杉真理と仲間たち、ポップで楽しいクリスマスアルバム「Winter Lounge」

1986年 11月21日 杉真理のコラボレーションアルバム「Winter Lounge」がリリースされた日

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今ほどにキラキラしてなかったバブル期のクリスマス

月めくりのカレンダーの残りが2枚こっきりになると、なにかと忙しくなる。11月半ばのある日、丸の内仲通りに面したオフィスを出ると、イルミネーションが瞬いていた。「もう、そんな時期なんかい」と、つい口に出てしまった。

街中でクリスマスイルミネーションがはじまるのは、11月半ばから最終週あたりが多い。カトリック教会では待降節(降誕祭=クリスマス、の準備期間)はクリスマスの4つ前の日曜日からとされるので、現代では街中のイルミネーションはクリスマスの準備よりも少しフライングして始まっていることになる。

こんなに街中がキラキラしたのはいつごろからだろう。バブル期、街のイルミネーションは今ほどにはキラキラしていなかったように私は記憶しているが、クリスマスパーティーの盛り上がりは今よりもずっと気合が入っていて、その日はどこかギラギラしていたひとが多かったように思える。

杉真理と仲間たち、CBSソニー所属のミュージシャンが勢揃い!

杉真理が中心となって、親しい音楽仲間や同じ CBSソニー所属のポップスシンガーを集めて、ポップで楽しい、バラエティ豊かなクリスマスアルバム『Winter Lounge』をリリースしたのは、1986年11月21日。

制作に参加したメンバーは、杉真理が曲提供やプロデュースを行った須藤薫。1984年から続いた杉真理の構成・演出・音楽監督によるジョイントコンサート『杉真理とその仲間たち』でも共演しているハイ・ファイ・セット。1977年9月19日に杉真理がMari&Red Stripes でデビューコンサートを行った際に共演した南佳孝。1984年のクリスマスに結成され、ノン・スタンダードレーベルから CBSソニーに移籍直後でブレイク前のピチカート・ファイヴ。1985年メジャーデビューのPSY・S。そして1985年から杉真理の作品にコーラスで参加し、杉がスーパーバイザーとして1986年のデビューアルバムに関わった楠瀬誠志郎… という錚々たる面子、その名の通りポップス・オールスターズ。彼らがインストゥルメンタルを含む12曲をパーティーライブのように聴かせる1枚となっている。

シングルカットはポップス・オールスターズ名義の「Yellow Christmas」

アルバムと同日に Pops All Stars 名義でリリースしたシングル「Yellow Christmas」では、前述のコンサートで共演した安部恭弘、飯島真理、EPOなどもゲストヴォーカルに加わり、豪華なクリスマスナンバーになった。

アルバム『Winter Lounge』は、松浦雅也の手による、静かなインストゥルメンタルで幕を開ける。その次に飛び込んでくるのが、賑やかな「Yellow Christmas」だ。

クリスマスのカラーにはそれぞれに意味合いがある。緑は常緑樹、永遠の命。赤はキリストが流した血の色、白は罪のゆるし、清らかな心。飾りに使われる金の星は、キリストの誕生を知らせる星を意味する、といわれている。

では、“Yellow” はどこから来たのか。東洋の夜、という歌詞もあり、“黄色人種の音楽” にもひっかけているのだろうが、とびきりポップな色ということで “Yellow” としたのだろう、私はそのように解釈している。

個性の違うヴォーカリストたち。須藤薫、Chaka、南佳孝、ハイ・ファイ・セット…

私が『Winter Lounge』を最初に聴いたのは、リリースの翌年、1987年夏。留学先の米国から帰国した数か月後、同じシリーズで発売された『Summer Lounge』を聴いて、前年に冬版が出ていたことをレンタルレコード屋の店員の方から知り、実際に聴いたらその楽しいパーティーっぷりに、私の心は一気にクリスマスモードに突入してしまった。テープに落として夏だというのにクリスマスソングを車中でかけていた “能天気な女子大生” だった。そう、「Yellow Christmas」の PV のように。

「Yellow Christmas」は PV も作られた。残念ながら当時観る機会はほとんどなかったのだが、2002年の CD リイシュー時、初回限定盤に PV の DVD が同梱された。現在では YouTubeでも観ることができる。

PV の舞台は洋館のパーティー会場。テーブルに食事やワインボトルが並び、パーティーの主人に扮した杉真理が美味しそうなロブスターを手にしている。タキシードやスーツに身を包んだ参加メンバーの楽しいパーティーを見ているようだ。

みずみずしい中音域を聴かせる須藤薫、キリっとした冬の空気を思わせる声質のChaka(PSY・S)、乾いた大人の色気があふれる声は南佳孝、穏やかであたたかい暖炉のような声が重なるハイ・ファイ・セット… 個性の違うヴォーカリストたちが歌をつないでいくのが楽しい。間奏では誰の声かわからないが「やぁやぁやぁ今夜は無礼講だよ」といった声も聴こえてくる。ああ、こんなオジサンいたよなぁ… いま何してるんだろう?

浜田省吾の存在感、野性味あるワイルドな歌声!

そんな中、Chaka と杉真理、松浦雅也が据置テレビのスイッチを入れる。リモコンじゃない。ブラウン管に飛び込んで来るのは、ドラムスを叩きながら歌う浜田省吾。「♪ ウォ~~ いつだってふたりは自由、泣かないで Lonely Heart」それまでのパーティーの参加者のジェントルな歌声とは一線を画した、野性味あるワイルドな歌声。たった4小節だけでパーティーから一気に世界を持って行ってしまう浜田省吾の、まぁ! なんて!! カッコイイこと!!!

なぜここで浜田省吾? と意外に思う向きもあるかもしれない。杉真理と浜田省吾は同じレコード会社、同じ事務所(ホリプログループのカレイドスコープ)に所属していた時期があり、ふたりとも山口百恵のアルバムに曲を提供したという共通点もある。また、1983年の『STARGAZER』をはじめ、1984年『MISTONE』、1985年『SYMPHONY#10』といった杉真理のアルバムでも、浜田省吾の声は杉真理の甘い声と対比するように存在感を見せつけている。

この野性的な4小節の後、ゲストヴォーカルを含めたヴォーカリストの歌で、楽しい宴が続く。松浦雅也、楠瀬誠志郎、ピチカート・ファイヴも PSY・S のバンド隊も楽しくぶっ壊れている(笑)。当時若手で現在還暦手前のミュージシャンたちにとっては若干の黒歴史かもしれないが、みんな笑顔で多幸感にあふれていて、今となってはなかなか貴重な映像作品だ。

ところで『Winter Lounge』に収録されている、「Wonderful Christmas」では、曲が終わったところで、「まいどー、長寿庵ですけど、カツ丼こちらでいいんですか?」という声が聴ける。そして本アルバムのブックレットとレーベルには「長寿庵」の岡持ちを手にした、なんとも可愛いサンタクロースのイラストが描かれている。

カツ丼をとじる卵も、そういえば黄色い。「Yellow Christmas」の “イエロー” は、案外、カツ丼の卵の色なのかもしれない。知らんけど。

カタリベ: 彩