第9回「全国女性社長」調査

 2018年の女性社長は全国で45万4,961人と、前年(41万1,969人)から10.4%増加した。2014年(31万55人)と比べると5年間で1.5倍に増えた。構成比でも2014年の11.5%から2018年は13.4%に1.9ポイントアップした。
 産業別では、飲食業などを含むサービス業他が約5割を占めた。都道府県別は、サービス業他が好調な沖縄県や東京都など大都市、人口が増加した地域で女性社長率が高い傾向がみられた。
 出身大学別は、トップが日本大学、次いで東京女子医大、慶応義塾大学、早稲田大学と続き、8位の上智大学まで前年と同順位。9位に国立大として初めて東京大学が上位10位内に入った。
 家事や育児、介護など、ライフプランに関する課題を社会全体で支える仕組み作りは始まったばかりだが、世の中の動きを先取りする形で女性社長は増加をたどっている。

  • ※本調査は、東京商工リサーチの保有する約379万社の経営者情報(個人企業を含む)から、女性社長(病院、生協などの理事長を含む)を抽出、分析した。調査は2010年から実施し、今年が9回目。
女性社長数・女性社長率推移

女性社長数の最多は東京都、「女性人口10万人当たり」では東京都、沖縄県、大阪府がトップ3

 都道府県別の女性社長数は、最多が東京都の11万5,764人(前年比10.6%増)で9年連続トップ。次いで、大阪府4万1,588人、神奈川県2万8,453人、愛知県2万4,433人、福岡県2万515人と、企業数の多い大都市が並ぶ。
 一方、少なかったのは島根県1,458人(同2.1%増)を筆頭に、福井県1,840人、鳥取県1,852人、秋田県2,026人と、顔ぶれは変わらず、企業数や人口に比例した格好となった。
 「女性人口10万人当たり」の女性社長数は、東京都が1,649人でトップを守り、沖縄県1,046人、山梨県930人、大阪府908人、大分県779人の順だった。一方、最少は新潟県の370人、次いで、山形県385人、秋田県と岐阜県が各390人、島根県414人の順。市場の大きな大都市圏や、産業別で女性社長数が最も多い「サービス業他」が好調な地域が上位に並んだ。

女性社長率の最高は唯一20%超えの沖縄県、全国平均は13.4%

 企業数と女性社長数を対比した「女性社長率」は全国平均13.4%で、前年(13.0%)に比べて0.4ポイント上昇。調査を開始以来、9年連続で上昇した。全国平均を上回ったのは13都府県で、トップは沖縄県で20.6%。次いで、東京都15.7%、大分県15.67%、福岡県15.61%、大阪府14.8%、山梨県14.7%の順。一方、ワースト1位は新潟県の8.7%で、福井県8.9%、山形県9.0%、富山県9.11%、石川県9.14%が続く。
 「女性人口10万人当たり」の女性社長数が少ない地域や「女性社長率」が低い地域は、「平成29年就業構造基本調査」(総務省)の「女性の有業率(経営者含む)」(1位福井県、2位島根県、3位山形県)と相関関係がみられた。また、同調査の「非正規雇用の割合」が低い地域(1位徳島県、2位山形県、3位富山県)でも同じ傾向がみられ、就業環境が女性経営者の誕生を左右する部分もあるようだ。

都道府県別女性社長数・女性社長率

地区別 「女性社長率」のトップは九州、『西高東低』の様相をみせる

 地区別の「女性社長率」は、トップが九州(14.4%)で5位以内に3県(沖縄、大分、福岡)が入った。続いて、2位の関東13.8%までが全国平均13.4%を上回り、近畿13.2%が続く。
 一方、最下位は8.8%の北陸で、唯一10%を割り込んだ。続く8位が東北10.5%、7位が中部11.4%で、『西高東低』の傾向がみられる。

産業別 社長数ではサービス業他、社長率では不動産業がそれぞれトップ

 産業別で、最多は「サービス業他」の21万426人(構成比46.3%)で、約5割を占めた。飲食業や医療・福祉、美容関連など小資本でも起業可能で、資格を活かした業種が多いことが特徴。
 次いで、不動産業の6万3,597人(同14.0%)、小売業5万5,678人(同12.2%)が続く。
 また、「女性社長率」は、不動産業が22.8%で、サービス業他(17.4%)を上回ってトップに立った。女性社長は、個人生活に結びついた分野での活躍が目立っている。

社長の名前、「和子」が9年連続トップ

 女性社長の名前の1位は、「和子」が5,327人で9年連続トップ。以下、2位「幸子」4,751人、3位「洋子」4,657人、4位「裕子」3,681人、5位「京子」3,240人の順。トップの「和子」は、昭和初期から昭和27年(1952年)頃まで、女性の生まれ年別の名前ランキングトップだった。この影響が、女性社長名に及んでいるとみられる。
 「子」が付かない名前では、18位に「明美」(2,009人)、28位「真由美」(1,654人)、29位「直美」(1,653人)、31位「由美」(1,645人)などが連なる。

出身大学別 日本大学が9年連続トップ、東京大学が国公立大学で初のベストテン入り

 女性社長の出身大学は、日本大学が414人(前年397人)で9年連続のトップ。2位以降は、東京女子医科大学317人、慶応義塾大学311人、早稲田大学249人、青山学院大学210人、日本女子大学184人と続く。7位に入った同志社大学を除き、東京都に本部を置く大学が10位以内に9大学ランクインした。
 国公立大学は、東京大学138人(前年125人、前年12位)が9位で、初めて10位以内に入った。30位以内には、17位に広島大学116人(同114人、同15位)、19位に大阪大学101人(同95人、同19位)、20位に九州大学98人(同90人、同24位)、24位に東京医科歯科大学93人(同92人、同22位)が入った。
 また、上位30位以内にランクインした女子大学は、東京女子大学が34位から4ランクアップして5校に増え、前年(4校)より1校増加した。

上場企業の女性社長は全体の1.0%

 上場企業の女性社長(代表執行役を含む)は41社(判明分)だった。前年(39社)より2社増加したものの、上場企業全体に占める女性社長の割合は、依然として1.0%にとどまっている。
 業種別では、飲食業を含む「小売業」と「情報・通信業」が各9社で1位。次いで、美容業や介護サービス業などの「サービス業」と「化学」が各6社で続く。

後継者 女性社長は男性に比べ高年齢層で後継者不在率が低い

 東京商工リサーチが11月7日に発表した『2019年「後継者不在率」調査』によると、女性社長企業の「後継者不在率」は53.9%で、半数以上を占めた。男性社長企業(54.8%)との差は0.9ポイントで、男女差はほとんどみられない。
 ただ、30歳未満、40歳代、50歳代の女性社長は男性社長より後継者不在率が高く、一方、60歳以上では女性社長の方が低い結果となり、低年齢層と高年齢層で対照的な傾向が現れた。

  • ※東京商工リサーチの企業データベース(379万社)のうち、2017年以降の後継者に関する情報が蓄積されているデータから19万521社を無作為に抽出、分析した。「後継者不在率」は、営業活動を行い事業実態が確認できた企業のうち、後継者が決まっていない企業の割合を示す。
後継者不在率 代表者年齢別

 中小企業は社長の高齢化が進み、社長の平均年齢は61.73歳(2018年)で、前年より0.28歳上昇した。高齢化に伴い事業承継(後継者問題)が大きな課題に浮上している。
 こうした事情を背景に、女性社長の増加は政府の起業支援と、事業継承が主な要因になっているようだ。女性の社会進出は、後継者問題に悩む企業にとって解決への選択肢を増やすメリットもある。また、従来の男性社長が持ち得なかった感性は、商品やサービスの差別化にもつながりやすく、事業創造を通じた経済活性化の担い手としても期待されている。
 国や自治体にとって、人口減少のなかで女性社長の増加は、社会の活性化に向けた重要な位置づけにある。ただ、女性の新規創業への資金面や事業運営上の支援だけでなく、社会進出を阻む厚い壁になっている育児、介護などの生活支援など課題は少なくない。社会全体の意識改革のバロメーターとして、これまで以上に「女性社長」推進への後押しが必要になっている。

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