「ながら運転」で奪われた日常 被害女性「罰則強化は当然」

正面衝突し、大破した松本昌子さんの車(家族提供)

 「ながら運転」を厳罰化する改正道交法が1日に施行された。実際に「ながら運転」の車による事故に巻き込まれた被害者は、厳罰化をどう感じているのか。事故により「日常」を奪われた女性は「加害者を恨んでいる。罰則強化は当然の流れ」と心境を明かした。

 2018年8月11日午後4時ごろ。南島原市加津佐町の自営業、松本昌子さん(77)は、仕事のため雲仙市愛野町の国道を諫早方面に向けて乗用車を運転していた。時速30キロほどでカーブにさしかかったときだった。対向車がいきなり中央線を飛び出し、正面衝突。それと同時に気絶した彼女の脳裏には、「ゴーン」という衝撃音だけが刻まれている。
 「死んでる、死んでるぞ」。周囲の騒々しい声で、はっと目を覚ました。シートベルトがきつく締まって身動きが取れず、呼吸もやっとの中で声を張り上げた。「生きています、助けて」。後続車の運転手によって大破した車内から救出され、「助かった」と思った瞬間、また気を失った。再び目を開けた場所は、病院のベッドの上だった。
 頚椎(けいつい)脱臼骨折、頚髄(けいずい)損傷のほか神経損傷など全治6カ月の重傷を負った。相手の乗用車は山口から観光で訪れていた男性3人組で、事故原因はカーナビ操作による前方不注視だった。直接の謝罪はこれまで一度も受けていない。
 後遺症は重かった。手術直後は箸も持てず、歩けなかった。今も手の指先にしびれがあり、ペットボトルのキャップは開けられない。自分で髪を洗うこともできない。鎮痛剤は毎日欠かさず服用し、首には17針縫った手術痕が残る。懸命なリハビリのかいもあって握力は回復傾向にあり、歩行もできるようになったが、事故前の「日常」とは大きく変わった。
 松本さんは今年6月、車の運転を再開した。事故現場を通るたびに事故の記憶がフラッシュバックし、対向車線の大型車と擦れ違うとハンドルを握る手がすくむ。「正直、運転は怖い。それでも仕事もあるし、運転しないわけにはいかない…」
 心身の後遺症と闘う日々。彼女は同じような被害者が出ないことを切に願っている。「相手を恨み、許せない気持ちもあるが、自分が加害者ではなくて良かったとも思う。厳罰化は当然の流れ。厳しくしないと、ついやってしまうのが人間だから」

ながら運転の罰則を強化した改正道交法

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