通勤時間0分3食付き 意外と快適? 観測船しらせの生活   通信社記者も早寝早起きに

南極観測船「しらせ」の12月4日の昼食。カツオのたたきが出た

 第61次南極観測隊に同行中の記者が日本で観測船「しらせ」の出港を見送ったのは11月12日のことだった。その後、記者も成田空港から28日にオーストラリア入り。そして西部の港町フリマントルで、ついにしらせに乗り込んだ。

 もちろん乗るのは初めて。フリマントルで、最終的な物資の積み込みをし、12月2日に港をたった。果たしてどんな生活が待っているのか―。

 ▽観測隊員は士官扱い

 まず、観測隊員が使う寝室。隊長ら一部を除き、2人部屋だ。8畳ぐらいの細長い部屋に、2段ベッド、荷物や衣服用のロッカーが3つずつ備え付けてある。決して広くはないが、狭くもない。ロッカーのひとつには折りたたみ式のテーブルがあり、パソコンを開いて作業ができる。荷物用ロッカーは中型の段ボール箱が5個程度入る。ほかにも、ベッドやソファの下など、あちこちに引き出しがあるので便利だ。室内には洗面台もあって、洗顔や歯磨きができる。電気のコンセントは国内と同じ100ボルトだ。

南極観測船「しらせ」で記者が使っている寝室。同室の観測隊員がパソコンで作業をしている

 しらせを運航するのは海上自衛隊。そこに観測隊と記者のような同行者合わせて67人が乗り込み、お世話になっている。自衛隊の乗組員に聞いたら、観測隊員は「士官扱い」なんだそうだ。士官とは、3尉以上の階級を指す。それより下の階級の乗組員は10~20人くらいの大部屋で寝起きするということで、その点は申し訳ない。

 さて、なんと言っても通勤時間0分というのは快適である。東京で朝夕ぎゅうぎゅう詰めの電車に揺られるあの苦痛はない。何しろ朝起きたら仕事場なのである。というか、夜も取材先となる隊員と同じ部屋で寝ているわけで、仕事とそれ以外の時間の区別が付きにくいという問題はある。

毎週金曜日に出される自衛隊伝統のカレー=12月6日

 そして3食付き。はっきり言ってメシはうまい。自衛隊員が調理し、ご飯やおかずの盛り付け、片付けは自分たちで行う。「観測隊公室」という広い部屋で食事を取っている。70人ぐらいが入る、ミーティングにも使う大部屋で、自衛隊員は別の部屋で食べている。みそ汁とご飯の和食が中心で、日本の食事が恋しくなることはない。カツオのたたきが出た日もある。パンやうどんが出ることもある。長い航海で曜日感覚を保つため、毎週金曜日に出される自衛隊伝統のカレーもおいしかった。太るな…と思いつつも、ついつい盛りすぎてしまう。

 KDDIから派遣されている越冬隊員、佐々木貴美(ささき・たかみ)さん(30)も「ご飯はおいしいし、食器の洗い物までしてもらっている。本当に快適」と話す。

 難点は朝が早いこと。仕事柄、新聞記者は夜が遅くなりがちな分、朝も遅いという生活スタイルの人が多い。しらせの起床時刻は午前6時。事件や事故、同業他社のスクープといったニュースに振り回される生活を長年続けた結果、「何もないときは休む、寝る」という習慣が身についている人間にはつらい。

 そして朝食の時刻は午前6時15分、昼食が11時45分、夕食は午後5時45分である。実際にはこれより少し早く用意されているケースが多い。遅れて、のこのこ観測隊公室に顔を出すと、ほとんどの人が食べ終わっていることもある。夜には持ち込んだビールなどを軽く飲む観測隊員の姿も。多くの場合、あっせんのあった業者から免税品(その割にさほど安くない印象だったが)として購入しており、中には「こんなにたくさん!?」と思うような量を買い込む人もいた。記者はビール3ケース強、ウィスキーと焼酎を1本ずつ用意した。やはり人と人が顔を合わせばなんとなく酒を飲んでしまう。長い航海には娯楽も必要だ。消灯は午後10時で、全体に早寝早起きだ。

南極観測船「しらせ」船内で、朝食を盛り付ける観測隊員

 ▽ヘリでは酔ったけど、しらせでは?

 フリマントル出港から何日かたち、しらせは氷海に入った。フリマントルでは半袖で過ごしていたが、少しずつ気温が下がり、この数日は気温も0度前後。風がなければそれほど寒くはないが、甲板に出る際はしっかりした服が必要だ。船の揺れはやや大きくなった時期もあったが、氷海では氷が波を打ち消すため、あまり揺れない。船体が大きいためか、氷のない海を航走しているときは、ゆっくりゆっくりとした揺れが続いていた。

 出発前に不安に思っていたのが船酔いだった。

 しらせに同行する少し前、台風19号の被害を上空から取材するためヘリコプターに乗ったときのこと。ヘリの大きな揺れがガタガタと襲ってくるのに耐えられず、もどしてしまったのだ。ところがしらせでは、酔い止め薬が効いたせいか、今のところ平気である。これまでのところ珍しくあまり揺れていないとのことだったが、つらそうな顔をしている隊員も何人かいた。

 念のために書いておくと、当然ながらこうした食事などは、タダではない。記者の場合は、昭和基地での滞在期間を除き、3月下旬にオーストラリア・シドニーに着くまでしらせに乗る。同行者経費として支払ったのは約27万円だった。もちろん、国の業務として南極に行く観測隊員にはこうした負担はない。(共同通信=川村敦、気象予報士)

観測隊の活動|南極観測のホームページ|国立極地研究所

https://www.nipr.ac.jp/jare/activity/

© 一般社団法人共同通信社