ノーベル賞受賞者は大忙し 講演、博物館訪問…  晩さん会の後には「2次会」も

ノーベル化学賞のメダルを手に笑顔の吉野彰・旭化成名誉フェロー=10日、ストックホルムのコンサートホール(代表撮影・共同)

 世界で最も権威がある賞の一つであるノーベル賞が授賞式と晩さん会が10日、スウェーデンの首都ストックホルムで開催された。

 9日夜から降っていた雪から一転、青空が広がるなか、1920年代に建てられた青い外観が美しいコンサートホールで行われた授賞式。リチウム電池の開発で化学賞を受賞した旭化成名誉フェローの吉野彰さんが笑顔で同国のカール16世グスタフ国王からメダルと賞状を授与されると、1500人を超える招待客から大きな拍手が送られた。

 授与式前後の5日から11日までの1週間は「ノーベルウイーク」と呼ばれる。ストックホルム市内では同賞に関するさまざまなイベントが行われ、長く厳しい冬を迎えた北国の街ににぎわいと華やぎを加えるのが恒例となっている。国民の注目も大きく、授賞式と晩さん会の様子はライブ中継されるほどだ。

ノーベル賞の授賞式が行われたコンサートホール=河野イリエン仁美撮影

▽座れる! 吉野さんサイン入りの椅子

 「ノーベルウイーク」初日に当たる5日、吉野さんは妻の久美子さんやお子さん、お孫さんらとストックホルムに到着した。ノーベルウイーク中はノーベル財団が決めたスケジュール通りに各イベントに出席するとともに、少しでも時間ができると家族と観光を楽しむなど、ストックホルムの街、そしてノーベルウイークを十分に満喫しているようだった。

 ノーベルウイークに、受賞者が必ずやることがいくつかある。

 まず、ノーベル博物館の訪問。博物館ではノーベル賞の歴史やノーベルについての資料などを見学するが、慣例となっているのが椅子の裏側へのサイン。日本人の受賞者はほとんどが漢字でサインするが、吉野さんは漢字とローマ字の両方で書いた。この椅子は数カ月間、館内に展示された後、博物館内にあるカフェの椅子として使われる。当然、私たちも座ることができる。受賞者ごとに番号が振られているので、吉野さんの椅子に座りたい方はカフェ受付にあるリストで吉野さんの番号を探してほしい。また、受賞者は何らかの記念品を持参するのも習わしとなっている。これも博物館内に展示されている。

吉野彰・旭化成名誉フェローが、ノーベル博物館のカフェで椅子の裏に書いたサイン(上)=6日、ストックホルム(共同)

 もう一つが「ノーベルレクチャー」。受賞者が指定された場所で記念講演を行うのだ。吉野さんはストックホルム大学の講堂で「リチウムイオン電池の開発の経緯と今後」というタイトルで講演した。この中で吉野さんは「技術革新は近い将来、持続可能な社会を実現していくだろう。環境や経済、便利な生活という三つのバランスのとれた社会の中で、リチウムイオン電池が中心的な役割を果たしていく」と語った。同時に、リチウム電池の技術向上で、電気自動車やAIが生活の中心となる未来の社会をイメージしたビデオも紹介された。

 講演後、吉野さんの講演を聞きにやってきたというスイス・ジュネーブ大学で学ぶ28歳の男性研究者に感想を聞いた。「吉野さんの論文はいくつか読んでいる。彼は研究だけでなく、それを製品化させた尊敬に値する人。もっと早く、10年前にノーベル賞をもらうべきだった」。興奮冷めやらぬ様子でそう話した。

ノーベル賞授賞式後に開かれた晩さん会=10日、ストックホルム(代表撮影・共同)

▽ノーベルディナーのメニューは3品

 授賞式の後、車で5分ほど離れたストックホルム市庁舎にある吹き抜けの大広間「青の広間」で開かれるのが、晩さん会。ここで供されるのがいわゆる「ノーベルディナー」だ。

 オーケストラの演奏が流れる優雅な雰囲気の中、スウェーデン国内から集められたえりすぐりのシェフとパティシエによる3品で構成するメニューを4時間ほどかけてゆっくり楽しむ。食事の合間にはエンターテインメントや音楽が奏でられ、最後に受賞者の代表がスピーチをして終了となる。

 権威ある賞のディナーが3品では少ないのでは? そう思う方もいるだろうが、200人近いスタッフが給仕に当たっても、招待された1300人を超えるゲストに遅滞なく料理を提供するためにはこれが限界なのだ。

 吉野さんは妻の久美子さんをエスコートして入場。晩さん会は10日午後8時ごろにスタートした。前菜とメインはセバスチャン・ギブランド、デザートは今年で6回目のダニエル・ルースが力をふるった。デザートは同午後10時ごろにウエイターたちが花火をともしながら登場、晩さん会のクライマックだ。今年はラズベリーのシャーベットとムースを作るのに200キロ以上のスウェーデン産のラズベリーが使われた。ダニエルは「小さなツブツブの種を丁寧に取り除くのは、本当に手間のかかる作業だった」と話した。

ノーベル賞の晩さん会のメイン(ⓒNobel Media.Photo:Dan Lepp)

 晩さん会の後は、市庁舎2階にある「黄金の間」で舞踏会となる。受賞者のメダルもこの部屋の隅で公開された後、ノーベル財団がいったん持ち帰ることとなっている。受賞者は帰国前にノーベル財団を訪問してメダルを受け取る。ここでは、賞金(吉野さんは300万スウェーデン・クローナ、日本円で約3400万円)の受け取り方法などについても相談する。

 ここで終わりではない。意外と知られていないが「ノーベル ナイト キャップ」、いわゆる「2次会」にあたるパーティーが待っている。これは、ストックホルムにある四つの大学が持ち回りでホスト校となり、企画運営する。受賞者は高齢の方が多いため、晩さん会が終わった深夜のパーティーに参加する人は限られてくるが、主催する学生と交流できる機会ということで、楽しみしている人も多いという。

 晩さん会であくびを我慢できなかった吉野さんを始めとする受賞者にとって、名誉ではあるものの、長い長い一日だった。(スウェーデン在住ジャーナリスト、矢作ルンドベリ智恵子=共同通信特約)

ノーベル賞授賞式後の晩さん会に出席し、あくびをする吉野彰・旭化成名誉フェローと妻久美子さん。深夜におよぶスケジュールをこなした=10日、ストックホルム(代表撮影・共同)

■ノーベル財団の公式ホームページは次の通り。

https://www.nobelprize.org/

© 一般社団法人共同通信社