う企業や、テックファームホールディングス(3625)など電子決済を扱う企業も物色されそうです。

また、ゲーミング部分において厳重に管理・運用をする必要性があることから、警備企業にも恩恵が期待できそうです。さらに、イカサマ対策や防犯の観点から、防犯カメラ関連企業にも大きな需要が発生するものとみています。中でも、オリンピックにも使われたNEC(6701)やパナソニック(6752)など、顔認証技術を持つ企業にも注目したいところです。

海外のカジノを例に見ると、エンターテインメント性を重視していることから、日本らしさを持つ芸能や漫画、アニメなどのクールジャパン関連銘柄にも期待が持てそうです。特に、動画配信サイトの隆盛により、海外においても気軽にアニメを見られるようになった影響は大きいと考えています。

周辺銘柄にも高まる期待

漫画やアニメの聖地巡礼の需要が高く、観光公害となっているところも出てきているようです。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)などを用いた新たなエンターテインメントが、開業までに生まれる可能性もあります。また、有力なキャラクターなどのIP(知的財産)を持つ企業にも注目です。

他にも、鉄道・バス・タクシーなどの各種交通機関の企業も面白そうです。IRまでの移動手段として使われるという恩恵と地域の雇用が創出される点で、定住人口が増えることが見込まれるため、潜在成長力に寄与することが期待できるからです。

一時的な需要としては、建設・建築関連の企業に大きな追い風になるとみています。また、IR開業予定地周辺に土地を持つ企業やその土地を地盤に持つ企業にも買いが入りそうです。さまざまな業界に幅広い経済波及効果が見込めるため、銘柄選別は難しくなりますが、継続的に買いが入っている銘柄に乗ることも有効な手段ではないでしょうか。

<文:投資調査部 饗場大介>

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