「岡田メソッド」は今…FC今治、矢野将文社長インタビュー(後編)

いよいよ来年からJリーグを舞台に戦うFC今治。

元日本代表監督の岡田武史がオーナーを務める同クラブは「日本サッカーの型を作る」を合言葉としており、愛媛という地方都市にありながら全国的にその動向が注目されている。

Qolyでは、「サカつく」の宮崎伸周プロデューサーと共にその今治へと向かい、「リアルさかつく」を実践するクラブの秘密に迫った。

今回は、FC今治を牽引する矢野将文社長へのインタビューの第二弾。

前編では新スタジアムの計画やサポーターとの距離、地域に密着する方法などを伺ったが、後編は「岡田メソッド」の現在地やクラブの未来などについて話していただいた。

FC今治が見据える“世界”

――矢野社長は地元の方ですか?

矢野:私は愛媛の人間ですが、今治は初めてですね。

――矢野社長にとって、自分の地元を育てたい。その中の一つがサッカーだという側面もあると思うのですが、クラブの公式サイトなどには、グローバルに活躍されていらっしゃる方がアドバイザリーメンバーとして紹介されていますよね。世界的な展開を見据えていらっしゃるのでしょうか。

矢野:そうですね。そういえば、初期のアドバイザリーボードミーティングでは、港町リーグを開設しよう、世界から愛されるクラブになろう、なんて話も出ていました。

今治の海事産業は、もちろん日本一ですし、世界的にも有名です。造船、海運、舶用、船舶金融、保険など、海事クラスターとよばれる産業の集積があって、直接、海外の事業者とのつながりがあります。

それに、世界のビッグクラブの株主には、船主が名を連ねています。世界の海事産業に関わる方々や、港町の皆さんとつながっていけるとおもしろいですね。

宮崎:おお、いいですね。 港町のサッカークラブって多いですもんね。イングランドのポーツマスとか。

――FC今治はポルトガルのポルティモネンセともやり取りもありますよね。こちらも海に面した町のようですが。

矢野:ポルティモネンセについては港町だからではなく、岡田氏の繋がりですね。

――岡田氏との繋がりでいえば中国の浙江绿城(旧名:杭州緑城)もそうですよね。他紙のインタビューによると、浙江绿城とはビジネス的な繋がりも強いそうですが、今治さんは今の段階から世界を意識しながら…世界と繋がりながら、JFLで戦っているということなんでしょうか。

矢野:おかげさまで、岡田氏のご縁により、浙江緑城足球倶楽部に、日本人コーチを派遣して、育成世代からチームを強化することをサポートする事業を実施しています。

特にアジアの国々はまだ日本のサッカーをリスペクトしていただいているようですので、もう少し事業を拡大していきたいと思っています。

それに、子供たちというのはそうしたアジアの国々と小さな頃から国際サッカー大会などで関わることによっていろいろ感受性も豊かになりますよね。そういうことをやりながら、ゆくゆくは、世界中の皆さんに愛されるクラブになりたいですね。

――世界的な視点というグローバルな部分と、一方で地元の町を育てるというローカルな部分が共存していて、そこが面白いですね。

矢野:確かに、小さな地方都市のひとつではありますが、普段から、グローバルな視点を持って、生活されていらっしゃる方は多いです。サッカーというスポーツのグローバル性との相性はいいですね。

岡田メソッドの現在地

――岡田氏と矢野社長が就任しておよそ5年が経過されましたがどうですか?

岡田氏の夢の描き方とか実行力とか姿勢とか、勉強させていただくことばかりで、がむしゃらにこの5年やってきたというのが正直な感想です。彼が掲げた夢に賛同する形で優秀なコーチスタッフとバックスタッフが集まってきました。

その様子を見て、もしかしたらなにかおもしろいことが起こるかもしれない、夢を一緒にみようということでスポンサーがつき始め、さらに新しいスタッフも来るようになった。

最初に描いた夢がどんどん肉付けされて、どんどん夢が大きくなっている。これを実現するのが僕の仕事かなと思います。

――いろんな人を巻き込んできていますよね。

矢野:巻き込んでいますね、大丈夫かなと思うぐらい(笑)。そういう意味では、まずは、何としてでもJリーグに上がらなければいけないと(※11月に昇格決定)。もうドキドキです。

――矢野社長は地元なので“逃げ場”がないですよね。

矢野:逃げるつもりはないですけども(笑)。真面目に、必死になって走っていたらご理解をしていただけるのではないかと。いまは、皆さん「上に上がらんといかんぞ」という期待を高めていただいているので、それに答えるだけですね。

宮崎:そういう“気持ち”でやるっていうことは大事ですよね。急いで上のディビジョンに上がっても、今度は勝つことだけに捉われてしまうこともある。

中身とか成長している過程を楽しんでいただく、そこのリズムがとてもいいのかなと。またそれが、四国という皆さんのんびりとした風土に合っているのかもしれませんね。

矢野:そういう意味では、岡田氏にも私たちの会社にも葛藤はあります。

全面には出し切っていないですけども、私たちは「日本のサッカーの型」を作るんだという目標を掲げ、それを成し遂げるために「岡田メソッド」というものを開発してどんどん改良しています。

それってでも16歳までに落とし込みましょうという話なんで、今、私たちのトップチームにいる選手たちは、16歳までに所属していた選手は一人もいません。

そんななかでも結果を出さなければいけないし、この両方進めていくというのはとても大変です。どうやったら成し遂げるのか、僕らが作りたいピラミッドにどうやって近付いていけるのかが課題ですね。

宮崎:「岡田メソッド」というのは“守破離”、型を知ってそれをいかに破っていくかだと。型って職人的にいうと時間がかかる、完成して離れるタイミングまで数年かかるのかなという受け取り方をしたんですが、実際にクラブが昇格したタイミングと、その型の完成が合流したタイミングが合うと一気に加速するんじゃないですか?

矢野:その可能性はあると思います。例えば今年初めて16歳以下のユースを持ったんですが、それの成果が出ているんです。3、4年後、彼らが18、19歳になる時は面白いでしょうね。

下から上がってきた選手がトップチームで活躍できるという流れができると、「岡田メソッド」というものがどういうものなのか知りたいっていう人が国内外で増えるのではないかと思います。

――「岡田メソッド」といえば、明確な哲学を持ち世代別の日本代表で結果を残された吉武博文さんと“一体”なのではないかとファンの皆さんも感じていたのではないかと思います。その吉武さんは2018年途中にクラブを離れましたが、メソッド自体は順調に進行中だと考えてもいいのでしょうか?

矢野:試行錯誤の連続ですが、それなりに順調に進んでいます。育成世代では、次々と上位リーグに昇格しています。

吉武さんが監督を務めていた頃には「岡田メソッド」の開発とトップチームの結果というもの両方、いろんなものを背負ってやっていただいていました。しかしやはりJFL で勝ち上がるというのがそんなに簡単じゃないことが分かりました。

サッカーが新しい時代の受け皿に

――ちなみに矢野社長自身の夢というか、何かやっていきたいことみたいなものはありますか?

矢野:スタジアムのまわりに日常的な賑わいを作る、を実現することです。昔の神社とかお寺みたいなものであり、企業理念に掲げた『心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する』ための拠点です。

宮崎:今、話し聞いて改めて「はっ」と思ったんですが、昔ってお祭りの神輿があってご年配の方と若者との結節点がありましたよね。

でも、時代とともに世代交代で距離が離れて、さっきの商店街みたいに若い子がお祭りに出てこない。そうすると、新しい接点ってこういうサッカーとかスポーツなんじゃないかなと。

矢野:そうなんです。今治でも夏の夜市には今でも人が集まるんですよ。小学生が、子供が行くんですね。中学生も行くんですよ。

別にあそこに行けば何かがあるとかじゃないんです。でも行けばなんだか楽しいじゃないですか。それが今治ではまだあるんです。

商店街がほんとうに賑わうのはその夏の夜市と花火大会くらいなんですが、実は皆さんそういうものが欲しいんですよ。欲しいけど受け皿がない。おっしゃっていただいたように、その受け皿にスポーツがなれるかもしれないですね。

人と人で繋がれたクラブの未来

宮崎:最後に一つお聞きしたいのですが人を採用するための記事、クラブマネージメントができる方が欲しいという記事を読みました。クラブにおけるマネージメントというのはどういう仕事をしているのかなと。

外から見ていると何となく分かるんですが、明確な答えはわからなくて。サッカーの現場寄りなのか、運営寄りなのかいくつかあると思うんですが具体的にはどうですか。

矢野 :結局は “人”です。2年前の記事だと思います。会社やチーム全体のことを考えて、人の心をマネージする、組織をマネージするということを担った経験のある人がいませんでした。

当時は私もそんなことをやったことはなくて。岡田氏は数十人の男たちを一定期間預かって、もし駄目ならクビにするし、自分もクビにされるかもしれないという世界で生きてきた人です。

でも、クラブ運営会社のマネージメントというのは、駄目だったらクビを切れるわけではなくて、その人をどう生かしていくのかということをやっていかなければならない。

そういう意味で、彼も僕もマネージメントをやったことがなかったので、そういった人材がうちの会社に必要だろうと。

うちの場合、他クラブでは“フロント” と呼ばれるところを、“バック”と言っています。

“フロント”は文字通りサッカーの現場、つまり選手やコーチのことを指し、“バック”は裏方や支える側、つまり運営寄りのことを言っています。当時は、バックスタッフ、バックオフィスをマネージする人を探しておりました。

――FC今治は岡田氏の取り組みの一つとして子供の野外活動などもやられていますよね。

矢野:おもしろいですよ。今治の自然をまるごと活かして、“しまなみ野外学校”という事業を運営しています。

1日の山歩きプログラムもあれば、8泊9日の冒険キャンプもあります。対象は子供だけでなく、企業様向けのチームビルディング研修も提供しています。

――そうした取り組みもいろいろな人の受け皿になりそうですね。では最後に、社長として思うことや今後についてお願いします。

矢野:もうすでにいろいろなものが走り出しているので、それを一つ一つ実現していくことですね。

実現していくためには、今集まってきてくれているスタッフが、色々な大変なことも起こりますが、みんなでその当初の想いをしっかり実現する、みんなが活き活きと働けるように刻々と変化する状況に対応していくことが一番大事なのかなと思います。

『社員にはじまり、より多くの人たちに、夢と勇気と希望、そして、笑顔と感動をもたらし続けます』を実現して参ります。ご縁に感謝いたします。

――ありがとうございました!

(FC今治の“野望”に迫る取材はまだまだ続く。続きは近日公開予定!)

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