「メッシの卵」を見逃すな! 才能ある天才少年のスカウトに革命起こすテクノロジーとは?

アルゼンチンの小さな街で生まれ育ったリオネル・メッシは、13歳の時に世界最高峰のチームの一つ、バルセロナによって発掘され、やがて世界最高の選手へと上り詰めた。こうした奇跡のシンデレラストーリーはサッカー少年の誰もが憧れとして抱くものの、実際にはそうそう起こることではないのが現実だ。だが、テクノロジーの力によって、スカウトの世界に革命が起きるかもしれない――。

(文=川内イオ、写真=Getty Images)

ダイヤの原石を探せ!

「スカウトは全ての大陸にいる。アジアサッカーやアフリカサッカーを担当する人もいて、世界中からレポートが送られてくる。成功するちょっと前の選手を探すのが目的で、ペンディングにしている選手は700人いる」

11年前の2008年、当時、ラ・リーガ(スペイン)のセビージャで敏腕スポーツディレクターとして腕を振るっていたモンチ氏にインタビューをした際に聞いた言葉だ。

イタリア・セリエAのローマを経て、今夏、セビージャに戻ったモンチ氏は、今も欧州サッカー界屈指のSDと言われる。その理由は、無名の若手を獲得してきてチームでブレイクさせる手腕にある。その眼力によって、モンチ氏はセビージャにタイトルと多額の移籍金をもたらしてきた。2017年4月から2年ほど勤めたローマでも、3億ユーロを超える売却益をもたらしたと報じられている。

モンチ氏と同程度かはわからないが、多くのプロサッカークラブは、ダイヤの原石を探すために世界中にスカウト網を張り巡らせている。こまめに試合に足を運び、有望な選手がいれば報告するという役割を担う人たちが、無数に存在するのだ。五大陸に散らばるそのスカウトたちの仕事が、テクノロジーの力によって変わっていくかもしれない。

世界中のスカウトを民主化する

今年11月、サッカーのスカウティングアプリ「Gloria(グロリア)」を展開するアメリカのスタートアップ、グロリアが資金調達に成功して話題になった。金額は明らかにされていないが、アメリカ最大級のニュースサイト「reddit(レディット)の共同創業者であるアレクシス・オハニアン氏が設立したベンチャーキャピタル・Initialized Capitalを中心に、複数の投資家から資金を得たと報じられている。

グロリアを立ち上げたのは、アルゼンチン人女性のヴィクトワール・コゲヴィナ氏と、同じくアルゼンチン生まれのマティアス・カステロ氏。コゲヴィナ氏の母親は、アルゼンチンで女性初のサッカー選手の代理人業を営んでいたことで知られる。

自身も代理人業に就いていたコゲヴィナ氏は、27歳の時に「テクノロジーで、スカウトをグローバルに民主化する」ための手段としてスカウティングアプリの「グロリア」を構想し、それを実現するためにサンフランシスコに移って、「Silicon Soccer」を設立した。

グロリアの製品およびテクノロジーの責任者を務めるが、Facebookの元最高製品責任者で役員でもあったカステロ氏。カステロ氏の父親は元プロサッカー選手で、アルゼンチンのラシン・クラブでプレーしていた。コゲヴィナ氏がこのチームのファンだったこともあり、意気投合して共同創業者として参画することになったようだ。

提携するリーグと収入をシェアする仕組み

グロリアは、プレーヤー自身が使用するアプリ。最初に性別、年齢、身長、体重、ポジションなど基本情報を入力した後、自分のスキルをアピールするビデオや試合のハイライトなどをアップロードする。どのようなビデオをアップすればよいのか、グロリアがわかりやすい解説を用意する。

最初にグロリアが投入される市場はアルゼンチンで、11月末からベータ版の運用が始まる。同国のトップリーグであるスーペル・リーガとはすでにパートナーシップ契約を結んでおり、スーペル・リーガに所属するすべてのクラブが投稿を閲覧できる。

クラブ側は検索機能がついたウェブ上のプラットホームを使用し、希望する年齢、ポジション、経験の選手を見つけて、ビデオを見ながらタックルやフリーキックなど特定のスキルをチェックするという仕組みだ。

グロリアは10歳から35歳までの男性と女性のプレーヤーに開放されており、ビデオをアップロードしたプレーヤーは、月々の使用料を支払う。そのうちの70%がグロリアの収益となり、30%を提携するリーグとシェアするというビジネスモデルだ。選手にとっては使用料が負担になるが、すでに1万人以上の選手が登録を希望しているという。

女子選手の発掘、移籍の活発化にも

実は、グロリアに先駆けて、2018年7月に日本からも同様のアプリ「dreamstock」がリリースされている。こちらは、ユーザーが動画をアプリにアップすることでdreamstockが提携しているプロチームのオンライン選考に参加できるというもので、同社のリリースによると、リリースから半年ほどで20名のユーザーがプロチームに合流した。

代表は、ブラジル生まれの松永マルセロハルオ氏で、現時点で提携しているのはブラジルの37クラブ。今年1月の時点で登録者が7万人に達し、99%が海外ユーザーだという。オンライン選考で合格したユーザーとプロチームをつなげることで、選手のマネジメント権を取得しているというのも特徴だ。

同様のサービスの最大手として、2004年にイタリアで生まれた「Wyscout」もある。こちらは現在1000を超えるプロクラブ、1000のエージェンシー、60の代表チームが利用しているサッカー専門のオンラインデータベースで、毎週1500試合の動画がアップロードされており、会員になるとおよそ55万人のプレー動画を見ることができる。

しかも、動画にはゴール、アシスト、ショートパス、ロングパス、インターセプトなどプレーごとのタグが付けられているので、検索して、見たいプレーだけをチェックできるようになっている。

ほかにも、サッカー版LinkedInと評され、80万人以上の選手が登録している「Tonsser」などがあり、グロリアは後発のサービスになるが、競合サービスは女子選手の登録が少ないため、コゲヴィナ氏は女子選手の登録と移籍の活性化にも注力するとしている。

アルゼンチンと日本で女子サッカーリーグのプロ化が決定しており、女子サッカーが盛んな欧米も含めて、今後、女性プレーヤーの移籍が活発化することを見越して、アルゼンチンでサービスをスタートするのだ。

サッカー界では、テクノロジーを使ったスカウトが浸透し始めている。もしかすると、これまで世界のスカウトの目が届きにくかった極東の島国・日本から、メッシ2世と称されるような才能が発掘されたり、澤穂希2世と呼ばれるような女子選手が若いうちに海を渡るというケースも増えてくるだろう。この記事に挙げたようなスカウティングサービスは、少年少女に夢を与えるテクノロジーでもあるのだ。

<了>

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