『ある女優の不在』 戦い続ける監督が、女性の生き方を問う

(C) Jafar Panahi Film Production

 本作の監督ジャファル・パナヒは長い間、自分の人生を賭けて体制と戦い続けてきた人です。『チャドルと生きる』『オフサイド・ガールズ』という作品はイランの社会情勢をリアルに描き、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンという3大映画祭を制した偉大な監督ですが、これまで体制側に逮捕や拘束をされてきました。拘留が原因となり、多くの映画人が立ち上がったことで解放された歴史があります。

 実はパナヒ監督は2010年から映画の製作はもちろんのこと、海外旅行もインタビューも20年間禁じられています。

 前作『人生タクシー』でもパナヒ監督は、車載カメラのみで映画を撮るというすごい斬新な試みで作品を撮ろうとしました。そして本作ではその方法をさらに昇華させています。

 イランの女優ベーナズ・ジャファリのもとに、ある日少女から動画のメッセージが届きます。女優を目指していた少女は芸術大学に合格したものの、父親からの猛反対にあって夢を諦めたことを告白して自殺を図ったという内容です。それを受け取ったジャファリは一度様子を見に行きたいと、パナヒ監督と一緒に少女の住んでいた村に向かいます。フィクション映画でありながら、パナヒ監督も一緒になって村の人たちと会話に混ざったりしていくため、ドキュメンタリーとフィクションの境目がない全く新しい映画。女優に対して最初はミーハー心むき出しだった村人たちが女性蔑視の考え方を見せる姿は、実際の腹の中を見てしまったような感覚になり、イスラム社会の持つ問題を目の当たりにした気持ちになりました。★★★★☆(森田真帆)

監督:ジャファル・パナヒ

出演:ベーナズ・ジャファリ、ジャファル・パナヒ、マルズィエ・レザエイ

12月13日(金)から全国順次公開

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