“まちの本屋さん”がまた1つ…150年の歴史に幕 本離れにネット書店 5代目「私の代で…じくじたる思い」 長野

長野市の中心市街地で150年以上続いてきた老舗書店が、この年末、閉店します。また一つ、消える「まちの本屋さん」を取材してきました。

明治~昭和初期の店舗(提供:朝陽館荻原書店)

長野駅から善光寺へと続く表参道・中央通り。そのほぼ中間に「朝陽館荻原書店」はあります。

現在の朝陽館荻原書店

(リポート)
「その歴史を物語るのが、あちらの看板です。幕末の志士で書家の金洞仙史の揮毛によるものだそうです。店内は落ち着いた雰囲気ですね。奥行きがあって、かなり広いですね」

幅広いジャンルの書籍が並ぶ店内は、まさに「まちの本屋さん」です。

(リポート)
「本の表紙がこちらを向いているものが多いので、わかりやすいですね」

テーマごとに集められた書籍。スタッフの思いが伝わるようなラインナップに、興味がそそられます。

朝陽館荻原書店のブックカバー

創業は明治元年。お経の本や書籍を販売したのが始まりです。ブックカバーになっている明治時代のちらしに、当時の様子が伺えます。店の奥にある土蔵には、当時の本が残されています。

6代目・荻原英記さん:
「当時は本を印刷して(店まで)持ってくるのが大変だったので、版木を購入し地元の本屋が刷って作ったものを販売していたそうです」

(リポート)
「よく見ると凹凸があって。文字ですね、この辺が」

当時の書店は印刷所も兼ねていました。こちらは火鉢の囲いに使われ、たまたま残っていたもの。紙を当てて、1枚1枚、文字や絵を印刷していたそうです。

店は、明治9年(1876年)に「朝陽学校」として開校した、旧後町小学校の創立にも関わるなど、まちの発展にも貢献。明治維新を経験し知識や教養の必要性を感じた創業者の意思を受け継いできました。今の店舗に改築したのは1998年の長野オリンピック直前でした。

5代目店主・荻原英司さん:
「(当時)会社から帰る人たちで、閉店までにぎわっていた。本屋があれば『ちょっと寄ってみよう』と。それだけ集客力があった。当時は」

朝陽館荻原書店の店内

それから20年。周辺の人口は減少しネット書店や電子書籍が台頭。中央通り沿いに9軒あった書店は、今や2軒です。

5代目店主・荻原英司さん:
「(書店の今後が)正直、予測がつかない。若い世代の本離れが進み、業界全体の市場も半分以下に。長野の活字文化をつないできた。私の代で閉じるのは、じくじたる思い」

江戸時代からある蔵は、20年前、ギャラリーに改装。様々な催しに使われ、交流の場になってきました。あさって14日から始まる「とびだす絵本展」は、毎年クリスマスシーズンに店が主催してきた人気企画。絵が飛び出したり、音が出たり様々な「しかけ絵本」が並びます。

今年で最後の「絵本展」

6代目・荻原陽子さん:
「見る角度、光の当たり具合で表情が変わる」

本は全て実際に手に取り開くことができます。絵本展は次で10回目。本の楽しみ方を伝えてきたこの企画も今年で最後です。

6代目・荻原陽子さん:
「いろんな方に(本を)贈る相手がいて、楽しんでいただいていたと感じる」

買い物や仕事の帰りにぶらりと立ち寄れる本屋さん。常連客からは閉店を惜しむ声が相次いでいます。

長年の常連客:
「店長さんは本が好きでここにいる。もう本の話ができないじゃない。悲しくて、悲しくてしょうがない」

職場が近所で50年以上通う客:
「小学生の頃、店をリニューアルする前からフラッと寄らせてもらっていた。店閉めた後も、この場所で何かご縁があればいい」

5代目店主・荻原英司さん:
「インターネットで本を買うのもいいけど、本屋で選びながら、『あ、こんないい本があった』っていう、本当に本が好きな人はいる。そういう人に来てもらえるような本屋は(これからも)求められると思う」

明治から大正、昭和、平成と150年、まちに寄り添い続けた老舗書店。令和元年の大晦日に灯りを消します。

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