『家族を想うとき』 お金を稼ごうとすると、家族の絆は残酷に消えていく

(C) Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and The British Film Institute 2019

 人はなぜ仕事をするのか。多くの人はその理由を「お金」と言うと思います。第69回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた『わたしは、ダニエル・ブレイク』では、子供を2人抱えたシングルマザーが社会の福祉制度に翻弄される姿を描いた社会派ケン・ローチ。彼がこの作品で挑むのは、「働き方と家族の関係」です。大切な家族のために、マイホームを買いたいと思っているお父さんは宅配ドライバーとして独立し、自分の時間を削って働いています。

 「家族のために犠牲を払ってお金を稼ぐ」。ああ、イギリスの家庭の話といえど、どこかで見たことがあるような光景であり、感じたことのある感情。映画を見ていると、ニューカッスルの田舎町の話が、この日本で起きていることと全く同じなんだと気づきます。私自身がシングルマザーなので、働かないとお金が稼げない、とはいえ、働くと息子との時間がなくなっていくという矛盾にとても悩んでいました。

 この映画に出てくる家族たちも一緒です。お父さんが働くほど、家族と過ごす時間は少なくなって、家族の絆も薄まっていく。でもどうして働き続けるのか? その理由は、「お金」です。お金なのか、時間なのか。現代社会に生きる私たちにとって切っても切れないお金の作り出す悪循環については、私たちも考えなければならないな、と。当たり前にある、当たり前の幸せを噛みしめるいい機会だと思います。★★★★★(森田真帆)

監督:ケン・ローチ

出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター

12月13日(金)から全国順次公開

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