GU、「マシュマロパンプス」に続くイチオシ商品の開発現場に潜入してみた

日に日に気温が下がり、季節はこれから冬本番。しかしアパレル業界では、早くも2020年の春夏ファッションに向けた動きが本格化しています。

「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング傘下の「GU(ジーユー)」も、そんなブランドの中の1つ。12月10日に2020年春夏事業発表会を開催し、柚木治社長が商品戦略について発表しました。

折しも国内のアパレル業界では、米国の「フォーエバー21」が10月に全店舗を閉鎖し、日本から撤退。ファストファッションの衰退論もささやかれています。事業を取り巻く環境が変わりつつある中で、GUはどんな勝ち残り戦略を打ち出したのでしょうか。


イージーパンツは1000円以下に

事業発表会で柚木社長が何度も繰り返したのは、「ユニクロとの差別化と相乗効果」という言葉。差別化を図るために打ち出したのが、低価格戦略とデザインです。

定番のスウェットイージーパンツを1,990円から990円に、ワンピースやブロードシャツも990円と低価格での販売を発表しました(価格はいずれも税別、以下同)。これまで縫製だけを行っていた東南アジアで生地生産をスタートするなど、効率化を進め、低価格化を実現したといいます。

低価格戦略として990円のワンピース(右)も投入する

また、「GUは使えるけれど、意外とベーシック」という声を意識して、エッジを効かせた「脱・ベーシック」なアイテムを集めた新ラインを立ち上げました。トレンドに敏感な18~24歳がターゲットです。このほか、ファッションに関心を持ち始める小学校高学年から中学生までの「キッズ」と「ウィメンズ」の間のティーンのラインも立ち上げました。

小学校高学年から中学年をターゲットにした、ティーン向け新ライン

価格とテイストでユニクロと差別化を図ることで「近接した店舗でも客層が分かれ、お互いの売り上げがアップする相乗効果が出る」と、柚木社長は戦略の狙いを語ります。

2020年の勝負商品はバッグ

ジーユーの2019年8月期の売上収益は前期比12.7%増の2,387億円、本業の儲けを示す営業利益は同139.2%増の281億円と、過去最高益を更新。好業績を牽引するアイテムの1つが「マシュマロパンプス」です。数万足売れればヒット商品と言われるシューズの世界で、発売から1年で累計約170万足を売り上げました。

このマシュマロパンプスに続く商品として2020年にヒットを狙うのが、バッグです。パンプス同様、消費者の意見を聞きながら商品開発する方式を取り入れています。そのための意見を聞く商品検討会が、事業発表会の直後に東京・原宿の「ジーユースタイルスタジオ」で開かれました。

エコレザーとナイロン素材のサンプルが並ぶ

この日集まったのは、20~30代のジーユーのアプリ会員の女性12人。どの女性もアクセサリーやウエアにこだわりが光り、ファッション好きということがわかります。テーブルには、エコレザーとナイロン素材のバッグのサンプルが並びます。

商品検討会の狙いは、消費者がどのようなバッグの素材感や形を求めているかを把握すること。ジーユー側からは、デザイナーや生産、マーケティングの担当者が出席しました。

どんな意見が上がったのか

最初に担当者が意見を求めたのは、エコレザーのバッグ。手に取った参加者からは「わっ、軽い!」と驚きの声が上がりました。

小さめのショルダーバッグでも、ファスナーがゴールドと黒色のタイプでは評価が変わります。「ゴールドはちょっと年上の感じがします。黒ならカジュアルだし、季節を問わず使えると思う」という声が多数を占めました。「ゴールドは他のブランドでも作っているし、もっとジーユーらしさを出したほうがいいのでは」という指摘も上がりました。

バッグの中の仕切りについても、意外な声が上がりました。収納しやすいように企画側が多めに付けたポケットですが、「2、3個あれば十分」という声が大半でした。

バッグの形やファスナーの色について意見を出し合う

収納力がある大きめのバッグは「大きすぎるとママっぽくなってしまう」「落ち着きすぎる」という厳しい指摘も……。一方で「携帯2つと長財布を入れるスペースは欲しい」など、バッグへのこだわりを感じます。

また、ナイロンのバッグでは、表面に光沢があるタイプよりもマットな質感のほうが支持されていました。

商品開発にどう生かす?

会場の一角で若い女性の声を聞き取り、熱心にメモをとる男性がいました。ジーユーグローバル商品本部生産部グッズチームの熊井均さんです。

デザイナーや、調査・企画を担うMD(マーチャンダイザー)、生産担当などをまとめる立場の熊井さんは、マシュマロパンプスが「痛い」「はきにくい」という声が上がっていた時から細かい改善を重ね、170万足のヒット商品に育て上げました。

2,490円という低価格ながら徹底的に履き心地にこだわり、「安い靴は履きにくい」という定説を打ち破ったのです。2020年の春夏商品では、かかとのクッションを改良し脱げにくくしました。「カツカツ」というヒール特有の音も軽減しています。

長財布が入る大きさかを確認

熊井さんはバッグの検討会の様子を振り返り、「便利だろうと思って作った仕切りが、たくさんは不要という反応があったのは意外でした」と驚きます。一方で「仕切りが少なすぎると自立しないなど、バッグの形作りが難しいという課題もあります」と苦笑いします。

今後はデザイナーや工場と話し合いながら、消費者の意見もどう生かせるかを話し合う予定。「消費者の声を1つ1つプロが“料理”することで、良い製品が作り込めます」(熊井さん)。この日出た意見は、2020年秋冬向けの商品開発に生かします。

業界に吹く逆風にも強気の姿勢

現在、ジーユーの国内店舗は約400店舗。ユニクロに比べると半分の数ですが、柚木社長は「増やすことには優先順位を置いていない。実店舗とECを融合させたオムニチャネルを前提にする」と説明します。

一方、中国や韓国などで31店舗を展開している海外の店舗は「中国・広州では開店前に500人以上並ぶなど需要がある」とみて、増やす計画です。

2020春夏の事業戦略を発表する柚木治社長

「フォーエバー21」の日本撤退など、風向きが変わりつつあるファストファッション業界ですが、柚木社長は「価格、デザイン、着心地、すべてに満足する商品を作ることで、世の中から求められ続ける」と強気の姿勢を崩しません。

2020年には、加工工程で出る水の量を最大で99%削減したジーンズを投入したり、ショッピングバッグを有料化するなど、環境にも配慮した施策を進めます。ユニクロに続いて、世界的な認知度を高める計画です。

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