「こいつらホモなんだよな」と馬鹿にされた!

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アルファベットで4文字。現代社会で多くの人が認識すべき必須のキーワードが「LGBT」だ。レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を連ねたもので、性的少数者を指す。

本書『LGBTをめぐる法と社会』(日本加除出版)は、教育や企業の現場で今や「常識」とされるようになったLGBTについて、法と社会がどう対応しているか、法律関係者やLGBTの支援者が、それぞれの体験などを踏まえながら解説している。

卒業生が自殺の衝撃

本書のもとになったのは2018年5月から12月にかけて、中央大学が中心になって8回にわたって開催された「LGBTをめぐる法と社会――過去、現在、未来をつなぐ」という講座だ。中央大学が軸になったのは、同大法学部を卒業した学生が、一橋大学の法科大学院で学んでいるときに自殺した事件がきっかけだ。学友に同性愛の恋愛感情を告白したところ、相手に暴露(アウティング)され、それをきっかけに投身自殺したとされる事件だ。翌年、損害賠償の訴訟が提起され、広く知られることになった。

中央大法学部は、法曹養成の名門校。その出身者が当事者だったこともあって関係者は事件を深刻に受け止めた。「LGBTとアライ(LGBTを理解し支援する人)のための法律家ネットワーク」(LLAN)から講座開設を打診され、中央大学とLLANの共同で開催した。

講座では毎回、研究者と法曹、政治家、行政関係者が数名登壇し、互いに対話しながらテーマを深めた。参加者は学生、LGBT活動家、ダイバーシティに取り組む企業関係者など多岐にわたって好評だったという。

本書は法学関係者を第一の読者対象としているが、問題が極めて今日的な事柄だけに、一般の読者にも関心を持つことができる内容になっている。

友人がカミングアウト

まず、「第1章:LGBTと裁判」では、LGBTの問題が広く社会に知られるきっかけになった都立「府中青年の家」問題について、中川重徳弁護士が振り返っている。草創期のこの問題をめぐる状況がリアルにわかる。

1991年2月、同性愛者の団体「アカー」(動くゲイとレズビアンの会)とその3人のメンバーが、東京都を相手どって国家賠償請求訴訟を提起した。東京都教育委員会が前年4月、「府中青年の家」の宿泊利用申し込みを承認しなかったことを違法としての訴えだ。

これには前段があった。アカーのメンバーは90年2月にいったん「合宿」のために「青年の家」を利用した。毎夕、利用者たちのリーダーたちを集めたリーダー会が開かれる。そこでアカーのリーダーは「自分たちは同性愛の団体である」「同性愛者に対する差別のない社会を実現するため活動している」と自己紹介した。

すると、予想されていたリアクションが起きた。廊下ですれ違ったキリスト教の団体関係者は「こいつらホモなんだよな」と馬鹿にし、食堂ではサッカークラブの子どもたちもはやし立てる。あるいは風呂を覗きに来る子らもいた。そのほかいろいろと嫌がらせがあった。後日、アカーが、青年の家の所長と交渉したところ、「他の青少年の健全育成に正しいとは言えない影響を与える」から、次回以降はお断わりすると通告された。

この時、原告側の弁護士を務めたのが中川さんだった。弁護士になって3年目の若手。それまでこの関係の知識がなかった中川さんと「アカー」をつないだのは中学以来の友人、N君だ。

その少し前、実は彼から「カミングアウト」を受けていた。そして最近は「アカー」に加わり、前向きに生きているとも聞いていた。そのN君から、「府中青年の家」問題の弁護を頼まれたのだ。

当時は、『広辞苑』でさえ「同性愛」について「異常性欲の一種」と書いていた。文部省の「生徒の問題行動に関する基礎資料」(中学校・高等学校編、昭和57年)でも、「社会道徳に反し・・・是認されうるものではない」と記されていた。

裁判は一審、二審でともに勝訴した。判決が確定したことの成果は大きかった。

当事者が声を上げる意義

本書はこの「第1章」から、「第2章: LGBTと差別、風間孝・中京大学国際教養学部教授」、「第3章: LGBTと法律、三橋順子・明治大学非常勤講師・性社会文化史研究者」、「第4章: LGBTと行政、鈴木秀洋・日本大学危機管理学部准教授」、「第5章: LGBTと司法、石田京子・早稲田大学大学院法務研究科准教授」、「第6章: LGBTと企業、東由紀・Allies Connect代表」、「第7章: LGBTと家族、石田若菜・駿河台大学法学部講師」、「第8章: LGBTと大学、長島佐恵子・中央大学法学部教授」、「第9章: LGBTと人権、谷口洋幸・金沢大学国際基幹教育院准教授」という構成。

「第2章: LGBTと差別」では「府中青年の家」問題に当事者としてかかわったという風間孝・中京大学国際教養学部教授がよりリアルに当時の報道ぶりや、ゲイ関係の有名人たちが抗議の声を上げることに批判的だったことも記している。

中川重徳弁護士は、世界では同性婚を認める国や地域が増えており、日本でも企業や自治体、学校、政府などの取り組みが進んでいることを認めつつ、「性的少数者ではないかと気づいた若者が、孤立し、自己肯定感を持ちにくい過酷な社会状況は変わらない」としている。

とはいえ、この裁判は「当事者が声を上げることで仲間の力が集まり、巨大に見える社会の壁を変えてゆくことを示した裁判だった」と総括している。

2000年代に入って急速に認知されるようになったLGBT。本書は「めまぐるしく変化するLGBTの現状をめぐる最先端のセオリーが得られる一冊」と銘打たれている。その前史を知ることができる意味でも本書は意義深い。

  • 書名:LGBTをめぐる法と社会
  • 監修・編集・著者名: 谷口洋幸 編著
  • 出版社名: 日本加除出版
  • 出版年月日: 2019年11月 7日
  • 定価: 本体2600円+税
  • 判型・ページ数: A5判・256ページ
  • ISBN: 9784817845948

(BOOKウォッチ編集部)