11月雇用統計を無事通過、それでも消えない「ドル円相場」の不安材料

12月6日に発表された11月分の米国非農業部門就業者数(NFP)は、市場予想の前月比+18.0万人よりもかなり強い内容の+26.6万人となりました。前月・前々月の上方修正も併せて4.1万人あり、極めて強い米雇用市場であることが証明されました。

家計調査の米失業率も9月に並んで、約50年ぶりの低水準となる3.5%で、ほぼ完全雇用の状況と表現しても過言ではありません。


市場の不安を吹き飛ばした好調指標

今回のNFPは、米ゼネラル・モーターズのスト終了を受けて、約4万6,000人が雇用市場に戻ってくることがわかっており、もともと強くなると予想されていました。しかし、12月2日発表された米ISM製造業雇用指数の悪化や、12月4日に発表された米ADP雇用者増加が予想を大幅に下回ったことで、雇用統計の発表前には弱気な見方が強まっていました。

筆者のNFP予想は、市場予想よりも強い+21万人前後でした。筆者は、ADP雇用統計と労働省発表の雇用統計との間に連動性はないとみています。それよりも、11月分の雇用統計調査週(12日の含まれる週)の失業保険継続受給者が大幅に減少していることに注目していました。

米国での雇用の強さを再確認した後に発表された米ミシガン大学消費者信頼感指数は99.2
と、市場予想の97.0よりかなり強い、5月以来の数字となりました。消費者信頼感は株価に左右されやすいところもありますが、史上最高値を更新し続ける米国の株式指数と堅調な雇用が消費を支えていると思われます。

失業保険受給者数に映る不安

極めて好調に映る、足元の米国の雇用環境。しかし、不安が皆無かというと、そうでもありません。それを示唆するのが、前出の失業保険継続受給者の推移です。

このグラフを見ていて非常に気になるのは、雇用統計調査の翌週の受給者数(速報値)が上昇していることです。11月の月末最終週の数字を見るまでは断定はできませんが、今回発表された11月分のNFPは来月、大幅に下方修正される可能性があるかもしれません。

また、同時に発表された11月分の平均時給は、前月比が予想+0.3%に対して+0.2%、前年比が+3.0%に対して+3.1%という結果になり、さほど材料にならないようにも見えました。しかし、10月分の大幅上方修正には注目しておかなければいけないでしょう。

10月8日の配信記事でも触れましたが、管理職の平均時給が伸び悩んでいる中、生産・非管理職労働者の上昇率は堅調に推移しています。所得水準が高いと思われる管理職のレイオフあるいは管理職の所得減は、まだ続いている可能性があります。この傾向にも今後注意が必要と思われます。

当面のドル円相場を左右するのは?

米国の重要指標が発表される時は指標が注目されますが、発表が終わってしまうと一気に注目度が低下してしまう昨今。米中通商合意の第1段階が正式に発表されるまで、市場は疑心暗鬼に陥っているようにみえます。

11月分の米雇用統計が発表される直前のドル円相場は1ドル108円台半ば。発表直後は108円90銭近辺まで上昇しましたが、週末に対する警戒感と米中通商交渉の決裂見通しもあって、ドル買いは長続きせず、ニューヨーク市場の引けにかけては再び108円台半ばまで下落しました。

米トランプ政権が中国からの輸入品1,600億ドル分に追加関税を課す12月15日が近づく中、米中合意が12月15日までになされるのは不可能との見方が大勢です。課税が延長になるのか、課税が発動されるのか、当面疑心暗鬼の相場が続くことが予想されます。

以前から申し上げているように、筆者の「米中通商交渉決裂=2020年米大統領選でのドナルド・トランプ大統領は敗北」との見方は変わらず、「米国側の妥協・譲歩で米中通商合意」と予想しています。ツイッターで主導権を握っていることをアピールしているトランプ大統領ですが、本当に主導権を握っているのは中国の習近平・国家主席とみています。

<文:チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄>

© 株式会社マネーフォワード