街道歩きも楽しい四日市あすなろう鉄道

(上)人と比べると小ささが実感できる、(下)街道歩きを呼びかけるポスター=いずれも日永駅

 【汐留鉄道倶楽部】歌川広重の「東海道五十三次」で、風に飛ばされて転がる笠を追いかける旅人のしぐさが印象的な四日市(三重県四日市市)。古い町並みを残す旧東海道に沿って、今も生活の足として利用されているのが「四日市あすなろう鉄道」だ。

 このおしゃれな名称には変遷があって、最近までは大手私鉄・近鉄の内部・八王子線だった。赤字続きでバス転換も取りざたされたが、存続を求める地元の要望に応えて2015年、施設を四日市市が保有し運行は近鉄の子会社が担当する「公有民営」の第三セクター方式へと経営体制が変わった。再出発に当たって名付けられた名称は、全国でも珍しい線路幅762ミリの「ナロー(狭い)ゲージ」にちなんで、未来への希望につながる「あす」と掛け合わせた。

 起点の「あすなろう四日市」から「内部」までの5.7キロが内部線、二つ目の「日永」から分岐した「西日野」までの1.3キロが八王子線で、両線とも完成は大正年間という歴史がある。実は八王子線の方が先輩なのだが、1974年の大水害で路線が短くなってしまい、今では本線と支線が逆転したような感じだ。運賃は消費税率アップ後で距離により200円~270円。経営の厳しい地方の公共交通機関としては良心的な設定だろうか。

 コトンコトンと控えめな車輪の音を立てて走る電車は3両編成。ただし1両の長さは11メートルか15メートルと一般の鉄道に比べるとかなり短い。車高も低めで全体にかわいらしい印象だが、人が乗る交通機関である以上、そうそう小さくもできないので、その宙ぶらりんな大きさが魅力だ。最近改良された車両は一人掛けの全席クロスシートで、車内は狭いながらもすっきりしている。

(上)御在所岳をバックに快走、(下)線路幅の違いを学べる展示施設

 分岐駅である日永駅のホームのはずれに、新幹線の標準軌(1435ミリ)、JR在来線の狭軌(1067ミリ)、そしてナローゲージの3つを比較再現した線路に台車を置いた展示があり、鉄道ファンにはうれしいサービスだ。

 「シースルー電車」の宣伝が目に留まり、どんなものかと、その電車が来るのを待ってみたら、床のごく一部がガラス張りになっていて、走行中の線路が見えるという趣向だった。

 ちょっと残念なのは、近鉄四日市駅からの乗り換えが分かりにくいこと。近鉄から経営が変わって料金の通算ができなくなり、ICカードも使えなくなるなど、不便がある。せっかく残した鉄道なのだから、使いやすさの工夫がほしいところだ。

 ほぼ並行する旧街道は車が頻繁に走る生活道路なので、歩くには注意が必要だが、道沿いの年季の入った商店や古塀などに古き時代の風情が感じられ、工業都市四日市のイメージを裏切られるのも味わい深い。路面電車の一歩上を行く専用軌道をマイペースで駆け抜ける狭軌鉄道を楽しもう。

 ☆共同通信・篠原啓一

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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