『テッド・バンディ』ジョー・バリンジャー監督来日記念トークイベントレポート!

映画『テッド・バンディ』が12/20より劇場公開致します。本作は、日本以外はNetflixで配信となり、日本のみ劇場公開となるファン待望の注目作。この度、来日したジョー・バリンジャー監督と、放送作家の町山広美さんをゲストに迎えトークショーを行なった。

ジョー・バリンジャー監督は、会場に入るなりすぐに「映画はいかがでしたか?」と観終わった直後の観客に問いかけ、観客は大きな拍手で応戦、「映画にとって一番大切な事なので、嬉しいです!」と笑顔で応え、アットホームな雰囲気でトークイベントがスタートしました。

事件・犯罪者・裁判・司法制度についてのドキュメンタリー映画を撮り続けてきたジョー・バリンジャー監督。本作の成り立ちに話が及ぶと、「ネットフリックスで、“殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合”というドキュメンタリー作品が、今配信されているけど、計画して2本撮ったのではなくて、実はたまたまなんだ。」と、偶然同じ題材を違う手法で手掛けることになったという、驚きのエピソードを告白。「25年前にテッド・バンディを題材にした本を書いた著者から突然連絡があり、『テッド・バンディを取材したときのテープが出てきたから、これを元に何か作品ができないか』と話を持ち掛けられたんだ。原作本も持っていたけれど、やり尽くされた題材だから迷ったんだ。でもテープを聞いてみたら、身も凍るような内容で、初めてテッド・バンディ自身の声で彼の事件が語られるのを聞いて、これだったら面白いものが作れるんじゃないかと思ったんだ」と肉声テープがドキュメンタリーを作る決め手になった事を明かした。

ドキュメンタリーの進行中は、同じ題材で劇映画を撮る事になるなど夢にも思わなかったと話す監督。ハリウッドで何らかの理由で制作されず眠ったままの脚本がリスト化されている“ブラックリスト”に本作の脚本が載っている事が判明。

「すぐに映画化したいと手をあげたけど、ブラックリストに入っている作品がすぐに動き出すとは思っていなかったんだ。だけど、主演のザック・エフロンに脚本を送ったら、すぐに出演OKの返事をくれて、彼のおかげで出資も集まり、その後はすべてスムーズに進んで、わずか4週間で制作が正式に決定したんだ。そうして、ふと気づいたら、“テッド・バンディ”を題材に劇映画とドキュメンタリーを手掛けることになったんだよ。」と本作の制作秘話と、ドキュメンタリー版との不思議なめぐり合わせを明かした。

リリー・コリンズが演じる、テッド・バンディの恋人のリズが描いた手記が元になった脚本のどこに魅力を感じたのかについて、「殺人者を扱った作品では、死体が見つかって、警察が来て、捜査が始まって、被害が増えて、そうして最後に解決するという物語は沢山作られているけれど、偽り・欺き・裏切りといった内面を描くことに主軸を置く品はあまり見たことがなかった。この脚本に魅力を感じたのは、殺人者が殺人を犯すところを描くのではなく、本性を偽って、普通の人のように生活している事を書いた点。その方がよっぽど恐ろしい行為だと感じたんだ」と、本作がいわゆる連続殺人鬼ものと一線を画する事に、大きな魅力を感じたと語った。

これまで、ドキュメンタリー作家として、多くの犯罪事件を描いてきた監督は、「多くの人は、殺人を犯してきた凶悪な犯人を“モンスター”だと思いたいけれど、実はそうではなく、そんな事をしなそうな人だったり、自分が信頼を寄せていた人が殺人犯だったりする。つまり、シリアルキラーは、善人の振りをして普通の人たちを欺いたり、誘惑したり、信頼させる能力をもっていて、自分を普通の人間であると思いこませることができるんだ。だから、テッドの一番近くにいたリズの目線から描いた方が、よくある殺人鬼を描く作品より、はるかに恐ろしい作品が作れる、作る意義もあると感じたんだ」と熱く語った。

テッドとリズが向き合うラストシーンを絶賛する町山は、「リズはテッドに恋をして、彼を信じてしまったんですけど、殺人者かもしれないと気づいてからは、無実を信じながら、自分が彼を助けてしまったという罪悪感も感じていて心が揺れますよね。最後にやっとテッドとの決別を決意して、彼に向って「悪いのはあなたで私じゃない、解放して」と言い放ちます。その時は、私もリズと同じ気持ちを感じて、彼女の隣にいるような感覚を覚えました。同じように共感する女性は多いんじゃないかと思わされる場面でした。テッド・バンディを題材にした映画でこんな感情になるのかと本当に驚かされました。」と、クライマックスで強い共感を覚えたことを明かした。

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