健気な柴犬をイメージして作られた、ホンダ 新型フィット
第4世代を迎える新型フィットのプロトタイプに、ホンダの開発拠点である北海道の鷹栖テストコースで試乗することができた。
東京モーターショー2019でその姿を目にした方も多いと思うが、新型フィットで最もドラスティックに変化したのは、そのアピアランス・デザインだと私は思う。
鋭さを捨て、日本らしい「人に寄り添う」キャラに
どこか人なつっこい印象のフロントマスクは、若手デザイナーが「柴犬」をイメージしてこれをデザインしたという。家族に寄り添いながらも、いざというときは「僕がみんなを守る!」という気丈な小型日本犬のイメージ。
CリングタイプのLEDヘッドライトで表情を作った新型フィットには、「ソリッドウイングフェイス」時代よりもどこか温かみがあるように感じられる。シャープの「ロボホン」や、ソニーの「アイボ」といった人に寄り添うロボットたちと同じ、未来の世界へと通じる顔つきに筆者は思えたのであった。
好みに合わせて選べる5つのグレード
新型フィットにはコンセプトの異なる5つのグレードがあり、それぞれにガソリンとハイブリッドの2つのパワートレインが設定される。
今回試乗したのは、1.3リッターのガソリンエンジンを搭載する「BASIC(ベーシック)」と、スポーティグレードとなる「NESS(ネス)」、そして1.5リッターハイブリッドを搭載する「HOME(ホーム)」と「LUXE(リュクス)」であった。
またこれ以外に、車高を高めフェンダーモールを装着した「CROSSTAR(クロスター)」を合わせてフルラインナップとなる。
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視認性バツグン! 快適な室内空間
新ピラー構造でスッキリ見やすい
「ベーシック」の運転席に収まってまず感じたのは、室内空間の快適さだ。
その決め手となるのは、新規のピラー構造。フロントガラスを支えるピラーを従来のAピラーから分離することでグラスエリアをパノラマ化し、安全性を保ちながらも視野角を従来の69°から90°にまで拡大した。
太いAピラーが後退したことで三角窓までの視野が有効活用できるようになり、コーナーでの視認性が高くなったのだ。
ポイント高し! ワイパーが見えない
また水平基調のインパネや、サンシェイドいらずな横長の7インチ フルTFT液晶モニター配置が室内をすっきりと広く見せている。
それと細かいことだが、配置変更によって通常時にワイパーが見えなくなっているのも快適性に貢献していた。
気になる走りは、驚くほどマイルド!
エンジンは先代と同じだが、明らかな違いを感じた
走り出して感じたのは、エンジン特性がマイルドに感じられたことだ。
形式的には従来と同じ1.3リッターの直列4気筒アトキンソンサイクルDOHC i-VTECにCVTの組み合わせだが、その出力値が100PS/119Nmからどう変更されたのかは公表されなかった。
端的に述べると従来型は、カラッとしたホンダらしいサウンドと吹け上がり感が印象的だった。しかしそれと同時に、小排気量エンジン+CVT特有の、せわしなさがもっと強かったと記憶している。
対して新型は実用トルクの出し方がうまく、実際のサウンドやバイブレーションも、その角が丸められていると感じた。
気持ちの良い吹け上がり
さらにここからアクセルを踏み込んで行くと、マイルドなトーンを保ちながらも気持ち良くトップエンドまでエンジンが吹け上がって行く。
高回転時においてもエンジンはやや高めに回転を引っ張ったあと、CVTをステップ制御させて有段フィールを与えている。これがエンジン回転の高止まりを抑え、静粛性と同時に、走りにメリハリを与えている。
新型触媒によって抵抗が増えたことも少なからずエンジン特性のおとなしさに拍車を掛けたのではないかとは思うが、制御の高度化がその鈍さをも相殺し、全体としてはよりマイルドで気持ちが良い実用エンジンになったと感じた。
きちっと安定、ハンドリングは好印象
レスポンスはややおっとり?
ハンドリングは、ベーシックカーの基本である直進安定性がきちっと保たれているのが好印象だった。
上級仕様に対してフロアトーボード(足置き台)まわりの防音材などは簡素化されているとのことで、ロードノイズは確かに若干入ってくる。しかしサスペンションそのものはダンパーやブッシュのフリクションを減らした結果が出ているのか、荒れた路面でも乗り心地は保たれていた。
代わりに操舵応答性に関しては、若干の緩さを感じる。フィットはこのクラスでは珍しいVGR(可変ステアリングギアレシオ)機構をラインナップするとのことだったが、ベーシックには非装着だったのかもしれない。全体的にはおっとりとしたハンドリングが印象的で、ここは最大のライバルである、トヨタ・ヤリスの方がスイスイと走る。もちろんこれにはヤリスに対して55mm大きな3995mmの全長と、それに伴うホイルベースの長さも関係しているが、男女ともに幅広い年齢層が運転するベーシックモデルのキャラクターとしては、敢えての味付けでもあるはずだ。
スポーティなステアフィールは「ネス」におまかせ
とはいえホンダも、よりリニアな操縦性を実現するグレードとしてスポーティな「ネス」を用意しており、そこにぬかりはない。
スポーティグレードとは言ってもその足回りは乗り心地を損なうほどには固められておらず、操舵初期から16インチタイヤにじわっと面圧を掛けていく。ステアフィールも極めて自然であり、これを切り込んでいっても、グリップ感が途切れないのはいかにもホンダらしい。ホンダ的には明確に公言していなかったが、むしろこちらにVGRが装着されているように感じられた。
リズムに乗って走るほどに運転が楽しくなり、こうなるとエンジンにもっとパンチが欲しくなるのは事実だが、それはまだ見ぬ「RS」グレードの役目だろうか。
フィットのネスで“フィットネス”とはよく言ったもので、スポーティだがレーシングではない身のこなしと乗り心地の良さには、これぞベスト・フィットという印象を抱いた。
燃費はどうなる!? ホンダの新ハイブリッド「e:HEV」とは
コンパクト向け2モーターシステムを新開発
ホンダはこの新型フィットからハイブリッドシステムの名称を「e:HEV」(イー・エイチ・イー・ブイ)へと改めた。そのシステムは旧型の1モーター+7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)から最新の2モーター式へとアップデートされたが、同社のインサイトやステップワゴンに使われるシステム(i-MMD)と同じである。
とはいえフィットは小型車であるため、そのバッテリーサイズはインサイトなどに比べて小型化されている。そしてこの変更によって、後席レッグスペースとトランク容量は、クラストップの値を確保した。
また出力値とともに燃費性能も公表されていないが、これも先代を上回るのはもちろん、クラストップレベルの性能をマークしているとのことだった。
ガソリン車以上に洗練されたハイブリッドの走り
先代よりも静かな2モーター式
そんな気になる新型ハイブリッドを、平均的なグレードとなる「ホーム」で試した。
肝心の走りは、ガソリン車以上にその洗練度を増していた。当日は先代ハイブリッドとの乗り比べも行ったが、まず、静粛性が大きく高まっている。
1モーター+7速DCT時代のハイブリッドはデュアルクラッチトランスミッションの歯切れ良さこそ素晴らしいものの、モーターはアシスト役。特にアクセルを深く踏み込んだ状況ではエンジンの主張が強く、ハイブリッド感はあまり感じられなかった。
対して新世代ハイブリッドの主役は完全にモーターである。
発進時にはバッテリーに蓄えた電力で静かなスタートを切り、通常走行のほとんどをモーター駆動でこなす。アクセルを踏み込んだときもエンジンが発電をアシストして、やはりモーターで走る。エンジンが直結するのはハイブリッドが燃費的に一番苦手とする高速クルージング時くらいで、その切り替わりもほとんどわからない。
トヨタのハイブリッドや日産 e-Powerとはどう違う!?
モーターの高出力化も、こうした制御に大きく貢献している。走行用モーターはその上限回転数を10900rpmから13300rpmへと向上させ、トルク特性は54%も高まった。ちなみにこれは、1.5リッターターボエンジン以上のトルク特性だという。またモーター駆動による損失低減は、14.1%も低められた。
こうしたパワーユニットの改良は、たとえばエンジンを完全なる発電機として用いる日産 ノート eーPOWERに比べて、エンジンの存在を上手にマイルド化した。またヤリスのハイブリッドよりも、静粛性が高いと感じる。
しかしアクセル開度に応じたエンジン回転上昇感の自然さや、有段フィールを与えたモーターのステップ制御があまりに巧みなせいか、なぜだかノート e-POWERに比べてモーターで走っている実感があまり感じられないのは意外だった。
同じシステムを積むインサイトやステップワゴン ハイブリッドよりも車重が軽いこともあり、「静かなガソリン車」として上質に走ってくれるのだが、その制御の素晴らしさにほとんど気づかず走ってしまうのは、少しもったいない。
ハイブリッドはまさに「クラスを超えた上質さ」
最も完成度の高いパッケージング
つまり新型フィット ハイブリッドは、EVというよりも既存のハイブリッド車として考えると、その走りがクラスを超えて上質だと言える。
そしてここまで動力性能が高いとなると、もっと小さなエンジンでも良かったのではないか? と感じた。
それを技術者に尋ねてみると、確かにその通りだと彼らは認めていた。
しかし1.5リッターエンジン+2モーターの組み合わせは現状最も完成度が高いパッケージングであり、さらにより速度域が高く、航続距離も長い欧州でこれをスタンダードとすることから、新型フィット ハイブリッドは1.5リッターとなったのである。
こうした走りに対しては、上級グレードである「リュクス」のレザー内装がぴったりだと感じる。またモーターやバッテリーを搭載して増した重量を、そのサスペンションと16インチタイヤがしっとりと支えてくれるのも心地良い。
まとめ:動的性能アップはお見事!
ライバルはヤリス!
総じて新型フィットは、そのコンセプトを貫きながらも、見事に動的質感を向上させたと思う。
コンパクト化をしてまで走りを磨き上げたヤリスと、マルチパーパスコンパクトカーとしてまったくぶれないフィット。
果たしてどちらが世間に、いや世界に受け入れられるのかが、今から非常に楽しみだ。
[筆者:山田 弘樹]