平塚でもバックウオーター現象か 台風19号浸水、相模川水門閉めず

台風19号上陸時、基準水位に達していながら閉門しなかった鹿見堂排水路

 台風19号で神奈川県平塚市内の一部が見舞われた浸水被害は、排水路の水門を閉めずに相模川の水が逆流したバックウオーター現象の可能性があることが、9日までに分かった。相模川の水位は水門を閉じるべき基準に達していたが、現場は内水氾濫の危険性があると判断し閉門を見送っていた。結果的に周辺住宅地で広範にわたる浸水被害が発生、落合克宏市長は「判断の妥当性について検証したい」とし、原因調査に乗り出す考えだ。

 問題が明らかになったのは、鹿見堂(ししみどう)排水路(平塚市四之宮)の水門。市北部から流れる同排水路は水門を隔てて相模川につながっており、雨水とともに県下水道公社四之宮水再生センターの処理水を流し込んでいる。台風が上陸した10月12日、市は午後4時ごろから、職員による水門の常時監視を続けていた。

 基準では相模川の水位が5.6メートルに達した場合、バックウオーター現象を防ぐため水門を閉じることになっている。しかし、今回は午後5時時点で基準水位に達したが、「水門を閉じれば雨水と下水処理水の行き場がなくなり、内水被害が拡大する可能性がある」(市担当者)として閉門を見送っていた。

 排水路では午後5時ごろから徐々に水があふれ出し、周辺の住宅地で浸水被害が発生。高齢者施設では同日午後9時以降に建物内部が浸水し、消防隊が出動して入所中のお年寄りの避難に当たるなどした。ポンプ車による排水作業で翌13日午前4時半ごろに解消したものの、一帯の浸水被害は56件に上った。このうち床上浸水は20件で、最大1.3メートル水につかった。

 相模川では城山ダム(相模原市緑区)が12日午後9時半に「緊急放流」を実施、下流にある水門周辺の水位は13日午前0時半にピークの6.8メートルに達した。市は「相模川の水位と浸水の水位がほぼ同じだった。バックウオーター現象が起きた可能性が高いが、断定はできない」と説明する。

 相模川沿いで手動で開閉する水門6カ所のうち、実際に閉門されたのは鹿見堂の上流にある天神森排水路(同市田村)の水門1カ所だけだった。天神森は水位の基準は設定されていなかったが、バックウオーター現象が確認されたため閉門を判断した。しかし、ここでも内水氾濫で1件の床下浸水が発生した。

 一連の対応を巡り、市は鹿見堂の水門を閉じた場合の被害予測など、浸水被害のメカニズム解析を民間に委託する方針を固めた。事業費900万円を計上した下水道事業会計補正予算を開会中の市議会12月定例会に提出し、本年度中に調査報告をまとめる。市は「増水時に水門を閉じる基準水位を見直すなど、今後の防災対策に生かしたい」と説明する。

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