大火防げ!IoT活用スプリンクラー開発

新潟出身の院生、糸魚川大火を教訓に

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「加賀鳶IoTスプリンクラー」から建物に水がまかれるイメージ(石川工業高専提供)

 首里城(那覇市)の火災を機に、改めて注目されている木造文化財の防火対策。金沢市内には観光客に人気の「ひがし茶屋街」や「武家屋敷跡」をはじめ、藩政時代や明治期に建てられた「金澤町家」が数多く現存している。こうした歴史的木造建築物やそこで暮らす人たちを守ろうと、金沢大大学院1年の田中裕之さん(23)が防災関連企業や市消防局と協力し、IoT(モノのインターネット)を活用した防火装置システムの開発を進めている。(共同通信=高山未来)

 ▽第2の糸魚川大火を起こさない―

 新潟県燕市出身の田中さんは金沢大に進学し都市計画を専攻。誰もが住みよいまちをつくりたいと学びを深めていた2016年12月、同県糸魚川市の木造住宅が密集する地域で、後に「糸魚川大火」と呼ばれる大規模火災が発生した。1軒のラーメン店から出た火は、約30時間燃え続け、約4万平方メートルを焼き尽くした。

 当時2年生だった田中さん。防災や防火にも関心があったことから、数日後には火災現場を訪れた。

 「これほど技術が発達した現代なのに、どうして食い止めることができなかったんだ…」

 一面焼け野原になった光景を目の当たりにし、ぐっと悔しさがこみあげた。

 「第2の糸魚川大火を起こさない」

 金沢に戻ると、木造建築や歴史的建造物を火災から守るため、延焼リスクの研究が新たなテーマとなった。

IoTを活用した防火装置システムの開発を進める金沢大大学院1年の田中裕之さん=金沢市 

 ▽「加賀鳶IoTスプリンクラー」

 金沢市内は空襲を免れたため、戦前からの木造建築が多く残る一方、消防車両が通れない狭い道も多い。武士や町人の邸宅だった金澤町家は、地元住民らが保全に取り組むが、火災を含めた防災対策が長年の課題になっている。

 道幅を広げたり壁を改修したりする方法は時間も費用もかかるため、田中さんは、屋外に設置し、火災発生時に周囲への延焼を防ぐスプリンクラーを考案した。

「加賀鳶IoTスプリンクラー」の完成後のイメージ(石川工業高専提供)

 昨年5月に「田中ミスト製作所」を設立。市消防局や消防装備のメーカーに協力を仰ぎ、「加賀鳶(とび)IoTスプリンクラー」の試作品第1号を製作した。

 今後制作する予定の完成品は高さ約10メートルの棒状で、高さの違う3層の放水口から霧状の水を放出する設計だ。延焼経路に合わせ1層目は飛び火を防ぐために屋根、2層目は軒裏軒先、3層目は外壁や窓に向かって放水する。建物の裏など狭く消火が難しい場所や道路沿いに設置し、夏は打ち水としても利用できる。

 糸魚川大火は消防団員が仕事に出ている昼間発生し、初期消火が遅れてしまったことが延焼が広がった要因の一つとされる。

 「加賀鳶IoTスプリンクラー」は、無人の状態でも稼働するように開発。IoTを活用し、火災の進行状況や場所の特徴、風向きなどの情報から効果的な放水方法を判断する他、アプリや消防署から遠隔操作するシステムが組み込まれるという。

 今後は石川県消防学校の協力も得て実証実験を進め、21年の実用化を目指す。金澤町家は住宅として使われ、住民も防火対策に不安を感じている。田中さんは「歴史的価値のある建造物を守り、安全、安心な町をつくりたい」と力を込めた。

ひがし茶屋街で木造建造物の防火対策について説明する田中さん=金沢市、10月30日

 ▽取材を終えて

 金沢には毎日休日かと思うほど世界各地から多くの観光客が訪れる。誰もが散策して写真に収めたくなる昔ながらの風情ある町並み。田中さんも金沢の魅力に惹かれ「都市計画を学ぶならこのまちで」と金沢大に進学したという。

 首里城の火災を受けて各地で防火対策が見直されている。既存の防火装置やシステムでどこまで対応できるのか、再検討が必要だろう。「文化財の消失は建物だけではなく、歴史やそこに住む人の心の支えも失ってしまう」。新しい知恵と技術を生かし、人の命や伝統を守っていく田中さんの思いが100年後の誰かに届いてほしい。