LGBTカップルが一緒のお墓に入るには… 〝ガイドライン〟完成 約款修正や祭祀主宰者の指定提案

 夫婦仲むつまじいことを意味する「偕老同穴(かいろうどうけつ)」は、文字通り読めば偕(とも)に老い(死後)同じ(墓)穴に入ること。こんなことわざがあるように、ここ日本では長年連れ添った二人が墓に一緒に葬られることは〝当然〟とされてきた。では、LGBT(性的少数者)のカップルの場合はどうなのだろう。

 法律上の婚姻関係がないことで断念したり、親族などの反対に直面したり。古くからの慣習や偏見からくる障壁がいまだに存在しているのでは―。こうした問題意識のもと、LGBTカップルの希望をかなえるために、ある企業が寺院向けの「ガイドライン」を作った。

 作成したのは樹木葬企画販売や寺院支援などを行う株式会社「アンカレッジ」(東京都港区)。弁護士などでつくる団体「LGBTとアライのための法律家ネットワーク」の協力を得て、11月に発表した。

 同社によると、墓地の使用に関する法律(「墓地、埋葬等に関する法律」)はLGBTカップルが一緒の墓に入ることを禁じてはいない。ただ、そもそもがLGBTカップルを想定していないため、「明確な規定がない」(同社)と言った方が正しい状況だという。はっきりとした規定がないため〝慣習〟や〝伝統〟が幅をきかせ、当事者が希望してもあきらめざるを得ない事態が考え得るという。

 こうした現状を踏まえ、ガイドラインは寺院などの「墓地管理者」がとるべき対応を示している。その一つが墓地の使用について定めた「契約約款」の修正だ。

 現在、多くの墓地管理者が定める契約約款は、厚生労働省が2000年に示した「墓地使用に関する標準契約約款」(標準契約約款)に沿って作られている。

 そこでは、墓に埋葬できるのは「使用者の親族及び縁故者の焼骨」とされている。ガイドラインは、この規定の「縁故者」に続いて次のような一文を加えるよう提案する。

 「使用者の親族及び縁故者又は当該使用者を祭祀主宰者と指定した者の焼骨を埋蔵することができる」

 この修正の理由をガイドラインは次のように説明する。標準契約約款の「解説」は、墓地に埋蔵できる対象者は「親族・縁故者」に限らないとしていること。過去の最高裁の事例判断などが、遺骨は「祭祀主宰者」に帰属すると示していること。以上から、契約約款を上記のように修正するよう促している。

 ガイドラインはさらに、LGBTカップルが互いを祭祀主宰者に指定する文書を作成し、寺院などの墓地管理者に保管することも助言する。文書があることで、他の「墓地使用者」(檀家や親族など)から反対意見が出たとしても、墓地管理者は当事者の意向を尊重して対応できるようになるという。

 ガイドラインの主な内容をみてきたが、そもそもなぜ一企業が作成することになったのだろう。中心となって進めたアンカレッジの伊藤照男社長によると、きっかけは海洋散骨を手掛ける企業の経営者から聞いたLGBTの人たちの〝終活〟事情だった。

 その経営者が語るには、海洋散骨の希望者の中にはLGBTの人たちが目立つという。なぜ海洋散骨なのか。もちろん、海への散骨そのものを望む人もいたが、「カップル同士で入れる墓がなく、選択肢がない」と語る人もいたという。

 選択肢がないということは、自分の死に方・弔われ方がイメージできないということ―。現状をそう受け止めた伊藤社長。「LGBTであるというだけで、一緒に墓に入りたいという願いをあきらめる必要があるのか」と考え、作成に取りかかった。

都内の寺院で開いた勉強会で、ガイドラインについて説明するアンカレッジの伊藤照男社長=10月23日(アンカレッジ提供)

 ガイドラインの完成以降、伊藤社長は都内や京都市内の寺院に出向き、僧侶向けの「勉強会」を開いている。お寺がLGBTの人たちの「駆け込み寺」にもなってほしいという思いからだ。伊藤社長は言う。

 「今の日本社会でLGBTの当事者は生きづらさを感じている。その社会のなかにあって、仏教者はどんな立場をとるべきか。お墓を例にとれば、〝みっともない〟などと言って反対する人の側ではなく、当事者に寄り添って対応してほしい。今回のガイドラインはそうした価値を提示する意味も込めています」

 ガイドラインは同社のHP(https://anchorage.co.jp/lgbt/)で公開されている。今後、各方面から意見を参考にしながら順次改訂していくという。(共同通信=松森好巨)

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