【新作ドラマ・レビュー】『ホワイト・ドラゴン』 ヒッチコック・スタイルの陰謀渦巻く英国ミステリー

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12月14日(土)よりAXNミステリーにて放送される英国ミステリー『ホワイト・ドラゴン』。政情不安が続く現代の香港を舞台に、思いがけず陰謀の渦中へと巻き込まれてしまう大学教授を描いた本作の見どころを解説いたします!

C) Two Brothers and all3media international

 ‘18年9月より英国ITVにて放送された全8話のミステリードラマ『ホワイト・ドラゴン』。主な舞台となるのは、学生運動に揺れる政情不安定な現代の香港です。長期出張中の妻が現地で交通事故死したとの一報を受け、すぐさま香港へと飛んだロンドンの大学教授ジョナ。しかし、事故の詳細が不明なうえに警察の対応も要領を得ず、ジョナは疑問と不信感を強めます。そればかりか、妻ミーガンには現地人の夫と娘がいたことまで発覚。いったい、妻は香港で何をしていたのか。やがて、妻が死の直前にスマホで録音していた音声データが見つかり、ジョナは彼女がプロの手によって暗殺されたことに気付きます。なかなか言葉の通じない異国の地で、たった一人で真相の究明に乗り出すジョナ。しかし、そんな彼の行く手に地元警察の妨害や隠蔽工作が立ちはだかり、さらには強大な権力を持つ何者かによる陰謀の影が浮かび上がることになります。

 製作は『ザ・ミッシング~消えた少年~』(’13)や『ザ・ミッシング~囚われた少女~』(’16)、『ザ・ウィドウ~真実を求めて~』(’19)など、優れた英国ミステリーを次々と手掛けている兄弟コンビのハリー・ウィリアムズとジャック・ウィリアムズ。映画『アンコール!』(’12)や『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』(’15)のポール・アンドリュー・ウィリアムズ監督が、全エピソードの演出を担当しています。

 主人公の大学教授ジョナを演じるのは、アメリカでリメイクもされた『ステート・オブ・プレイ〜陰謀の構図〜』(’03)や『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ』(‘06~’07)で有名な英国俳優ジョン・シム。その妻の現地人の夫デヴィッド役に、『インファナル・アフェア』(’02)シリーズでもお馴染みの香港を代表する名優アンソニー・ウォンが出演しているのも話題です。アラフィフ世代の映画ファンには、『八仙飯店之人肉饅頭』(’93)の猟奇殺人鬼役も印象深い人ですね。これまで200本以上の作品に出演していますが、英国ドラマへの出演はこれが初めて。そのほか、映画『戦場のピアニスト』(’02)やドラマ『法医学捜査班 silent witness』(‘04~)で知られるエミリア・フォックス、『ハリー・ポッター』シリーズのチョウ・チャン役で親しまれたケイティ・リューング、『男たちの挽歌』(’86)シリーズのケネス・ツァンなどが脇を固めています。

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<あらすじ>

 ある日、ロンドンの大学で教鞭を執る教授ジョナ・マーレイ(ジョン・シム)のもとへ、香港に滞在中の妻ミーガン(ダーヴィア・カーワン)が交通事故で死亡したとの連絡が入ります。香港の不動産会社に勤務するミーガンは、1年の半分近くを現地で過ごしていましたが、しかし夫であるジョナは飛行機恐怖症のため、一度も香港へ行ったことがなかった。まさか、生まれて初めての香港行きが妻の遺体を引き取るためとなるとは。大きなショックにうなだれながらも、ジョナは大学を休んで現地へ向かうことにします。

 香港でジョナを待っていたのは、英国領事館に勤務するサリー・ポーター(エミリア・フォックス)。彼女の案内で地元警察を訪れたジョナでしたが、しかし事故に関する刑事の説明は曖昧で要領を得ません。そればかりか、彼は妻ミーガンに結婚生活20年にもなる現地人の夫デヴィッド(アンソニー・ウォン)がおり、彼との間に大学生の娘ラウ(ケイティ・リューング)をもうけていたことを知り、さらなる衝撃を受けます。なにがなんだか分からないけれど、このままイギリスへ戻ることは出来ない。しかも、妻が残したスマホからは、彼女が何者かに殺されたことを証明する音声データが見つかった。いても立ってもいられなくなったジョナは、真相を究明するため香港へ残ることにします。

 ところが、証拠として警察へ提出した音声データが勝手に編集加工され、さらには銃撃された弾痕が残っているはずの妻の遺体が安置所から忽然と消えてしまう。汚職の蔓延る地元警察が全く信用できないと思い知ったジョナは、元警官でもあるデヴィッドに協力を頼み、妻ミーガンの足取りや現地での人間関係を調べ始めます。やがて辿り着いた妻のアパートの部屋から発見された偽造パスポート、次第に明らかとなってくるデヴィッドやサリーの意外な裏の顔。謎を解くカギとなる人物が殺され、ジョナまでもが殺人犯の濡れ衣を着せられます。さらに、行政長官選挙の有力候補者である大富豪ゾウ(ケネス・ツォイ)の政策に反発し、学生運動に身を投じるラウの身辺でも不審な動きが。果たして、ミーガンはなぜ殺されたのか、いったい誰が黒幕なのか…?

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<作品解説>

 平凡な人物がとある事件をきっかけに、陰謀と策略の渦巻く非日常の世界へ放り込まれてしまう…という、まさしくヒッチコック・スタイルの「巻き込まれ型サスペンス」の王道を行く作品。しかも、舞台となるのは言葉も文化も習慣も全く異なる香港。なにもかもが思い通りに進まないことへのジョナの焦りや苛立ちが、そのまま視聴者の不安と疑心暗鬼を煽っていきます。真相へと近づいていくたびに新たな謎が浮かび上がり、どんどんと思いがけない方向へストーリーが展開していく脚本の巧みな構成も見事。一度見始めるとやめられなくなってしまいます。それだけに、全8話できっちりとオチが付くのはとても有難い!

 さらに、学生運動の盛り上がる政情不安定な香港という背景事情から、タイムリーなポリティカル・サスペンスの香りを匂わせつつ、よりパーソナルな視点から「悪の本質」へと迫っていくストーリーのテーマにも考えさせられるものがあります。というのも、この作品、登場人物の誰もが後ろめたい秘密を隠しているものの、しかしいわゆる純然たる悪人は全く出て来ないのですよ。社会的な立場こそ違えども、愛するパートナーがいて、子供がいて、友人がいて、様々な悩みや問題を抱えつつも精いっぱい生きている人々ばかり。そんな「ごく普通」の人間たちが、自分の地位を守るため、大切な人を守るため、より良い生活を送るため、仕事で出世するためなど、様々な理由から「仕方なく」悪事に手を染め、他者の人生や家庭を滅茶苦茶にし、その負の連鎖が結果的に惨劇を生んでしまう。しかし、それは果たして本当に「仕方ない」ことなのか?誰もが過ちを犯す可能性のある人間という存在の危うさ、悪というものの正体の曖昧さや凡庸さと同時に、たとえどんな理由や事情があったとしても、この世には決して超えてはならない善悪の境界線は必ず存在することを思い知らされます。

 日本ではいまひとつ知名度の低いジョン・シムですが、たびたび失敗や勘違いや暴走などを繰り返しつつ、ただひたすら「真実を知りたい」という一心で手掛かりに食らいついていく主人公ジョナを大熱演。あまりにも執念深くて時にイラっとさせられる(笑)ものの、同時に生々しいほどの人間臭さを感じさせます。謎めいたところの多いデヴィッド役のアンソニー・ウォンも、さすがは大ベテランのクセモノ俳優、怪しげな存在感と重量感がハンパない。怒りや哀しみを抱えた孤独なラウを演じるケイティ・リューングの、意志の強さと繊細な傷つきやすさを兼ね備えた複雑な役作りも見応えがあり、すっかり大人の女優に成長したなと感慨深いものがあります。…って、彼女ももう30代なんですね!

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