開戦の日

 ある大学で講演中、評論家の吹浦忠正さんは学生に尋ねてみた。「真珠湾はどこにある?」。一人が隣の学生とひそひそ話して答えた。「三重県です」。真珠の養殖が盛んな地名を挙げたという▲二十数年前の話らしいが、その頃すでに「真珠湾」を知らない人は相当いたのだろう。旧日本軍が米ハワイの軍事拠点、真珠湾を攻撃し、太平洋戦争の火ぶたを切った日から、きょうで78年になる▲いま、学校で吹浦さんと同じ質問をしたら、正答率はどうだろうか。3年前の12月、安倍晋三首相が真珠湾を訪れ、奇襲攻撃の犠牲者に花を手向けた。このとき、開戦の地の名前を知った子どもや若い人もいたに違いない▲その7カ月前、当時のオバマ米大統領が被爆地の広島を訪問した。「真珠湾」と「広島、長崎」。太平洋戦争の始まりと終わりに、それぞれが深い傷を負い、大統領と首相は傷痕の地を訪ね合った▲ともに「和解」の大切さを語ったのを思い出す。3年で相互理解は深まっただろうか。米国は大統領が代わった▲真珠湾攻撃に臨んで亡くなった中には、本県出身の方もいる。佐世保東山海軍墓地には、真珠湾攻撃に参加し、後に海戦で沈んだ空母「加賀」の慰霊碑がある。原爆の日、終戦の日ばかりではない。開戦の日もまた、語り継ぐべき日として胸に刻みたい。(徹)

© 株式会社長崎新聞社